2012 Fiscal Year Research-status Report
ガバナンス・コントロールの理念と方法:デフレ脱却を目指す不況の管理会計学
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23530583
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大下 丈平 九州大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (60152112)
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Keywords | ガバナンス・コントロール / マネジメント・コントロール / フランス |
Research Abstract |
本研究は以下の4つの論点を巡って進められている。それは主として管理会計・コントロールの基本原理と発展の行方に関するものである。 ①管理会計の発展は企業組織の経済モデル化の次元で考えるべき、②マネジメントの主たる領域が技術・生産志向性から組織・市場志向性へと移行:そのことがコントロールのパラドックス性を認識させた、③マネジメント・コントロールはそのパラドックスを緩和するための方法論の体系として再編されるべし、④企業不祥事、会計不正を背景とした内部統制論議はガバナンスをコントロールする方策を考えさせている(ガバナンス・コントロールの構想) 本年度の研究実績は、単著「コントロールのパラドックスと管理会計-『レレバンス・ロスト』の意義を考える-」(『九州経済学会年報第50集記念号』2012年 12月、19-31頁)に集約されている。これは、日本管理会計学会九州部会第37回大会での報告内容と日本原価計算研究学会第38回全国大会での報告内容をまとめたものである。特に本論稿は上記論点の②,③を論じながら、論点①にまで言及している。端的に言えば、次の3つの事象、①日本企業における生産現場の競争力維持と、②資本市場での価値創造力および③会計・本社経営企画部の機能強化の、3つの間のコントロール上のパラドックス的特性を認識し、それを意識的に活用する視点がいま求められていることを論じている(②,③の論点)。そして、さらにそのことが、管理会計の発展は企業組織の経済モデル化の次元で考えるべきことを示唆していることを時間主導型活動基準原価計算(TDABC)の展開を通して明らかにしている(①の論点)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究がおおむね順調に進展している理由を、次の4点ほどにまとめることができる。 ①単著「コントロールのパラドックスと管理会計-『レレバンス・ロスト』の意義を考える-」(『九州経済学会年報第50集記念号』2012年 12月、19-31頁)の執筆と日本管理会計学会九州部会第37回大会と日本原価計算研究学会第38回全国大会での報告を行うことができたこと。 ②研究を遂行する上で、申請者のガバナンス・コントロールと類似の構想を「戦略的ガバナンス」論の中に見出し、これを先の論文の中に有効に取り入れることに成功したこと。さらにその研究成果を大学院教育(博士論文と修士論文の指導)の中においてもフルに活用することができたことである。 ③本研究の支援研究者の一人であるトヨタ自動車の今井範行氏が構想する「デュアルモード管理会計」の仕組みを申請者のフレームワークの中に取り入れることができたことと。そして、その成果をやはり大学院教育の中において活用することができたことである。 ④最後は、研究途上で、Morten Huseらの『The Value Creating Board: Corporate Governance and Organizational Behaviour』のなかに、これまた申請者のガバナンス・コントロールと類似の構想を見出したことである。ここから、申請者のアイデアの方向性がそれほど間違ってはいないことを確信することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ガバナンス・コントロール論を構想する過程で得た4つの論点(仮説)を、グローバル経営が直面する、①日本企業における生産現場の競争力維持と、②資本市場での価値創造力強化の要請および③会計・本社経営企画部の機能強化との関わりで、その妥当性を検討・検証していくことになる。これによって、ガバナンス・コントロールの枠組みに、より豊かな形を与えていくことができるであろう。 また、研究途上で出会った類似の構想であるMorten Huseらの『The Value Creating Board: Corporate Governance and Organizational Behaviour』における取締役会の価値創造機能についても、それは今後の研究計画の一端をなすものと思われる。さらに、先の論点の①に関して、Kaplan R.S. And M. E. Porter (2011)を素材に、ヘルスケア領域でのTDABCの役割を検討することを通して、原価計算の本質的機能を闡明する試みを行うことも意図している。 平成25年度はフランスでの調査活動とそこでの研究者との議論を予定しているが、できるならばその機会にMorten Huseらが活動するノルウエイまで出かけていってヒアリングをすることも視野に入れている。そして、今後も、そうした新しい論点の分析を通して、いま求められている「管理会計論から提起できるデフレ脱却の道筋」についての手掛かりを得たいと思う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画は、予定通りである。まず、物品費に関しては、コーポレート・ガバナンス、マネジメント・コントロール、管理会計、内部統制などの領域の著作・資料を購入する予定にしている。また旅費は、今年度は上記の課題を達成するために欧州・フランスへの海外調査旅費を計上している。また国内旅費は、日本会計研究学会(中部大学)とアジア太平洋管理会計学会(名古屋大学)での報告を行うために使用する予定である。 人件費・謝金は、九州大学の大学院生・学生を雇用し、データの整理とパソコンへのインプット作業を行ってもらう予定にしていることは、昨年同様である。
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