2012 Fiscal Year Research-status Report
ストリート文化の「非犯罪化」に関する表現の自由と所有権の相克問題
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23530657
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
小倉 利丸 富山大学, 経済学部, 教授 (60135001)
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Keywords | グラフィティ / バンクシー / 表現の自由 / 美術館 / ストリートカルチャ |
Research Abstract |
第一年度に引き続き、cultural criminologyに関する先行研究についてのフォローを行った。グラフィティと呼ばれるカテゴリーの文化表現は、ヒップホップ文化の一部としてダンスやクラブの音楽文化とともに発展してきた経緯があるだけでなく、こうした出自から離れて、固有のストリートの表現としての展開も遂げてきた。この点については、昨年度に引き続き、英国のグラフィティ・アーティストのバンクシーを中心とした国外の研究が盛んであり、いくつかの新たな知見を得ることができた。特に、バンクシーが制作した映画、exit through the gift shop については、日本国内のグラフィティ関係者からの意見などを聴取する機会を得ることができた。 違法な表現とされることの妥当性を、表現の自由の権利の側から再検討する点で、現代の文化的な表現の制度の中心にある美術館のような制度との比較は重要な意味をもつ。武蔵野美術大学における「芸術と法」のシンポジウムにおいて「芸術の多様な局面と法」のセッションでの「「芸術表現の《場》― 美術館・ストリート」として報告をする機会を得て、美術館とストリート表現とを比較しつつ「表現の自由」をめぐる違法領域とはいかなることなのか、私見を論じた。 本年度の最後に、ストリートにおける表現の自由を「社会運動」との関わりでとらえるために、3月26日から30日にかけて開催された世界社会フォーラムに参加した。開催地のチュニジアは、「アラブの春」の発祥地であり、ヨーロッパのグラフィティ文化の影響も大きい国である。グラフィティが世界のどこにでもみられる表現であり、また、どこにあってもある種の「違法行為(ヴァンダリズム)」とみられるなかで、チュニジアにおけるアーティストたちは、貧困であるからこそ路上での表現を選択するのだ、という明確な主張を持つ者もいた点が興味ぶかい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先行研究のフォローに予想以上に時間がかかっている。また、当事者へのインタビューなどの調査については、まだ十分な取り組みをすることまで至っていないが、対象者については、ほぼインタビューなどの打診ができているので最終年度に実施が可能である。 昨年度にこれまでの研究成果の一部として公表する予定であったバンクシーに関する論文について、出版社の事情で、原稿は仕上がっていたが、昨年度中の刊行ができなかったが、最終年度の前半には公刊が可能である。 ストリート文化に関する「違法性」研究にとって見逃せないこととして、風俗営業法の厳格な適用が一昨年から目立ちはじめており、ヒップホップ文化の必須の場としてのクラブの規制については、研究に盛り込むべきテーマと考え、この点が当初の研究対象に追加して検討せざるをえないこととなった。このクラブ規制については、訴訟もあり、当該の人たちへの調査やインタビューの準備にもやや時間をついやした。この件については、最終年度前半に取り組むことができる。 以上、やや遅れてはいるが、最終年度で挽回が可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度として、以下のことを実施する。 (1)当事者へのインタビュー等の実施。 (2)6月下旬にオランダのアムステルダムで開催されるCultural Criminologyの学会への出席 (3)クラブカルチャーをめぐる訴訟など法的な側面について、弁護士等当事者への調査 今年度後半には、これまでの調査、研究をふまえて最終報告を仕上げる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度の積み残しの研究を早期に実施するために、春にアムステルダム自由大学法学部で開催されるcultural criminology conferenceに参加するとともに、アムステルダムの市内調査を実施するための経費を支出する。 また、クラブカルチャーを含めたストリートのアーティストや弁護士等関係者への聞き取りを実施するための経費を支出する。 バンクシーを中心としたストリートアートについて、英国ブリストルでの追加の調査等を実施し、これらをふまえて、最終報告書の作成と印刷の経費を支出する予定である。
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