2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530593
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
伊藤 和憲 専修大学, 商学部, 教授 (40176326)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | コーポレート・レピュテーション |
Research Abstract |
平成23年度の計画は,国内企業を中心とした仮説設定のために予備的調査を実施する計画であった。インタンジブルズの一つであるコーポレート・レピュテーションの研究としては,レピュテーションに対する管理会計の貢献である測定について研究する。特定の企業を対象として,レピュテーションの管理と測定を研究し,論文にまとめる。この部分の研究実績については,4名による共同研究を行い,論文を作成した。論文の実証研究の部分を発展させて,日本会計研究学会で報告した。 また,「戦略マップとBSC」を研究することが,インタンジブルズのマネジメントに貢献すると考えられる。とりわけ「学習と成長の視点」でどのような目標を設定すべきかについては,実務で戦略マップを構築するときの大きな課題である。「内部プロセスの視点」の準備段階を評価するというレディネス評価を実践している企業へ訪問調査を行う計画であるとした。この部分の研究実績については,8社のインタビュー調査を行ったが,レディネス評価している企業はほとんどなかった。しかし,製造業の新製品開発のコストマネジメントである原価企画活動をレディネス評価している企業を発見できた。これを論文にまとめて日本管理会計学会で報告し,論文にまとめ投稿した。 さらに,業務計画への展開として,戦略を業務計画へいかに連動すべきかを検討する計画であった。方針管理などのTQMとの連動が重要だと考えるからである。事例研究としては,関西電力などBSCと方針管理を連動している企業の調査を行う計画であった。残念ながら東日本大震災がありその影響で電力会社はどこも大わらわの状況である。関西電力へのインタビューを依頼することができず,この研究は行うことができなかった。BSCと方針管理を連動させて効果を上げている企業探しから始めなければならず,この研究は将来の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の計画は大別すると3つの課題をとりあげた。第1の課題は,コーポレート・レピュテーションの測定についての研究である。第2の課題は,レディネス評価の事例研究である。第3の課題は,BSCと方針管理の連動の事例研究である。 第1の課題については,日本の一部上場企業を対象として意識調査を行った。その結果,組織価値が社会価値に影響を及ぼし,社会価値が経済価値に影響を及ぼし,結果として財務業績が向上するという仮説が検証された。このタイプの実証研究は米国では行われてきたが,日本での実証を初めて実施できた。これを論文にまとめるとともに,海外での学会報告に備えて英文論文として投稿したところである。 第2の課題については,米国製造業でのスキル・アップという人的資産のレディネス評価は知られている。しかし,ITのような情報資産や組織文化やリーダーシップといった組織資産のように測定しにくいものについては,アイディアはあったとしても事例までは明らかにされていなかった。日本企業をインタビュー調査しても好事例は発見できなかった。BSCを実践しているわけではないが,新製品開発のコストマネジメントと絡めて組織資産や情報資産を測定し管理している事例を発見できた。これを学会報告して,論文にまとめて投稿したところである。 第3の課題については,BSCと方針管理の事例として関西電力を予定していた。他に好事例を知らなかったために,関西電力へのインタビュー依頼をあきらめたことで,まったく研究できなくなってしまった。 要するに,2つの課題については当初の計画通り順調に進めることができた。しかし,最後の課題はまったく頓挫している状況である。事例探しから開始すべきか,それとも方針管理と連動したようなBSC導入を支援する企業を探すか検討中である。以上からおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
戦略を業務計画へ落とし込む方法としてどのようなものが効果的かという研究課題を持っている。関西電力でBSCと方針管理がうまく連動しているという事例紹介があったので,その点をインタビューで確認する予定であった。ところが,東日本大震災の影響で,関西電力へのインタビューができないために,BSCと方針管理の連動を行っている事例研究は頓挫している状況である。 この研究を推進するためには,2つの方策が考えられる。第1の方策としては,BSCと方針管理を連動している企業の事例を探すところから開始することが考えられる。これまでもこのような事例を探してきて関西電力しか見つからなかったので,すぐに探し出せる可能性は極めて低いといわざるを得ない。第2の方策は,BSC導入支援している企業に対して,自ら戦略を業務計画に落とし込む事例を構築するということが考えられる。BSCを導入している企業は,戦略を業務計画へ落とし込む具体的な方法として,予算管理や方針管理,目標管理などがある。これらのうちどのような落とし込みが効果的なのかを知ることが目的である。BSCと方針管理の相性が最もいいと思われるので,これらの連動を構築する上での知見を探っていきたいと考えている。 ところが,BSCの導入を支援しているとはいえ,相手のある話であり,必要としないアイディアを伝えても迷惑をかけるだけである。また,すぐにBSCと方針管理の連動をしたとしても,その効果が出てくるのはしばらくたってからである。いろいろな方策のなかで方針管理を導入するわけではないので,本来の研究目的とは違ってしまう可能性もある。しかし他に方策が考えられない以上,第2の方策で研究を進めていかざるを得ないというのが実情である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,前年度までの国内調査もしくは予備的調査を海外子会社に展開して,仮説設定の本格的調査を実施する。具体的には,日本親会社で実践しているBSCが海外でどのように展開されているかを追認する研究計画を立てていた。この研究は3つの調査からなっている。第1は,BSCと成果連動型報酬制度の関係である。第2は,BSCと方針管理の関係である。第3は,BSCと予算の関係である。 第1のBSCと成果連動型報酬制度は,すでに明らかとなっている日本のリコー本社の実態を確認してから,海外子会社への訪問調査を予定していた。主として,戦略志向の組織や成果連動型の報酬制度についての調査である。第2のBSCと方針管理の連動については,関西電力から紹介してもらう予定であった。第3のBSCと予算の関係では,戦略学習の機能不全となる可能性があることを論文にまとめている。これを海外調査でも検討する予定であった。 関西電力には震災の影響で本社に調査に行くことができず,また,リコー本社からは海外調査をしないように勧告されてしまった。BSCと予算の関係の調査は研究目的としては可能であるが,実質的に海外調査の研究目的を再検討せざるを得なくなってしまった。 平成23年度には,幸運にも国内調査で新製品開発のコストマネジメントを対象として,戦略実行のレディネス評価について研究を行うことができた。レディネス評価を行う新製品開発は親会社主導であるという。海外子会社のレディネス評価は親会社でも解決しておらず,海外では課題すらないという。そこで,海外での組織資産マネジメントの実態調査に切り替えることにした。つまり,平成24年度には海外企業へ組織資産の測定と管理に関する調査を実施する。この海外調査のために助成していただいた資金を使う予定である。
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