2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530620
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
伊豫谷 登士翁 一橋大学, 社会(科)学研究科, 特任教授 (70126267)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | グローバリゼーション / 場所 / 格差 / 人の移動 / アジア / ローカル / 移民研究 / コミュニティ |
Research Abstract |
本研究は、欧米中心に進められてきたグローバリゼーション研究(以下G研究)に対して、日本/アジアという場所から発信する課題や論点の考察を通して、社会学という分野におけるG研究の方法と課題の再検討を試みることにある。研究は、海外における研究会、学会報告と現地調査・ヒアリングなどと、国内での資料収集、調査、研究会の開催の二つに分けることができる。 海外では、オスロ大学において、日本の移民状況と格差問題について報告を行うとともに、オスロのテロ事件の背景について現地研究者のヒアリングを行った。アテネオ・デ・マニラ大学において、日本における移民研究が抱える課題について講演し、移民送出国の側からの移民研究のあり方について意見交換を行った。また、マニラ市の格差を示す事例としてゲートシティ/ショッピングモールを調査した。カナダで開催された全米アジア学会(AAS)においては、「移動から場所を捉える」セッションをもち、多くの参加者との意見交換を図った。またトロントのエスニックタウンと都市空間の展開についての調査を行った。これら学会やワークショップへの参加を通じて、地域研究が抱える課題、グローバルに対してローカルな場からの問題提起などに関して、欧米・アジアからの研究者との交流を拡げることができた。 国内においては、社会ならびに社会学とは何かという問いが、多くの論者によって発せられているが、若手研究者との間で、こうした問いの意味を再考するという問題関心のもとに、社会学が直面している課題について、理論の検討を中心とした研究会(仮称社会学研究会)を組織した。さらに、グローバリゼーションに対抗する理論や運動としてコミュニティへの関心が高まっており、G研究における中心的な課題である「グローバル対ローカル」をテーマとする研究会(通称G研究会)を組織して、定期的に研究会を開催している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、グローバル・スタディーズ・コンソルシアム(GSC)との交流を企図したが、日程が合わず断念した。ただ、GSCは、参加諸大学における既存の研究機関の抱える問題の持ち寄りとG研究のための大学院授業のカリキュラム編成上の問題などが中心課題となり、本研究の関心とは異なるために、今後の参加は再検討する。またアメリカのコロンビア大学のG研究者との交流は続いているが、それらは日本の他機関からの招聘によって来日する機会が多く、その際に交流を深めることが可能であり、このプロジェクトでの招聘は必要がなかった。 それ以外では、おおむね順調に研究は推進することができた。本研究では、グローバリゼーションを考察するための事象のひとつとして、近代とは区別された現代の人の移動を取り上げ、場所を前提としない人の移動の分析枠組みを再考することを通じて、従来の社会科学の方法的ナショナリズムが抱える問題を明らかにし、そこからアジア/日本という場におけるグローバルな課題を発信してきた。海外の大学や学会での報告を通じて、場所を所与としない本研究の問題関心に対して、一定の理解が得られたと思われる。日本の移民研究への関心も、日本の移民政策の遅れという従来の類型化された考えを修正することに成功し、日本の移民に関わる論点がポストコロニアルな課題の一つであることに対して共感が示された。 研究成果の発信については、海外の学会等での報告のほかに、研究会の組織化を進めてきた。これら研究会の成果は、『移動から場所を問う』の続編として、日本/アジアを場とした移動研究、人の移動という課題を社会科学と人文科学との接点として問題化するプロジェクトも、台湾では中国語訳が進められており、日本においても出版が決定している。また、G研究会の研究の焦点として、コミュニティ論の再検討を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
G研究の課題として「グローバルとローカル」が重要なテーマとして認識されるようになり、グローバリゼーションがアメリカナイゼーションとして均質な空間を創り出すといった議論は影を潜めつつある。とくに近年のアジア諸国の政治的・経済的な地位の変化、欧米諸国におけるアジア文化への関心の高まりにともない、ローカルな場としての日本ならびにアジアからのG研究の必要性が、日本を含むアジアのG研究者においても認識され始めている。 しかしながら、アジアのG研究では、個々の大学や研究者が、欧米の研究機関や研究者と結びついたネットワークに取り込まれ、アジア内での相互の研究交流の機会はきわめて少ない。この傾向を打破することは容易ではないが、そのためのステップとして本研究では、輸入学問としての社会学の再検討を、これまでの社会学理論を中心とした研究会、人の移動研究の研究会、グローバルとローカル研究会の、各々の研究成果を早急にまとめること、他の分野における研究プロジェクトとの交流を進める予定であり、その発信の場としてオーストラリアでのワークショップを予定している。また、中国、フィリピン、台湾、韓国などアジアの研究者とのこれまでの交流を継続するとともに、そこからアジアから発信するG研究の課題として何が可能か、再検討する。 3・11以降、社会学において、グローバリゼーションへの対抗としてコミュニティ研究が盛んに行われているが、グローバル化の過程でコミュニティそのもの基盤が失われてきていること、コミュニティと社会・国家との関係という従来のコミュニティ研究によって主題化されてきたことが看過されてきているなど、現在行われているコミュニティ論には問題が多い。本研究において、上記の研究会を通じて、重要な課題としてコミュニティのあり方について、再検討する計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度未使用額79,633円は端数であるため、平成24年度の調査費として使用する予定である。 研究プロジェクトは、大きく、海外での研究発表、研究者との交流並びに調査、国内研究者との研究会の推進並びに研究成果のとりまとめ、となる。 海外については、5月に上海大学において、同大学のカルチュラル・スタディーズ研究者との交流が決定している。中国の研究者の日本への関心は、最近、ますます低落しているが、しかし他方では問題を共有できる基盤が醸成されつつある。また、現在もっとも変貌の著しい上海という都市空間の調査を予定している。7月には、人文研究のプロジェクト(大阪大学)と協同して、「表象と移動」をテーマに、オーストラリア国立大学の研究者とワークショップを開催する予定である。また、10月には、フィリピンのマニラ首都圏において都市計画の中に組み込まれた格差の象徴として、ショッピングモール・ゲートシティの調査を行うことになっている。 国内については、定期的に開催する社会学研究会、夏頃をめどに出版を計画しているG研究会、最終稿の段階にある移動研究の3つの研究会の、合宿の開催費用や国内研究旅費(大阪など)が必要となる。また、5月のアジア共同体を巡るシンポジウム(広島市立大学)、日本移民学会での基調報告(関西学院大学)、日韓シンポジウム(神戸大学)への参加が決まっており、その際に日程を延長して諸分野の国内研究者と交流するための滞在費が必要である。また、新たに追加した研究テーマであるコミュニティ研究の最新の動向をフォローするために研究資料の購入、資料整理の謝金が必要となる。
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