2013 Fiscal Year Research-status Report
過疎農山村への人口流入・定住の実証研究ー「限界集落論」批判としてー
Project/Area Number |
23530676
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
山本 努 県立広島大学, 経営情報学部, 教授 (60174801)
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Keywords | 過疎 / 農山村 / 限界集落 / 通院 / 生きがい / 高齢者 / 人口Uターン / 定住 |
Research Abstract |
25年度までの研究で、(1)過疎の新しい段階についての現状規定(=「高齢者減少」型過疎と名付た)を行い、(2)広島県の無医地区を含む山間地域での量的・質的調査を行った。 これを受けて、今年度は(昨年度から継続作業も含むが)、調査データの整理、基本集計の確認、基本的知見の検討などを行った。 これらと並行して、医療、交通問題などの個別課題について、初発的な分析が行われた(また、それに基づく初発的な学会報告が行われた)。この分析では、地域住民の通院行動について、従来の知見とはやや異なる興味深い知見が得られた。すなわち、従来の研究では、過疎山間地域の通院の不便さがステレオタイプ的に強調されてきた。これに対し、今回の調査では、これらとはやや違う実態が見出された。地域住民の通院は、村落的生活様式にみられる地域住民の互助的な助け合いで、(すべてとはいえないが)かなり有効に対処されている。この点は、地域の公共交通問題を分析するに際して、重要な論点である。 加えて、限界集落概念について批判的検討を加えた。「限界集落批判」は本研究課題名のサブタイトルに含んでおり、本研究の重要な論点である。批判点の詳細は後掲の学会発表や書籍を参照して欲しいが、限界集落概念における「限界」性(=地域の展望の困難さ)の無条件的、一律的強調には問題があると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部、補足的な作業が残るとはいえ、次のような課題が現時点では、一応、分析(作業)が終了している。(1)過疎の人口統計学的分析(過疎のマクロ的段階規定の提示)、(2)地域生活構造の量的調査(質問紙調査)の実施、(3)地域生活構造の質的調査(聞き取り調査)の実施、(4)得られたデータの整理、調査データの基本分析、(5)限界集落論の概念的・理論的検討。 このような進行具合から、今回の研究は、「おおむね順調に進行している」と考えていいだろう。調査地域や行政(広島市)担当者への調査報告会も終了し、そこでの意見交換などをへて、通院問題(交通問題)、高齢者の生きがい問題、定住・還流問題、別居子との交流分析などの個別の研究課題が学会等で報告されている。 また、これら個別課題の分析からいくつかの興味深い知見が得られている。すなわち、(1)通院の不便さが地域(や別居子)の互助的対応でかなり大きく緩和されていること、(2)高齢者の生きがい形成に社会参加やコミュニケーション要因が有効に作用していること、(3)還流人口が無視できない量(地域人口の三割弱程度)存在すること、などの知見がそれである。これら知見はどれも、限界集落論的な「一方的滅び」のイメージとは異なる過疎山村の姿(実態)を示している。
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Strategy for Future Research Activity |
通院問題(交通問題)、高齢者の生きがい問題、定住・還流問題、別居子との交流などの個別の分析課題を、前年度までの研究成果を土台にして、より緻密かつ説得的に展開して、分析を終了させるのが今後の課題である。これらの作業が終了次第、学会報告や論文として逐次、発表・刊行される予定である(現時点では、日本社会学会(2014年、神戸大学、テーマ部会)などでの報告が予定されている)。 また、それらの個別課題の分析を総合して、過疎農山村の現状分析を示すことが必要である。本研究はサブタイトルに「『限界集落論』批判として」とあるように、限界集落論的な「滅び」とは異なる過疎農山村の姿(現状分析)を示すことを目指している。 この意図からすれば、村落的生活様式(=すなわち、住民相互の共同による生活課題の処理、つまり、倉沢進氏の「都市的生活様式」に対比する意味での村落的生活様式)の有効性を現代の過疎農山村地域で示すことが重要と思われる。 さらにそのことが日本社会の持続的発展のためにも意義あることを示す論稿を用意したい。この課題は都市の「限界性」、農村の「展開可能性」を提示するという課題と言い換えられる。現時点ではこの課題は、本年度末の書籍論文に発表される予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
日本社会分析学会の台湾(台北)例会、台湾の東呉大学研究者との学術交流(福岡市、西日本社会学会)、アジア農村社会学会のラオス(ビエンチャン)大会、世界社会学会(横浜)大会と多くの海外学会、学術交流などが本年度に集中して、開かれる予定であり、それらへの参加費用を意図的に残して来た。そのために科研と併用できる学内研究資金(競争的資金)を得て、本科研の調査研究にあてて来た。 くわえて、パソコンや書籍、資料などの更新、購入は可能な範囲で、控えて来た。また、震災、原発問題との関係もあり、東北農村での資料収集、聞き取りなどの必要性は感じるものの、本研究では、あえて西日本農村調査に集中して研究費を投入してきた。 台湾の東呉大学研究者との学術交流(西日本社会学会)、日本社会分析学会の台湾(台北)例会、アジア農村社会学会のラオス(ビエンチャン)大会などに出張の予定である。これらの出張では、台湾やラオス農村での資料収集や聞き取り調査なども予定されている。くわえて、今年度は日本(横浜)で世界社会学会もあり、海外の農村社会学者との学術交流が見込まれている。また、今までは西日本農村での研究にほぼ集中してきたが、本年度は(震災、原発問題との関係もあり、)東北(岩手)農村などでの資料収集、聞き取り等も行っておきたく思う。 なお、パソコンの更新、書籍や資料の補充、追加調査の実施なども必要になりそうである。さらには、研究報告の印刷物の作製などにも費用が充てられる。
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Research Products
(5 results)