2011 Fiscal Year Research-status Report
知識・サービス経済における新しい男性性―福祉雇用レジームの変化に関する基礎的研究
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23530641
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
今井 順 東北大学, 文学研究科, 助教 (30545653)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 |
Research Abstract |
知識・サービス経済化と雇用改革の中、フレキシブルな生産体制やプロジェクト型の労働組織が導入され、そこでは不安定で多様な雇用関係が拡大している。そのため、標準的雇用を背景に成立した「サラリーマン男性性」は正当性を失い、日本における男性性は再構築の過程にあると考えられる。平成23年度の研究計画では、福祉ー雇用レジーム論において同様の「男性稼ぎ主型」に分類されてきたドイツの共同研究者と議論を重ね、再編の理路について仮説を提示することであった。先行するドイツでの調査を踏まえた議論から明らかになったことは、日本対比非正規雇用の規制が厳しく、そもそも正規雇用者に対しても労働時間管理が比較的厳格に行われてきたドイツでは、「男性性」を支える資源としての「時間」の重要性が指摘されている。新しい産業領域ではワークライフバランスを取ることが難しい仕事や働き方が増えており、その結果「時間」へのコントロールを失うことが男性性の変化に大きな影響を与えているのではないか、という議論である。一方日本においては、高度成長に至る時期にはすでに労働者は「労働時間」に関するコントロール能力を失っており、そもそも「サラリーマン男性性」を支える資源となっていない。むしろ終身雇用をささえた長期雇用・ライフステージ調整給・企業福祉の諸制度が人々の日々の生活とライフコースに安定を与えていたことが大きな資源となってきた。そうした資源へのアクセスは正規雇用者でも難しくなっているが、そもそもアクセスを与えられていない非正規雇用という雇用形態に着目することが重要であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツ研究者との議論を経て仮説は明確になりつつあり、その意味で研究はおおむね順調に進展している。しかし一方で、もともとの調査計画は雇用形態そのものよりは産業別に異なるであろう労働組織の在り方の変化に着目したものとなっており、今後若干の変更を加えなければならないことは間違い。特に、今後主たる着目点となる非正規雇用者とどのようなチャンネルでコンタクトを取るのかは大きな課題となる。大きな遅れが出ないよう、計画を取りまとめなおす必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究推進方策としては、当初の予定通り量的・質的調査を組み合わせた実地調査を行う予定である。ただし実際に調査を行う調査地については、当初産業と労働組織の在り方に重点を置きIT産業や出版から10-12社としてきたが、これについては再考する必要がある。具体的には、より効果的に非正規雇用者にアクセスでき、なお彼らの労働契約の状況や労働組織の状況に一定の目配りができる調査対象を選定する必要がある。よって、調査対象として企業を選ぶか、非正規雇用者のための労働組合などを選ぶかなど、慎重な吟味が必要である。また調査方法についても、先行研究の分析から、より質的な調査の充実を図る必要があることが分かった。男性性の変化については性別分業意識のみならず、職業意識等を含んだより広範な意識・態度の調査が必要であり、より深い聞き取り調査を行う必要から、ある程度量を犠牲にしても、調査対象を絞り込む必要がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の収支から、55,558円の繰越が発生している。これは、図書館でアクセス可能な必要図書が予想を超えて多く、購入しなければならない図書が予想を下回ったことが主な理由である。平成24年度については、予定通り、実地調査旅費、実地調査関連費用(インタビュー用レコーダーや記録媒体)、また一定の調査が終わった段階での成果発表にかかる国内・外国旅費が必要となる予定である。
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