2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530620
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
伊豫谷 登士翁 一橋大学, 名誉教授 (70126267)
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Keywords | 移民 / グローバリゼーション / 占領 / リスク社会 / コミュニティ / 場所 |
Research Abstract |
グローバリゼーションは従来の専門分化した研究領域を越えるテーマであり、学際的な研究体制が要求されるとともに、既存の専門領域において何が課題であるのかをつねに問い続けなければならない。本プロジェクトの課題は、グローバリゼーションといわれてきた事象にたいして、社会学という研究分野からどのような貢献が可能であるのかを問うことである。この課題を遂行する上で、他の研究領域とも連携した研究を行うことが要求される。 課題を遂行するために以下の3つの研究会を開いてきた。1.社会学における研究動向を分析する若手研究者を中心とした研究会、2.三・一一以降の社会科学におけるパラダイムの転換を分析する中堅研究者との研究会、3.人の移動を新たな視角からとらえる試みとして人文科学の研究者との対話を試みた研究会。 これら研究会は、1.に関しては、定期的な研究会を長期にわたって開いてきており、グローバリゼーションに関わる諸研究の最新の動向を把握するために、社会学史、社会理論の新たな潮流を整理するとともに、社会学の重要な領域である移民研究やエスニック・スタディーズなどの研究にたいして、地域研究やリスク社会論などの分野からの問題提起をまとめてきた。2.に関しては、三・一一についての数多くのルポや研究が輩出しているが、まだ途上の問題であり、課題を整理している段階である。とくに、東日本大地震の問題と原発事故との問題の重なりと分離、無縁社会や孤独死といった個人化の問題と現在進行中の仮設住宅などにおける共同性の再構築の問題などが残されている。本研究会では、コミュニティをキーワードとして問題の整理を進めている。3.人文科学と社会科学との接点にかかわるテーマとして人の移動を設定し、現代の移民研究と移民の歴史研究との接点として戦後から占領期における人の移動を「国民国家の再構築」を巡るせめぎ合いの中で位置づけ直す作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクトは、他の研究者とのプロジェクトと様々なところで接点を持ち、共通したテーマに沿って、時々に応じて共同の研究会などを行ってきた。これら研究会での研究成果は、おおむね平成25年度中に公刊できるところまで進んでいる。 第一には、場所を固定的に考えてきたこれまでの社会科学に対して、移動という観点から問題提起を行い、前著『移動から場所を問う』の続編として、社会学における移民研究に対して問題提起をおこなった。第二は、三・一一以降、コミュニティの復権が盛んに論じられているが、そこでの議論が抱える論点の何が課題であるのかを社会に向けて発信し、いまコミュニティを考える意義はなにかについて、政治と経済と社会の各研究分野から専門領域を越えた問題提起を行った。第三は、移民研究と移民史研究、移民文学と移民の文学との接点に焦点を当てたプロジェクトであり、日本においてなぜ人の移動に関わる研究が政治化されなかったのかを、人文科学研究者を交えて戦後直後から占領期における人の移動に焦点を当てて論じた。これら研究成果のまとめを通じて、国内の研究者との間では、3つのプロジェクトを並行して進め、おおむね研究成果を挙げることができた。 海外研究者との交流に関しては、オーストラリア国立大学との間では、ほぼ定期的な研究交流を進めてきており、また中国研究者とは、北京に引き続いて、上海での新たな研究者との交流を開始した。ただ、その他のアジア諸国との交流に関しては、達成できていない。また、グローバリゼーションと呼ばれる事象の縁辺に位置してきたと考えられたアフリカの研究会に参加し、ケニヤのナイロビならびに郊外を視察し、新たな知見を得たことは大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は本プロジェクトの最終年度であり、これまでの研究成果ををまとめることになっている。研究成果は、大きく次の三つである。 1.日本の移民研究が抱える課題を社会学や地域研究など多領域の研究成果を踏まえて論点を整理するとともに、社会学がグローバリゼーションという事象の中で直面している課題を人の移動をキーワードとして新しい問題領域を提示する。2.現在のある種の流行として台頭しつつあるコミュニティ論の何が課題としてあるのか、コミュニティにかかわる議論がナショナリズムとどのように結びついてきたのかを、社会学・政治学・経済学の各々から論点を整理するとともに、これからの人びとの共同性のあり方を探求する。3.戦後における引き揚げや帰国事業といわれてきたものを再検討する中から、日本の非移民国という言説が作り出されてきた経緯、日本における海外の移民研究の受容がもたらした歪みを明らかにする。これら3つの研究成果は、すでに公刊予定の本における研究テーマであり、それらを踏まえた新たな課題へのステップである。。 海外との共同研究は、継続して行うことになっており、1)オーストラリア国立大学との研究プロジェクト、2)中国ならびにアジア地域の研究者との研究交流の拡大、3)アメリカのコーネル大学ならびにカナダのマギル大学において研究会の開催を計画しており、また平成24年度に引き続いてケニアへの調査を準備している。 グローバリゼーションという研究課題は、きわめて流動的な研究テーマであり、次々と新しい課題が現れるともに、研究の中心的なテーマも変容を迫られる。世界経済の統合化や人の移動のグローバル化も、21世紀の間に大きな変化を遂げており、これまでの研究蓄積を踏まえながら、新しい課題に対する嗅覚が要請される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度において、フィリピンへの調査を計画していたが、相手側との日程の折り合いがつかずに延期することになり、残額が生じた。今年度(平成25年度)に改めて調査計画やワークショップを含めて、行う予定である。 平成25年度は研究年度最後の年であり、これまでの研究成果をまとめることが中心となる。1.本の出版の最終段階であり、共編者との打合せや追加的な調査旅費、大阪大学への出張、戦後直後や占領期における人の移動の痕跡として、韓国、対馬などへの調査を予定している。 2.研究会には、国内外研究者を招聘する。 3.海外との研究交流においては、オーストラリアへの出張、中国あるいはフィリピンへの出張旅費、アメリカ・カナダへの出張旅費、ケニヤでの研究調査と研究会出席、を予定している。ただし、これらは、海外共同研究者とのプロジェクトであり、費用の負担は部分的となりうる。 4.研究に必要とされるグローバリゼーション研究関係の書籍の購入、プリンタ関連の消耗品などは必要である。 5.文献・資料・移民関連論文などのPDF化の作業を進めるための謝金も必要である。
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Research Products
(7 results)