2011 Fiscal Year Research-status Report
国際財務報告基準に基づく財務報告の比較可能性と透明性の解明
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23530610
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
杉本 徳栄 関西学院大学, 経営戦略研究科, 教授 (50206695)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際財務報告基準 / 国際会計 / 財務報告 / 比較可能性 / 透明性 / 証券取引委員会 / 企業会計審議会 |
Research Abstract |
会計基準のコンバージェンス(収斂)の推進に加えて、将来を見据えた国際財務報告基準(IFRSs)適用の決定が米国と日本に差し迫っている。このIFRSsの適用が、信頼性の高い財務報告を提供すること、より具体的には財務報告の比較可能性と透明性を向上させるという役割期待の妥当性について検証を行なうことが本研究の目的である。この目的を達成するために解明すべき研究課題は、米国と日本によるIFRSs適用(任意適用と強制適用)の政策論争に関わる制度的・政策的解明と、IFRSs導入による会計の品質の影響分析やその経済的帰結等の実態的・実証的研究による解明である。 平成23年度の研究実績は、主として前者の研究課題について取り組み、米国証券取引委員会(SEC)と金融庁・企業会計審議会によるIFRSsの強制適用の是非の判断に関わる制度的・政策的解明に努めた。この制度的・政策的解明が十分に行なわれないと、IFRSs導入に伴う適用企業の特性の分析、経営者の利益調整のインセンティブをはじめ、IFRSs財務報告が果たして信頼性の高い財務報告であるかを実態と実証によって解明することへとは結び付かない。その意味から、会計基準のコンバージェンスを推進してきた米国と日本におけるIFRSs適用の是非に関わる政策論争を検討することは、重要かつ基本的課題である。IFRSs導入について、米国のSECコミッショナーやスタッフによる公式見解と議会証言に加えて、金融庁・企業会計審議会の審議内容などを詳細に検討することで、これまでの日米両国におけるIFRSs導入に関わる動向、IFRSs導入の推進派と慎重派の見解の根拠、今後の方向性などを見出した。 併せて、IFRSs強制適用を開始している究極のフルアドプション国である韓国の規制と実態についても検証を行ない、IFRSs受け入れの方法とその実像をより具体的に提示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、制度的・政策的解明と実態的・実証的研究を通じて、IFRSsに基づく財務報告の比較可能性と透明性、ひいてはIFRSs財務報告の信頼性について明らかにすることを目的としている。 米国と日本におけるIFRSs適用(任意適用と強制適用)の政策論争に関わる制度的・政策的解明については、両国ともIFRSsの強制適用の是非の判断時期を延期してその結論が下されていないが、それまでの規制動向や問題点等に関わる研究成果は、平成23年度に論文や学会報告等を通じて公表した。 また、韓国会計学会の学会誌『会計ジャーナル』での「IFRSs導入事例特集号」の収録論文等を翻訳した『事例分析 韓国企業のIFRS導入』(中央経済社、2011年)を別途出版しており、本研究の研究実施計画に示した韓国での2009年ないし2010年におけるIFRSsの任意適用企業の特性の解明に資するものとなっている。韓国でのIFRSs導入に関わる会計制度やその任意適用の事例分析に加えて、2011年からのIFRSs強制適用の規制と実態およびその影響等の研究成果は、現在、「検証IFRS特集」の連載において現在、順次公表している。
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Strategy for Future Research Activity |
SECは、米国におけるIFRSsの強制適用の是非の判断を2011年末までに決定するとしていたが、それを延期した。また金融庁・企業会計審議会も、2012年をいわゆる目標期日とした日本でのIFRSsの強制適用の是非について抜本的に見直しており、事実上、その決定を延期している。引き続き、IFRSsの強制適用の是非の判断に関わる制度的・政策的解明を行なわなければならない。 とくに、近年の日本の会計制度設計は、IFRSs適用抜きでは語れない。日本のIFRSsの強制適用の是非についての抜本的見直しは、政治主導によるものであり、これまでの政治主導の教訓とも対比しながら今般の会計制度設計を金融行政や政治との関わりからより具体的に検討を加えなければならない。 そこで、日米両国でのこれら決定延期の背景について検討するとともに、SECと金融庁によるIFRSs強制適用の是非の判断のあり方について、SECの「ロードアップ規則案」やSECスタッフの「作業計画(ワークプラン)」などでの「重要な諸課題」や、企業会計審議会の「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」での「IFRS適用に向けた課題」、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議で提示された「今後の議論・検討の進め方」での論点に対する取り組みの実態と文献考証などをもとに研究を推進する。 また、IFRSs適用についての制度的・政策的解明とともに、IFRSs適用による会計の品質への影響分析並びにその経済的帰結の解明に向けた実態的・実証的研究も行なう。韓国と日本でのIFRSs任意適用企業および韓国でのIFRSs強制適用企業の特性を分析し、またIFRSsへの転換時における経営者の利益調整のインセンティブ分析を実施し、IFRSsに基づいた財務報告の比較可能性と透明性、ひいてはIFRSs財務報告の信頼性に関わる証拠の基盤形成に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、IFRSs導入による会計の制度設計のなかで、規制当局である米国のSEC、日本の金融庁および韓国の金融委員会・金融監督院による規制とその実態の解明に使用する。 研究目的の1つである米国と日本によるIFRSs適用の政策論争に関わる制度的・政策的解明については、平成23年度の研究成果等を踏まえて、米国SECを訪問し、IFRSs導入問題についての聴き取り調査や関連情報・資料の収集に努め、制度設計のあり方に具体性を持たせる。また、金融庁・企業会計審議会総会の傍聴および金融庁企業開示課や経済産業省企業会計室並びにIFRSs任意適用企業の担当者と意見交換などを行なう。併せて、IFRSs強制適用の先行事例でもある韓国のIFRSs定着に向けた規制と実態の検証のために、金融委員会・金融監督院などでの聴き取り調査や関連情報・資料の収集も行なう。 もう1つの研究目的であるIFRSs導入の実態的・実証的研究については、日本と韓国におけるIFRSsの任意適用企業と強制適用企業に関わる各種情報・資料の収集に加えて、その企業サンプルをもとにした分析にも研究費を使用する予定である。 その過程で専門家からの専門知識の提供も受ける予定であり、規制当局の各種規制や企業に関わる各種情報・資料の収集は、電子開示情報や各種データベースをはじめ、IR情報などを利用する(レンタル費や通信費などを伴う場合もある)。また、IFRSs適用企業に関わる研究成果を、関係する学会などで報告する予定であり、その際に生じる外国語論文の翻訳や校閲などにも研究費を使用する予定である。
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Research Products
(8 results)