2011 Fiscal Year Research-status Report
ストリート文化の「非犯罪化」に関する表現の自由と所有権の相克問題
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23530657
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
小倉 利丸 富山大学, 経済学部, 教授 (60135001)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | cultural criminology / カルチュラル・スタディーズ / グラフィティ / 表現の自由 |
Research Abstract |
本年度は、cultural criminologyに関する先行研究及び、典型的なストリート文化をめぐる諸問題についての研究を実施した。文献や資料の収集のほかに、下記のような研究を行った。日本におけるカルチュラル・スタディーズの学会である「カルチュラル・タイフーン」(主催校、神戸大学)において、「ストリート・カルチャーの非犯罪化」をテーマとしたワークショップを開催した。東京芸術大学の毛利嘉孝氏を招いて、イギリスのストリート・アーティスト、バンクシーをめぐるアートのストリートにおける表現の自由について、ワークショップを実施した。また、富山市の映画館「フォルツァ総曲輪」での映画「Exit Through the Giftshop」上映に際して開催されたトークイベントの企画に協力し、トークの司会を務めた。研究成果としては、「芸術における表現の自由――美術館による作品処分とグラフィティの「犯罪化」をめぐる所有権との相克」(駒村圭吾・鈴木秀美 編著『表現の自由II-状況から』尚学社、2011年)をふまえて、もっとも大きな論争を巻き起こしてきたバンクシーをめぐる表現の自由とストリート文化の犯罪化について、論文を執筆した。(2012年に、スティーブ・ライト『バンクシーのブリストル』、作品社、2012年刊行予定の解説論文)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
cultural criminologyについての先行研究については、包括的なサーベイを行うところまでは至っていない。最近のもっとも重要な論争となっているバンクシーをめぐる議論についての調査や文献の収集に予想以上に時間がとられたことによる。ほぼ必要な文献は収集できているので、これらをまとめることを昨年度末以降進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終目標は、「ストリート文化の非犯罪化」を可能とする理論的な枠組み構築にある。この問題をとりあえずcultural criminologyという日本ではほとんど紹介されてきていない学際的な学問研究の分野がこれまでに達成してきた成果と課題を踏まえて、理論としての構築作業を試みることになる。 この理論化のためには、表現の自由など自由権に属する法と人権の問題と文化が交差する局面を扱うだけでなく、ストリート文化が内包させている階級、エスニシティ、ジェンダー、年齢などの関する固有の「偏り」をもたらす社会経済構造が重要な意味を持つことになる。 バンクシーをとりあげた研究では、上記の諸論点がブリストルという都市の行政、アートシーンを巻き込み、さらには世界規模での論争を巻き起こした。すなわち、他人の所有である土地や建物、あるいは公共物に無断で「落書き」をすることの是非が、単純に所有権や刑事法上の「犯罪」というカテゴリーに即して断罪することができなくなったのである。バンクシーの作品は明らかに違法な行為の上に成り立っていながら、その作品を否定することができないということが、市議会でも世論の動向のなかでもはっきりと表れてきた。 こうした問題の現れ方の根源にあるのは、不特定多数が往来する公共空間に面している壁面や交通機関などを表現の場所とすることを規制する所有権や空間の占有権、管理権が表現の自由に優先してよいのかどうか、という問題に多くの人々が直面したということである。今後の研究の方向としては、バンクシーという個別のケースではなく、より一般的に、ストリートの表現行為(文化)が犯罪とみなされるケースをも視野にいれて、理論的な枠組みとなりうるものを構築することにある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
7-8月までに、先行研究や関連する文献の整理を継続する。 9月以降に、これまで私が取り組んできた監視研究の成果をふまえて、監視研究の研究者の国内外の研究者のネットワーク、特に、カナダのクィーンズ大学、デイヴィッド・ライアン教授による監視研究の国際ネットワークを手掛かりに、監視研究とcultural criminologyを横断するような議論の可能性を探りたい。そのために、海外への調査を予定している。 cultural criminologyと監視研究は近接領域でありながら、研究の相互交流は希薄である。これらをつなぐことを可能にするような理論的な枠組みを構築することは、これまでにない研究のあり方であり、この点を念頭に置いた資料収取などに取り組む。 具体的なフィールドの調査は本研究の主要な目標ではないが、理論構築に必要な限りで、インタビューなども実施する。(すでに準備中である)
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