2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530621
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
三隅 一百 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (80190627)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 社会学 / 連帯 / 社会ネットワーク / 社会関係資本 / 福祉 / 関係基盤 |
Research Abstract |
今年度の実績は以下である。第一に、オリジナルな鍵概念である関係基盤の概念を、社会関係資本の蓄積という観点から連帯概念と関係づけて、理論的枠組みを整えた。社会関係資本としての連帯生成には、社会ネットワークにもとづく連帯の拡張が重要である。連帯が未知の人びとに及ぶとき、<日本人>のような抽象的な関係基盤を共有していれば、そのシンボル的な働きにより日本人全体のソシオセントリック・ネットワークが想像され、それが未知の<日本人>との間に最低限の紐帯を確保する。この関係基盤によるネットワーク想像力が、緩やかで広域的な連帯を生む。 この連帯の関係基盤モデルにもとづいて、第二に、連帯高次化の仕組みを探求した。より抽象的な関係基盤のシンボル作用にもとづく、より高次の連帯創出のためには、抽象度の高い関係基盤がリアリティのあるネットワーク想像力を醸し出さなければならない。これを促す仕組みを次の2つの仮説で提示した。仮説1)関係基盤の連結が連帯の高次化を促す。仮説2)弱い紐帯を介した被支援経験が、支援が「巡り巡る」リアリティ感覚を培って一般化された互酬性の規範を強め、連帯の高次化を促す。これらが2007年連帯調査データでおおむね検証できることを確認した。 第三に、2005年SSM調査データを(使用許可を得て)分析し、再分配や年金に関する人びとの意識にもとづいて、連帯と福祉国家を階層論的な枠組みのなかで実証的に関係づける分析枠組みに、一定の見通しを得た。 この成果を以下で公表した。「寛容社会の連帯-理論的考察」西日本社会学会69回大会(2011年5月、島根大学)、「ネットワーク想像力の仕組み」日本社会分析学会122回例会(2011年12月、香川大学)、「連帯高次化のネットワーク理論」数理社会学会53回大会(2012年3月、鹿児島大学)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
人びとの連帯とそれにもとづく協同・支援、それを支える社会的メカニズムの解明という本研究の第一義的な目的に向けて、本年度は、その解明を理論的また実証的に進める鍵となる「関係基盤」の概念装置を整えることができた。連帯と関係基盤をつなぐシンボル概念は経験的に捉えにくいが、シンボル的関係基盤という視点から、人びとの社会的属性と連帯意識の関係に実証的にアプローチできる。また、この概念装置は、福祉や社会保障を支える仕組みを国家に依存する仕方の調整(いいかえれば従来の福祉国家とは異なる市民社会的な連帯の仕組みの模索)、という観点から福祉ないし福祉国家の概念にもリンクする。これにより、人びとの社会意識の側面から、ネットワーク基盤が新たな市民的連帯を創出する条件を実証的に分析する道具立てを、ある程度整えることができた。 ただし、そうした市民的連帯を、年金制度のような具体的な問題にどのようにつなげて調査分析するかについては、さらに検討を要する。このように課題は残ったが、一方では、弱い紐帯と一般化された互酬性規範との関係等のいくつかの理論的発見もあった。したがって全体としては、おおむね順調に進行していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成23年度にやり残した連帯の関係基盤論の概念的検討および予備的データ分析を継続し、さらに{連帯、社会関係資本、福祉}をめぐる理論的視角と調査分析方法の整備を進める。また、研究協力者である大学院生の調査研究も積極的にサポートし、適宜研究会を開催して、彼らの調査結果と本研究の理論枠組みとの関係を検討する。それによって本研究の理論枠組みに新たな(とりわけ国際労働力移動に関する)視点やデータの裏付けを取り込む。 これらをふまえて、平成24年度中にインターネット調査を実施する。現時点のプランとしては、九州圏内在住のモニターを母集団として居住市区町村によって層化したサンプリングを行い、総計1000人を計画サンプルとした標本調査を想定している。母集団を地域的に限定するのは、方法論的には、マルチレベル分析に際してマクロな指標の意味を解読しやすい範囲で分析を行いたいからである。また、理論的には、九州新幹線等による連帯感の高まりが、一見無関係な年金制度のような連帯問題とどのように関係するか、といった分析課題を想定しているからである。これにより、福祉を支える新たな市民的連帯の制度化に向けて、多角的な切り口を提示できると考えている。 データが整い次第、分析に取りかかるが、本格的な分析とそれにもとづく研究成果の発表は、平成25年度に行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国内旅費・外国旅費を充当して、関係基盤論の整備に関わる成果を国内外の国際研究会、学会大会で報告する。また、本研究課題に関わる研究協力者(大学院生)の国内外での調査研究を支援する(海外調査は主に中国)。 次年度の最大の支出は調査委託費である。データの代表性は多少損なわれるが、今回は限られた予算内での経費・時間の効率性と調査倫理を優先して、インターネット調査による委託調査とする。発注は入札手続きにより公正かつ効率的に行う。調査実施に際しては市町村の社会経済統計収集やデータクリーニングのために、謝金等を充当して、事務補助員を数名アルバイトで雇用する。 また、物品費を充当して、統計分析およびテキストマイニング的な事例分析に必要なソフトウェアを購入ないしアップデートする。
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Research Products
(3 results)