2012 Fiscal Year Research-status Report
比較近代社会論の成立過程―後発資本主義の「精神」をめぐる独日の知的苦闘―
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23530629
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
野崎 敏郎 佛教大学, 社会学部, 教授 (40253364)
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Keywords | 比較歴史社会学 / 後発資本主義 / 資本主義の精神 / ヴェーバー / ラートゲン / 阪谷芳郎 |
Research Abstract |
当該年度は、ターゲットとなる研究者たちの研究継受系譜の究明に重点を置いて資料を蒐集し、それぞれの呈示している論点を整理し、あわせて、後発資本主義国における国民精神の問題にかんする基本的な論点の定立を試みた。 第一に、ヴェーバーとラートゲンの事績を辿り、ラートゲンの立論がヴェーバーの日本理解に多大な影響を与えていたこと、逆に、資本主義の運命にかんするヴェーバーの洞察が、ラートゲンに受け継がれていることも判明した。さらに、この二人の論旨は、ゾンバルトやブレンターノの初期資本主義論との対抗関係のなかで展開されていることもわかってきた。 第二に、戦前におけるドイツ資本主義と日本資本主義との構造的対比をすすめた。産業発展の様相は、両国間で異なっており、またそれを支える国家政策の骨格も、階級構成も、国民精神の様相も異なっている。これらを比較対照しつつ、両国が、国民精神再編・再統合の課題をどのように果たそうとしていたのか、またヴェーバーやラートゲンらが、この課題をどう考えていたのかを考証し、一定の手がかりを得た。 第三に、ラートゲンの門下生の足跡から、ドイツ社会科学の日本への導入過程を探った。とくにラートゲンの政治学講義ノート(阪谷芳郎筆記)がきわめて重要な史料であることが判明した。 第四に、ドイツ第二帝政期の行政・政治動向について調査した。ヴェーバーやラートゲンは、ドイツ政治の主流とは一線を画し、経済政策、貿易政策、大学政策、ドイツの将来展望といった点で、重要な代案を提示しており、それは、たとえばヴェーバーの価値自由論のような科学方法・教育方法上の重要論点にも通じていることが判明した。 本研究課題は、国家と経済との関連、国民精神の問題、社会科学方法論といった多面的な問題群を包括するものであり、当該年度の研究活動によって、そのそれぞれの論点において、重要な調査結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体としてみたとき、本研究課題の進捗状況は、海外調査にかんしてはかなりの進展がみられ、ヴェーバーとラートゲンとの関係およびその周辺人物の知的付置連関にかんする考証は、本研究課題の当初の目的を達成するに十分なだけの水準に達しつつある。ただし、なお追加調査すべき事項がいくつか残っている。その一方で、主としてスケジュールの都合で、国内調査を一回のみとせざるをえなかったため、戦前期日本における研究動向の解明がやや遅れている。 第一に、海外調査ではかなりの成果があった。ヴェーバーの事績を、ミュンヒェン、ハイデルベルク、ベルリン等における調査によって、ラートゲンの事績を、ハイデルベルク、ハンブルク、マールブルク等における調査によって、それぞれ考証し、新事実を発見した。また両者の関係にかんする手がかりをいくつか得ることができた。これらに依拠して、本研究課題の大きな目標である新しい方法的視座の構築をなすことができよう。 第二に、国立国会図書館憲政資料室において、明治期の政治状況にかんする調査をおこなうとともに、ラートゲンの門下生だった阪谷芳郎(後年大蔵大臣等を歴任)の関係資料を調べた。阪谷は、ラートゲンの政治学講義(1882~1883年)を聴講して詳細なノートを遺している。これは、ドイツ社会科学の本格的な日本への導入の記録である。判読を終えたのは、まだ全体の十分の一程度であるが、それは、ドイツ歴史学派経済学とドイツ法学とを併せた広大な内容を含んでおり、ラートゲンの射程の大きさを窺い知ることができる重要史料である。この講義ノートの分析は、本研究にとってかなり重要な位置を占めることになった。 第三に、日本におけるドイツ社会科学の導入およびその後の展開にかんしては、一定数の文献・資料を入手した。しかし、東京出張にさいして読まなくてはならない稀覯本のうち、未読のままのものがある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの進捗状況に鑑みて、最終年度は、海外調査をおこなう一方で、日本における調査も重視し、ドイツ社会科学の日本への導入過程、またこれに依拠した日本経済史研究・日本資本主義研究への道筋について考証する。またいくつかの稀覯本を閲覧し、戦前期の日本の歴史学・社会科学研究の位置づけを試みる。最終年度であるため、本研究課題探究の仕上げをなすことに重点を置く。 第一に、海外調査においては、これまでの調査の補充をなす追加調査とともに、本研究課題にとって重要な未公刊史料の判読に取りくむ。とくに、ヴェーバーの重要書簡のなかには、『マックス・ヴェーバー全集』書簡編に収録されなかったものがいくつかあるので、ベルリンとミュンヒェンでその原本を確認する。またハンブルクとコブレンツで、ラートゲン関連史料を中心として、未公刊史料と稀覯本の閲覧と分析に当たる。 第二に、国内調査においては、国立国会図書館憲政資料室において、阪谷芳郎筆記ラートゲン政治学講義ノートの判読と分析に当たる。また東京の大学に所蔵されているラートゲン関連稀覯本を閲覧する。 第三に、ヴェーバーとラートゲンとの関係、その周辺のドイツ人社会科学者たちの動向、第二帝政期ドイツの政治・経済・社会動向を解明する。また同時代の日本人社会科学者たち・政治家たちの動向を解明する。これらに依拠して、第二帝政期ドイツおよび明治・大正期日本の知的状況を浮き彫りにし、この時代の研究成果を、同時代の日独社会の現実と突きあわせ、ドイツと日本という後発資本主義社会における精神文化状況と、その問題構造を解明する。 研究成果としては、ラートゲンの前半生にかんする考証が一定程度進んだので、まずこれに依拠した論文を執筆する。その後、独日の知的状況にかんする論稿を準備する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、国内出張費を節約し、また購入図書も厳選したため、97,238円の繰越額を得た。 次年度は、第一に、8~9月期に海外調査を実施する。訪問先は、バルトルト・C・ヴィッテ(ラートゲンの令孫)邸、連邦公文書館コブレンツ館、ハンブルク大学図書館、ハンブルク国立公文書館、プロイセン文化財枢密公文書館、バイエルン州立図書館手稿室、バイエルン学術アカデミー内『マックス・ヴェーバー全集』編集部等とする。ハンブルク大学外国人宿舎を半月契約で確保し、滞在費の低減に努める。しかし円安が進み、渡航必要経費が高騰したため、関係諸経費を含めて、4週間弱で50万円程度を見込む。 第二に、国内調査(東京出張)を三回程度実施する。一回あたりの出張可能日数を長めに確保できれば、出張回数を二回とすることもある。合計で8日程度、15万円程度を見込む。 第三に、ヴェーバーとラートゲン、その周辺のドイツ人社会科学者たち、第二帝政期ドイツの政治・経済・社会動向にかかわる文献を補充し、また同時代の日本人社会科学者たち・政治家たちにかかわる文献を補充する。重要な稀覯本のいくつかは、すでに平成24年度中に購入しているので、次年度は、ソフトウェア等を含めて35万円程度を見込む。 複写料、郵便送料他諸経費は10万円程度を見込む。
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