2012 Fiscal Year Research-status Report
日英における医療・保健サービスの地域化に伴う地域集団の変容に関する地域比較研究
Project/Area Number |
23530652
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
清水 洋行 千葉大学, 文学部, 准教授 (50282786)
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Keywords | NPO / サード・セクター / ボランタリー・セクター / 地域社会 / 起業主義 / イギリス / 社会的企業 |
Research Abstract |
本年度は、研究会、英国・ロンドンと国内での現地調査、日本NPO学会ほかでの研究成果発表等を行った。これらは連携研究者である中西典子氏(立命館大学産業社会学部准教授)・中島智人氏(産業能率大学経営学部准教授)と実施した。現地調査は、貧困層が多い大都市インナーエリアとその外延(タワーハムレッツ区、大阪市内)、および比較的富裕層が多い郊外エリア(ヘイヴァリング区、横浜市内)で実施し、新自由主義下における政府の再配分機能の縮小や地方主権の推進の下でのボランタリー団体/NPOの対応について把握した。 その結果、大都市インナーエリアとその外延地域では、これは社会的企業(social enterprise)モデルの受容ともいうべき、起業主義(entrepreneurism)的対応や団体の統合・再編による事業規模の拡大等といった経営論的転回がボランタリー団体/NPOにおいて進展している一方で、郊外エリアでは財政削減により職員の雇用が困難になるなかでボランティアへのシフトが進んでいることが分かった。 これら英国のボランタリー団体の変化について、EU公共調達法にもとづく自治体や国営病院との契約(少額を除く)の自由競争化、経営の効率化とサービスの社会的効果(outcome)の提示等が強化されている点、および福祉領域において国営の医療保健サービス(NHS)との地域的連携の推進による福祉サービスの医療化、利用者・市民らによるサービスの選択や評価が強化されている点等との関係の考察を行った。国内のNPOの変化の背景に関する考察は次年度の課題であるが、セクターとして非営利・非政府領域が明確である英国での経験への考察をふまえることは、国内のNPOの動向に関する考察にとって一定の有効性があると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、英国において未実施であったタワーハムレッツ区の中間支援組織とヘイヴァリング区のエイジ・コンサーン(高齢者福祉団体)等への現地調査を実施し、英国で予定していた現地調査をほぼ達成することができた。 また、進捗がやや遅れていた国内調査について、英国におけるエイジUK/エイジ・コンサーンと同様に全国的な中間支援組織をもつNPOであるとともに、地域比較との対称を考慮して貧困地域(大阪市内)と比較的富裕な郊外エリア(横浜市内)において、高齢者福祉NPOに関する現地調査を実施することができた。 日本NPO学会への発表およびその準備過程における国内の中間支援組織の担当者らとのディスカッションほかにおいて、英・日の事例の比較考察に向けた検討を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの調査から、ボランタリー団体/NPOの変容に影響を与える条件として、フロントライン(現場)の事業ないし団体の存続・変容に関して広域的な中間支援組織の役割がみえてきたが、十分に調査できていないため、次年度に海外調査・国内調査を実施する。対象は英国と日本において、地域福祉を実施しているボランタリー団体/NPOの全国組織、およびCVS/NPOセンターといった総合的な中間支援組織の全国組織とする。 さらに最終年度として考察のまとめを行う。考察においては、英・日における医療保健サービスとの地域的連携による福祉領域のボランタリー団体/NPOの変容(多元化)について、新自由主義の展開、地方主権の進展、アウトカム・ベースのサービス評価や利用者・市民によるサービス評価の強化、福祉サービスの医療化、中間支援組織の役割、地域特性等といった諸要因・諸条件がどのように影響を与えているのかを整理する。 まとめに向けて、地域社会学会ほかにて研究成果を発表して検討する機会を得るとともに、ボランタリーセクターや福祉分野等の専門家から助言を受ける。 研究成果に関して報告書を作成し配布する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が発生した主な理由は、連携研究者のうち1名が勤務校において重要な役職に就き、校務の多忙により、ロンドンでの現地調査を実施できなかったためである。次年度は、次年度使用額に相当する研究費を用いて、調査のまとめに必要な補足資料の収集のための海外調査(英国ロンドン)を実施する。また、海外調査の実施に関連して、海外調査における聞き取り調査の書き起こしを業者に発注する。 その他の使用計画は下記の通りである。文書資料等の収集・整理に関して、インターネット等で公開されている資料(政策関係文書、団体の年次報告書等)ほかの印字のためのトナー、資料整理用のファイル類等の消耗品、ボランタリー団体/NPOが発行している資料、および各団体が立地している地域の統計資料等の購入費にあてる。 旅費関係として、連携研究者との研究打ち合わせ旅費(京都を含む)。大阪市・横浜市等での国内の調査研究旅費(連携研究者の旅費を含む)、および研究成果の発表のための旅費(京都等)。 収集資料の整理作業の補助、報告書の作成作業の補助のための人件費。 報告書の印刷・製本代。発送費用。
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