2011 Fiscal Year Research-status Report
公正価値による財務報告は会計記録の意義にどのような変質をもたらすか
Project/Area Number |
23530615
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
工藤 栄一郎 熊本学園大学, 商学部, 教授 (30225156)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 会計記録 / 国際財務報告基準IFRS / 公正価値会計 / 会計記録の社会性 |
Research Abstract |
平成23年度の研究目的は「公正価値による財務報告の動向確認と会計記録の社会的証拠性の歴史的検証」であった。 11月にイタリア・ベニスで開催された国際学会「国際会計研究教育学会IAAEW」に参加し、主要国で実践されている、国際財務報告基準IFRS・公正価値会計における新しい会計教育の現状と課題について多くの知見を得ることができた。また、3月にはオーストラリアに出張し、IFRS導入先進国である当地の大学(メルボルン大学・ディーキン大学・RMIT・ビクトリア大学)において会計教育の内容変化について聞き取りをおこなった。さらには、会計職業団体であるCPAオーストラリアにおいて、実務家の育成教育における教育内容についても聞き取りを実施するとともに資料の提供を受けた。 また、11月のイタリア出張においては、さらに、ボローニャ・フィレンツエ・パルマなど中世/ルネサンス期に商業都市として繁栄したところに現存する会計帳簿、会計記録について調査するとともに、会計史研究者(L・ザン(ボローニャ大学教授)、J・ガラッシ(パルマ大学教授)、A・チローニ(パルマ大学教授)等)との交流のなかで、会計記録が社会的に必要となった背景とそのために備えた記録の要件などについて調査研究を進展させた。 なお、公表された研究成果としては、日本簿記学会での報告と日本会計史学会のシンポジウム・パネリストとしての2つの報告、ならびにその報告原稿(平成24年度に公表予定)などがある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の予定していた研究目的は、11月のイタリア・ベニスでの国際会計教育研究学会への参加、ならびにその後のイタリア諸都市での資料調査と研究者との交流、3月におけるオーストラリアでの各大学での訪問調査と会計職業団体であるCPAオーストラリアでの聞き取り調査などで概ね達成することができた。だが、当初のスケジュールからすると、とくに、イタリアでの研究活動の成果は24年4月のヨーロッパ会計学会または8月のアメリカ会計学会での報告を予定していたのだが、報告希望のための論文締め切りが調査終了からいずれも短い期間であったことから学会報告での成果報告には間に合わなかった。 しかし、研究の内容そのものの進捗に関しては順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進の方向は大きく2つである。 1つは会計記録の本質に関する歴史実証的な研究の進展である。その対象として取りあげるのは無文字社会であったインカ帝国時代に会計記録の道具として利用された「キープ」(結縄)である。このキープがどのような目的でどのように使用されたのか、とくに当時の社会制度との関わりでもって歴史的に検討し、会計記録の社会的意義についての研究を実施する。 また、もう1つの方向は、国際財務報告基準IFRSに代表される公正価値会計と会計記録との間に存在すると思われる緊張関係についての検討である。IFRSあるいはその影響を受けているわが国の新しい会計基準のいくつかにおいては、当該会計基準が求めている会計処理と伝統的な会計記録の原理との間にある種の「かみ合わせの悪さ」が存在しているように見受けられる。そこで、いくつかの具体例を取りあげて、財務報告の原理と会計記録の原理の関係性について研究を進めていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度においては、8月におこなわれるアメリカ会計学会年次大会(ワシントンDC)において、とくに、会計的関心を持ってキープの研究を進めている研究者と交流を持つことと、この学会日程の前後に、ハーバード大学の「キーププロジェクト」を主催する研究者への聞き取り調査をおこなう。また可能であれば、メソポタミア文明において、やはり前文字時代に会計記録の道具として使用されたという「クレイ・トークン」の研究者であるテキサス大学の研究者とのコンタクトもとり、その学説についての教授をうけたい。このように、24年度の研究費は主としてアメリカ出張にあてられる。 また、会計基準、とくにわが国の会計基準における公正価値の影響について、東京・大阪を初めとする国内研究者への聞き取り調査をおこなうため、各地への出張を計画しており、そのための旅費が使用される予定である。 さらに、これまでと同様、関連分野の書籍や資料等の収集においても費用を使用する。
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