2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530621
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
三隅 一百 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (80190627)
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Keywords | 社会学 / 連帯 / 社会ネットワーク / 社会関係資本 / 福祉 / 関係基盤 |
Research Abstract |
第一に、平成23年度の概念的検討および予備的データ分析を継続した。平成23年度に構築した仮説のうち、とくに第1仮説「関係基盤の連結が連帯の高次化を促す」を既存の社会調査データの二次分析でさらに多面的に検討した。その結果、関係基盤の連結による連帯拡張のために、足がかりとなるアクティブな関係基盤が必要だという認識を新たにした。連帯意識や市民的態度の醸成に対して、関係基盤の連結は確かに一定の効果を示すのだが、それに増して居住地域社会のまとまりや帰属感の効果が強く表れるのである。この経験的確認にもとづき先の2仮説を、結束型社会関係資本と橋渡し型社会関係資本の調整課題に条件付けられるものとして捉え直した。 第二に、これも平成23年度からの継続になるが、{連帯、社会関係資本、福祉}をめぐる理論的視角と調査分析方法の整備を進めた。中国の国内・国際労働力移動を研究している大学院生と共同して、移動先での適応およびその社会的受け入れをめぐる問題を検討した。また、献血を題材にボランティア行動を研究している大学院生と共同して、献血や「あしながおじさん」等の仕組みに関する理論的考察を深め、福祉に関する全国調査を集めて関連する質問文を検討した。 以上に関する成果を、日本社会学会大会をはじめ国内外の学会、学術会議で公表した。 第三に、以上の概念、仮説、調査法の検討をふまえて、(株)サーベイリサーチセンターに委託して「縁と助け合いに関する調査」を実施した。業者選定は公正に行い、倫理的条件等を確認して契約した。調査は予定通り調査会社のモニターを対象とするインターネット調査とし、一定条件を満たす対象者を6,000人無作為抽出して2012年11月22日~12月2日に実施した。回収は970件(有効回答率16.2%)で、目標の1,000サンプルに近い標本を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
人びとの連帯とそれにもとづく協同・支援を支える社会的メカニズムの解明という本研究の目的に向けて、本年度は、「関係基盤」を中心に、社会ネットワークが新たな市民的連帯を創出する条件を実証的に分析する道具立てを、さらに十全に整えることができた。また、年金制度だけでなく、国際労働移動や献血等の課題をその分析射程に捉えることができた。その検討をふまえて、ほぼ予定通りの規模と方法で、インターネット調査を遂行し、本格的な分析に向けてデータを整えることができた。成果の公表もコンスタントに行い、有益なコメントを得てそれを生かしながら研究を進めている。したがって全体としては、おおむね順調に進行していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の中核となる連帯の関係基盤論の理論整備は、引き続き重要な研究課題である。ただし今後は、この理論に則して実施したインターネット調査データの分析によって、より理論と実証の対話を深めつつ、連帯の関係基盤論の応用力を鍛える。応用の主題は連帯の制度化である。福祉制度に直接関わる連帯、福祉を支える市民的連帯の制度化、また、九州新幹線開通による連帯の高まり等の波及効果の仕組みを探求する。 研究協力者である大学院生の調査研究を引き続きサポートし、適宜研究会を開催して、彼らの調査研究と本研究の相互刺激を図る。結束型社会関係資本と橋渡し型社会関係資本の調整課題という大枠を共有できているので、その中での分析課題の違った表れ方を検討することで、新たな視点の発見を促したい。 以上の成果を、中途的なものを含めて積極的に学会等で公表する他、国際発信のために英語版を含む論文集を刊行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国内旅費・外国旅費を充当して、調査データ分析を進めて得られた連帯の関係基盤論に関わる成果を国内外の国際研究会、学会大会で報告する。また、本研究課題に関わる研究協力者(大学院生)の国内外での調査研究を支援する。データ分析結果および収集した資料の整理のために、謝金等を充当して、事務補助員を数名アルバイトで雇用する。また、物品費を充当して、統計分析および事例研究用のテキストマイニング等のソフトウェアを購入ないしアップデートする。年度末には研究代表者および研究協力者の研究成果を論文集の形で冊子体にとりまとめて刊行する。(その他[印刷費]を使用。)
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