2012 Fiscal Year Research-status Report
論文・書籍の電子化にともなう査読制度の変容に関する文化生産論的研究
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23530618
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
佐藤 郁哉 一橋大学, 商学研究科, 教授 (00187171)
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Keywords | 査読 / 監査 / 比較研究 |
Research Abstract |
平成23年度までの研究成果を踏まえて、一方では、国内外の大学出版部、民間の出版社、学協会等における査読システムの歴史および現状について主として文献調査および聞き取りを中心にして作業を進めた。特に学協会については、みずからシニアエディターおよびレフェリーとして審査にあたってきた論文等の内容や審査プロセスについて(個人情報には十分配慮しながら)検討を進めてきた。また、それらのプロセスが電子化を通してどのように促進され、またどのような問題点を含んでいるのか、という点については、特に匿名性というポイントを中心にしてとらえてきた。 並行して、それら書籍、論文等の掲載がさらに大学の機関評価や自己評価に参照され、また、各種メディア、民間団体等からのランキング等にも使用される実態とその背景について、広い意味での監査(audit)という観点から検討をおこなってきた。その結果明らかになってきたのは、個々の研究者ないし研究プロジェクトの成果としての論文・書籍等の査読の範囲を超えて、研究成果が研究資金の傾斜配分に関連づけられていく動向が、世界全体で展開されている高等教育機関の役割の見直しと深く結びついているという事実である。 この動向は、高等教育というものを、グローバルな視点(教育政策のみならず、その市場性ないし疑似市場性)からとらえていくことの必要性と緊急性を改めて認識させるものであったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初構想していた書籍・論文の電子化にともなう査読制度の変容については、既に文献研究および聞き取り等を通じて知見が蓄積されつつある。その結果は、電子化が一方では査読をめぐるプロセスを円滑かつスピーディにおこなうことを可能にしていることを示している。しかし他方では、電子化によって膨大な量の投稿論文が特に新興国等を中心にして押し寄せるようになり、そのゲートキーピングのシステムがオーバーロード気味になっていることも確認できたことは、この研究の当初の目的からして重要な知見であったと言える。 また一方で、研究の途中から明らかになってきた、査読プロセスとそのアウトプットを含むより広い社会的・政治的・経済的文脈としての機関評価や研究資金、教育助成金等の傾斜配分という問題について解明の糸口が見えてきたことは、本研究によって最終的に得られると思われる知見が持つ社会的意義という点で大きな可能性を示しているものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、査読プロセスのいわばアウトプットとして書籍・論文として刊行されたものそれ自体が、著者(研究者・大学等の教員)および著者が属する組織(大学、研究機関等)を評価する上での第一義的な対象になるという点に特に重点を置き、またそれを国際比較を視野において研究を進めていくことを企図している。その際に特に重点を置くのは、事実上のリンガ・フランカとなっている英語による研究成果の公表というものが、英米圏以外の地域において、研究・教育の推進およびその評価に際してどのような影響を与えているか、という点である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究の推進方策を踏まえて、平成25年度においては、特に国際比較に重点を置くため、その現地での調査費用に対して研究費を重点的に使用することを計画している。特に、英国に長期滞在することによって、同国で四半世紀におよぶ歴史を持つ代表的な研究評価制度であるRAE(Research Assessment Exercise)が新たな制度であるREF(Research Excellence Framework)に切り替えられていった経緯とその帰結について検討していくことにしたい。
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Research Products
(4 results)