2011 Fiscal Year Research-status Report
効率的な経営者報酬契約の遂行と会計情報の機能に関する実証的研究
Project/Area Number |
23530608
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
乙政 正太 関西大学, 商学部, 教授 (60258077)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椎葉 淳 大阪大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (60330164)
首藤 昭信 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (60349181)
岩崎 拓也 関西大学, 商学部, 助教 (30611363)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 経営者報酬 / 会計情報 / 会計利益 / 事後的清算 |
Research Abstract |
経営者報酬に関する情報開示を強化しようとする動きが日本で急速に広まっている。その主要な論点は経営者報酬額の個別開示であるが,経営者報酬契約を効率的に遂行させるという視点において,経営者報酬に関する情報開示の強化は金額表示よりも算定方法の表示に向けられてもよい。近年,投資家・株主が負っている投資リスクを反映したペイ・フォー・パフォーマンスを重視した(業績連動型)報酬制度への転換が指向されつつあるが,その実施の普及ペースはまだ遅い。業績連動型の経営者報酬が経営者のインセンティブを高める役割を果たしているかどうかは,まだ少数ではあるものの,実証的な課題として取り扱われはじめている。本研究の目的は,さらに一歩踏み込んで,契約理論に基づきながら,効率的な経営者報酬契約を遂行するために会計情報(特に,会計利益)がどの程度有用な役割を果たしているのかを実証的に分析することである。効率的な経営者報酬契約は経営者と株主の間の利害の不一致を調整する役割を果たすが,特に,超過報酬という概念を新機軸として利用し,経営者の超報酬獲得を抑制するような会計実務(たとえば,保守主義)が有効に働いているかどうかを検証しようとしている。超過報酬の考えは比較的新しいものであり,従来の研究成果と比較しながら,業績連動型経営者報酬契約に関する文献研究を行ってきた。それとともに,超過報酬という概念を定義し,超過報酬をより正確に求めるために,期待報酬に関する推定モデルにどのような独自の業績変数を加えるべきかを検討してきた。そして,実際に支給された経営者報酬から推定された期待報酬を差し引き超過部分がどの程度存在するかを確認する作業を行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
経営者報酬,財務データ,ならびに株価データに関するデータベースを準備し,分析に必要となるデータを抽出し,そのデータから実証分析に必要となる変数を選出した。そして,統計的検証を行い,今年度の研究期間に," Excess Executive Compensation and the Demand for Accounting Conservatism"というワーキングペーパーを仕上げ,SSRN(SOCIAL SCIENCE RESEARCH NETWORK)というサイトにダウンロードした。本研究計画では海外ジャーナルへの掲載を目指すことにしているが,超過報酬の測定においてなお改善する余地があるので,まずは国内外の学会やレファレンスに参加し,論文のブラッシュアップを図りたい。そこで得られたコメントを参考にしながら,今後の論文の提出先などを決定していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度についても,経営者報酬契約が効率的に実施されているかどうかを探っていきたい。一つの調査方法は,事後的清算問題 (ex post settling up problem) を未然に防ぐ報酬システムが設計されているか否かを検証することである。 先行研究によれば,事後的清算問題が起こる状況は,経営者が未実現利益(つまり,将来的に企業に有利な影響を与えるグッドニュース)について過大に現金報酬を受け取っている場合である。未実現利益が事後的に成立しない場合,企業にとって経営者から過大な現金報酬取り分を返還させることは容易ではない。同様に,事後的清算問題のフレームワークのもとで,未実現損失(つまり,将来的に企業に不利な影響を与えるバッドニュース)についても経営者への現金報酬はそれを予期して支給されるべきである。そうでなければ,経営者の間違った意思決定の結果について,その結果から逃避することができる機会を経営者に与えてしまうからである。このことから,効率的な経営者報酬契約を遂行しているかどうかの判断基準として,事後的清算問題が起こることを前提に,経営者報酬契約が将来起こりうる業績結果に対して過大な報酬を与えないように仕組まれているかどうかが重視される。日本企業を対象にした従来の実証分析によると,経営者報酬と会計利益の間に有意なプラスの関係があるという証拠が支持されている。つまり,日本企業において,経営者報酬には基本給与のような固定的な部分だけではなく,業績連動的要素も柔軟に盛り込まれているのである。しかしながら,わが国では,事後的清算問題を軸にした効率的な経営者報酬契約の仕組みの存在について実証的な分析はなされてこなかった。本年度の研究目的は,事後的清算のフレームワークを利用した海外の先行研究に基づいて,効率的に経営者報酬の支払いがなされているかどうかを調査することである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
他大学の研究者との意見交換を頻繁に行う予定にしているので,国内旅費が必要となる。また,海外での発表を予定しているので,海外旅費が必要となる。ならびに海外での研究分担者がいるために,研究上の直接の相談をするために海外旅費が必要となる。データベースについては,特に財務データ,株価データ,経営者報酬データについてデータ更新を行う。これらについては毎期のデータ更新が不可欠で,つねに最新のものを追加しておく必要性が高い。電子化されていない情報については,直接にデータの手入力を行うために,大学院生のアルバイトを用いる。そのために,大学院生に対する謝金の必要性がある。同時に,収集した資料のデータベース化を行い,実証分析を行うためには,高速の情報機器が必需品となる。デスクトップ型パソコンに加えて,ハードディスクとプリンターを要する。統計処理ソフトについては,近年購入したものがあるが,OSの主流となるバージョンで作動する最新の統計処理ソフトを用意し,データ処理能力を高める必要があり,バージョンアップならびに新規購入に備えて消耗品費を計上している。その他に,計量経済学,財務会計学,ファイナンスに関する洞察を深めるための専門図書を購入する。また,海外ジャーナルへの投稿するための投稿料も見込んでいる。
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