2012 Fiscal Year Research-status Report
日本的雇用慣行の変動期における職業紹介ビジネスの社会学的研究
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23530655
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小川 慎一 横浜国立大学, 国際社会科学研究科, 准教授 (30334618)
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Keywords | 国際情報交換 / 社会学 / 雇用 / 労働市場 / 転職 |
Research Abstract |
日本的雇用慣行は長期雇用がひとつの特徴とされている。しかし実際には職業的キャリアを通じて特定の企業のみで勤続する日本の労働者の割合は小さい。これは同時に、特定の企業における内部労働市場で能力や技能を蓄積するという、定型化された日本の労働者像が不正確であることも意味する。日本の大企業に限れば、正規従業員の平均勤続年数は長く、したがって内部労働市場において彼(女)ら能力や技能を蓄積するという理解も妥当であろう。 日本で実施されてきた小集団活動は、企業間の協力を通じて各社における従業員の能力向上を図る活動という点で、日本の大企業でさえも単純に内部労働市場のみで労働者の技能の蓄積を図っているわけでないことを示唆している。企業を超えて各社の従業員の労働の質を高めていく活動は、日本のみに限られたものではない。たとえば、日本と同じく長期雇用的な社会であるフランスにおいても、1970年代から80年代にかけて、日本の小集団活動を導入する動きが見られ、企業を超えてその推進を図る団体も設立された。1990年代以降は日本もフランスも小集団活動が停滞に向かったが、その後のアプローチは異なる方向へ推移した。 本年度は日本とフランスにおける広い意味での「品質」運動の比較を試みた。日本の小集団活動は品質管理活動を起源としているが、現場従業員の労働の「質」を高める運動としても機能してきた。かつてほどの勢いはないものの、現在も企業間協力の負荷を軽減する工夫を重ねつつ、活動を地道に続けている企業がある。フランスでは「日本的」な「品質」運動は日系企業を含めて1990年代以降に消滅の方向へ進み、現場従業員を編成した小集団による統制に依存せずに、品質部門など専門部署による直接的な統制を通じた運動へ移行した。また近年では労働の質を強調した「品質」運動ではなく、環境重視の活動へと変化しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に在外研究へ行っており、日本の実情に即した文献収集や調査に十分な時間を確保することができなかった。本年度において、文献収集をある程度進めてきたものの、その知見の整理に見通しをつける段階までに至らなかった。調査の一環ないしはその前提となる資料収集についてもある程度進めてきたが、十分に予備的な整理にまで達しているとはいえない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は先行研究の整理をより進めるとともに、過去や近年の資料の収集ならびに調査を推進していく予定である。 第一に、日本における「労働市場の社会学」に関する先行研究を、国際的な「市場の社会学」の文脈との関係で整理する。日本における「労働市場の社会学」は、社会階層論や産業社会学、教育社会学、移民の社会学などの複数の領域で展開されている。それを包括的な視座で俯瞰するため、海外で展開されている「市場の社会学」の議論を援用して、その意義について検討する。「市場の社会学」では市場を制度やネットワークとして把握しているが、日本の労働市場がどのように「制度」的であるのかを考察する。「制度」としての市場の形成や維持には、経済的要因だけでなく、社会的・政治的な背景も関係する。「制度」としての市場に、日本ではどのように企業や政府、法律が関係しているのかを含め、分析枠組を探っていく。 第二に、人材紹介ビジネスに関する現在ならびに過去の法律について、資料を収集する。職業安定法や労働者派遣法の制定や変遷を中心に、経済的・社会的・政治的な背景との関係において整理する。 第三に、人材紹介ビジネスが法律の変遷とともに、どのように拡大していったのかを把握する。法律によって保証されているビジネス形態や対象職種についてだけでなく、法律的な位置づけがなされていないビジネス形態や対象職種についても目を配る。政府と法律、企業、その他の機関との相互作用において、どのように労働市場の「制度」的側面が形成されてきたかを検討する。 第四に、「制度」的なあり方や変遷がどのような社会(学)的な意義を有するのかを検討する。「市場の社会学」のひとつの視点に、人的ネットワークを強調するアプローチが存在する。「制度」的なるものと「ネットワーク」的なるものは、アプローチの違いということだけでなく、現象として相互関係があると捉えるほうが現実的だろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は先行研究の整理をより進めるとともに、過去や近年の資料の収集ならびに調査を推進していく予定である。この研究計画に応じて研究費の使用計画を立てておく。第一に、日本における「労働市場の社会学」に関する文献や、海外の「市場の社会学」の文献の購入や複写に研究費を使用する。 第二に、人材紹介ビジネスに関する、現在ならびに過去の法律についての文献や資料の購入・複写に研究費を使用する。文献や資料によっては特定の所蔵機関にしか収蔵されていないものも想定されるため、そこへの交通費としても研究費が使用される。 第三に、人材紹介ビジネスを運営する企業や公的機関に関する資料や文献を購入・複写する費用として研究費を使用する。文献や資料によっては特定の所蔵機関にしか収蔵されていないものも想定されるため、そこへの交通費としても研究費が使用される。 第四に、人材紹介ビジネスに関わる企業や公的機関に聞き取りを実施するため、その交通費に研究費を使用する。 第五に、可能であれば既存調査の二次分析に要する費用として研究費を使用する。具体的には、統計ソフトの更新に費用が使用される。 第六に、研究発表の大会参加費やその交通費として、研究費を使用する予定である。
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