2012 Fiscal Year Research-status Report
持続的な地域コミュニティを確立するための条件に関する社会学的研究
Project/Area Number |
23530639
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
山下 祐介 首都大学東京, 都市教養学部, 准教授 (90253369)
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Keywords | コミュニティ / 過疎 / 災害 / 原子力発電所事故 |
Research Abstract |
2012年度はいくつかの過疎地域の実態状況を確認するとともに、おもに東日本大震災・福島第一原発事故に関わる被災地の現状と、被災コミュニティに対する政策・対策の現況を確認する作業を行った。 第一に、被災コミュニティ対策について。復興計画などで「コミュニティ再生」は唱われているが、実際の現場レベルでは、広域避難、長期避難、都市と村落の急速な接近、官民支援の詳細化・長期化などにより、コミュニティ再生が主体的・自立的に作動する条件の確立がきわめて難しくなっていることが分かった。岩手県野田村、宮城県石巻市、福島県富岡町を中心に調査検討を行ったが、いずれもコミュニティ再生がハード面に偏って意識されており、人・社会の再生という面に関わる人文社会科学的な介入の不可欠な状況が生まれている。適切な介入の回路がないままに、大規模土木事業(巨大堤防、高台移転、除染、インフラ復旧など)のみが急速に進行している。住民自治確立の問題が大きく横たわっているが、他方で、日本の地方自治は土地への居住を第一条件としているため、長期避難者や若年者の就業上の一時移転者が、地域再生事業に実質的に参加できない構造を生んでいて大いに問題がある。 こうした「住民」と「自治体」の枠組みのあり方に関わる問題は、第二に行った過疎自治体調査(青森県、新潟県、和歌山県)でも確認され、次年度以降の課題として残された。 なお本研究の調査研究課題の整理は、『東北発の震災論』(筑摩書房)、および「「帰る」「帰らない」をめぐる住民と自治体」(『住民行政の窓』3月号所収)で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は本来、過疎問題を中心に行う予定であったが、本課題採択直前に生じた東日本大震災・福島第一原発事故によって大きく研究計画を変更して実施を行っている。そのため、当初の研究計画をかなり迂回した形で実行中だが、巨大災害および、原発時に伴うコミュニティ存続の危機という希有の事態を観察したことにより、研究課題の「持続的な地域コミュニティを確立するための条件」に対して、より直接的なアプローチが可能となりつつある。 広域・長期避難を続けている自治体について、とくに福島県富岡町および宮城県石巻市(なかでも旧雄勝町)について観察し、これを岩手県野田村の事例と比較検討することにより、長期的広域的避難がもたらすコミュニティ解体効果についてつぶさに検討が行えた。とともに(より重要なこととして)、こうした解体効果が様々に観察されるにもかかわらず、コミュニティ存続のための住民たち/行政機構の反作用も如実に観察することができ、巨大災害・事故が近代コミュニティ何をもたらすのか、存続しうるとすればそれはいかなる条件によってか、次年度にむけて調査研究の土台が築かれている状況にある。 さらに本研究ではこの被災コミュニティの問題と、過疎地域コミュニティの存続条件とのすりあわせを意図しているが、これまでの検討から、コミュニティの内と外を決定するのは何か、という問いによってこの点にアプローチすることが有効であるという手がかりをえた。この点に対しては、一方で制度的にアプローチできるが、他方でこれを社会調査を用いた行為実践の中で読み解くことも可能であり、その方法論の確立が今後の大きな課題となる。 上記課題のために、調査を再設計し、次年度により入念な検討を行うこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗が遅れているため、研究3年度目は本来、調査に基づくまとめの期間にあてていたが、今少し調査を継続して、実地検討をつづけた上で、まとめに入りたい。 第一に、東日本大震災・福島第一原発事故については、これまでに行っていた3地域の調査検討をつづける。とくに福島第一原発事故による避難コミュニティについてはまだ今後の見通しがつかないが、2012年度末に警戒区域解除・避難指示区域再編を行ったため、コミュニティ存続にとって大きな変化が出てくることが予想されている。コミュニティ解体のみならず、場合によっては、原子力自治体としての大幅な変容も予想され予断を許さない。この点については2014年度の新たな科研費への課題獲得もにらんで、2013年度調査の実施を行っていく。 第二に、2013年度は過疎自治体調査をより広く展開し、コミュニティの持続性を考える上での「住民と自治体」問題を議論するための基盤づくりを行いたい。当初の予定通り、一方で、研究代表者が長年調査の蓄積がある、青森県津軽地方での研究を重ねたい。現段階で、今別町、鰺ヶ沢町、弘前市(相馬地区)、西目屋村と調査について打診中である。また原発避難自治体担当者と過疎自治体担当者との意見交流の機会実現を考えており、巨大災害・事故と過疎問題にあらわれているコミュニティ課題の共通性をあぶり出す調査計画を準備中である。他方で、2013年度はさらに、神奈川県、兵庫県、山梨県、静岡県、山形県など、研究代表者がこれまで見落としてきた地域の過疎の状況について確認作業を重ねたい。 第三に、政府のコミュニティ対策(とくに震災・原発事故に対する、あるいは過疎問題に対するコミュニティ政策)のあり方についても調査検討を行い(おもに総務省を想定)、持続可能なコミュニティを確立するための条件整備について、年度内に議論の整理を行う予定である
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以上のようなことから、研究費に関しては、おもに旅費を主体として、調査に関わる補助や専門的意見の提供に関わる謝金、また関連文献の収集や調査に関わる消耗品を予算計上した。 主要な調査地となる青森県、福島県、宮城県の他、兵庫県、山梨県、山形県などへの旅費として300千円。専門知識の提供を念頭に、謝金を50千円。関連資料代(おもに雑誌など)などの消耗品費として50千円。残りをその他とする。 なお上記の研究課題遂行には予算は十分ではないので、不足分については適宜補うこととしたい。 研究最終年度のため、年度末にはこれまでの研究成果をまとめた報告書を作成する。
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[Book] 筑摩書房2013
Author(s)
山下祐介
Total Pages
286
Publisher
東北発の震災論 周辺から広域システムを考える
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