2011 Fiscal Year Research-status Report
比較近代社会論の成立過程―後発資本主義の「精神」をめぐる独日の知的苦闘―
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23530629
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
野崎 敏郎 佛教大学, 社会学部, 教授 (40253364)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 後発資本主義 / ヴェーバー / ラートゲン / ゾンバルト / ブレンターノ |
Research Abstract |
この年度は、ドイツ各地における史料調査およびその結果分析に重点を置き、本研究課題にもっとも関連の深いドイツ人研究者たちの動向を探り、課題遂行に不可欠な基礎資料を集積するため、二度渡独調査を実施した。 8~9月(19日間)では、ミュンヒェン、マルバッハ、ハイデルベルク、ゲッティンゲン、ベルリン、ハンブルクにおいて、主としてマックス・ヴェーバー関連史料を調査し、ボンでは、カール・ラートゲンの令孫B・C・ヴィッテ氏を訪問した。2~3月(14日間)では、ハンブルクとベルリンで、主としてラートゲン関連史料・文献を調査した。ゾンバルトにかんする史料も出納請求したが、見るべきものは見出されなかった。ハンブルクでは、日本では閲覧困難な稀覯本を閲覧し、また日本には所蔵されていない新聞を検索し、関連記事を複写した。 文献は、『東洋学芸雑誌』(DVD-ROM)、『川島武宜著作集』、『島恭彦著作集』、日本近世・近代社会史にかんするもの、ドイツ社会思想史にかんするもの、マックス・ヴェーバー関連図書を中心として購入し、十九世紀末から二十世紀初頭にかけての後発資本主義国の展開過程にかんする研究動向を把握するとともに、ドイツ人・日本人の国民精神と社会構造にかんする先行研究の理解に努めた。 文献研究としては、後発国の問題を考究した基礎文献として、ヘーゲルの国家論、グナイストの国家論・地方自治論にかんするものの読解に努め、またこうした先行学者の論点が、ヴェーバーやラートゲンらにどのように受け継がれていったのかを考察した。またそこには、大学の近代化をめぐる諸問題が関連していることから、独日の大学史にかんする文献を蒐集し、読解に努めた。 また、ハンブルクで発見した新聞記事に依拠して、ヴェーバーの日本観にかんする考察をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二度の渡独調査によって、ヴェーバーとラートゲンの動向にかんする新史料を入手できた。ミュンヒェンでは、ドイツの国家発展にたいするヴェーバーの貢献と、1919年革命にたいする彼の態度とをしめす資料を閲覧し、その知られていない社会思想の一端を明らかにすることができた。マルバッハでは、ヴェーバーの立論と、ヘーゲルやキルケゴールの思想との関連を指摘するカール・レーヴィットの書簡を発見し、その分析に努めた。これは、ヴェーバーの思想を理解するうえできわめて重要な資料であり、しかもこれまでまったく知られていなかったものである。ハイデルベルク、ゲッティンゲンでは、ヴェーバーとラートゲンの足跡にかかわる資料を閲覧し、これまで知られていなかった経歴上のミッシング・リンクを埋めることができた。ハンブルクでは、ラートゲンのハンブルク大学における活動をしめす資料を閲覧し、その問題関心の一端を知ることができた。ボンにおいては、ヴィッテ氏から、ラートゲンの足跡にかんする有益な談話を聞くことができた。 以上のように、渡独調査は順調にすすんでおり、それぞれの調査地で目に見える成果が得られた。 一方、スケジュールの関係で、東京における調査を断念したので、国内に所蔵されている文献・資料にかんしては、比較的狭い範囲内における調査と読解にとどまっている。したがって次年度は、国内調査の比重を高める必要がある。 全体として、ドイツ人研究者にかんする調査と文献読解はかなりすすんだので、次年度は、これを継続させるとともに、日本人研究者にかんする調査と文献読解に力を入れることになる。
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Strategy for Future Research Activity |
ベルリンとハンブルクには、なお多くの史料があることが判明したので、ひきつづき調査を継続する。またマルバッハにあるレーヴィット関連史料の判読には、なお時間がかかることが予想されるので、再度マルバッハにおいて追加調査をおこなうことがありうる。いまのところ、次年度渡独調査は8~9月の一回予定しており、そのときにこれらの補充調査が可能だと思われる。ただ、場合によっては、フリードリヒスルー、マールブルク、コブレンツにおける調査を優先させることもありうる。その場合には、平成25年度にマルバッハを再訪することになるだろう。 東京のいくつかの図書館・公文書館で、ラートゲンとその門下生たち、および他の関連人物にかんする史料・文献を調査する必要があるので、次年度において二回程度の東京調査を実施する。そこでは、主として、阪谷芳郎、添田寿一、福田徳三らの足跡と著述活動、ラートゲンとその友人ミュラー・ベークの滞日時の活動状況が調査対象となる。 次年度後半には、研究の中間的なまとめをなし、ドイツにおける研究動向と、日本におけるそれとの関連づけにかんする見通しを立てる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
渡独調査を一回(三週間程度)、東京調査(各数日間)を二回程度実施する。これに応じた経費を費消する。複写物は、帰国後しばらくしてから送付され、そのさい日本の銀行を経由して送金するケースがあるので、それに応じて手数料等が必要になる。 ドイツにおける調査候補地は、ベルリン、ハンブルク、フリードリヒスルー、マルバッハ、マールブルク、コブレンツであり、渡航までに優先順位をつけて計画を練る。東京においては、国立国会図書館憲政資料室、東京大学図書館、国立公文書館、外務省外交史料館、一橋大学図書館、市政専門図書館を訪問する。 文献にかんしては、明治期に活躍した経済学者・法学者たちの著作が、今日ではきわめて入手困難になっているので、こうしたものを優先的に入手する。とくに、ラートゲンと関連の深い一木喜徳郎の講義筆記記録(80,000円)がインターネット古書市場に出品されているので、これを入手し、明治期における日本の国家づくりにかんする新資料として分析に当たりたい。またヴェーバー、ラートゲンとその周辺の学者たちの著作を、ドイツの古書店から入手する。 複写が制限されている稀覯本を利用する機会が少なくないと思われ、その場合、大学図書館間の現物貸借制度を利用して、現物を取り寄せて研究する。そのさいに相応の送料が発生する。 必要に応じて、学生・院生に資料整理作業等を依頼し、そのさいに謝金が発生する。
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