2012 Fiscal Year Research-status Report
中国の市民社会に良き影響を与えるために:仕組み作りと意識変革のための実践的研究
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23530683
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
李 妍炎 駒澤大学, 文学部, 教授 (90348889)
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Keywords | 中国 / 市民社会 / NGO / NPO / 日中関係 / 日中交流 / ソーシャル・イノベーション |
Research Abstract |
平成24年度は、引き続き環境教育と高齢者分野を中心に、日中両国のソーシャル・イノベーションの事例収集と、キーパーソンに対するインタビュー調査、さらに二分野の背景的研究を行うことを目的とした。事例収集とデータベース作りは順調に進み、特に環境教育分野については合計100事例を超えており、日中間で連携を促す対象となるキーパーソンも合計20名を超えた。その間で実際に交流事業を展開し、現在JICAの支援と、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの支援を得て、日中間の環境教育分野のキーパーソンの間で継続的な交流事業を行っている。「自然学校」「自然共生型」など日本の環境教育分野を象徴する言葉が、中国のこの分野のキーパーソンの間で既に「日本」と共に認識され、大きな関心を呼び起こしている。高齢者分野では、交流促進の対象となったキーパーソンは合計5-6名程度と少ないものの、中国からは日本のこの分野に対する関心が高まりつつあり、交流の申し出も多い。領土問題に起因する激しい反日デモの発生や、両国の国家関係の冷え込みにもかかわらず、草の根レベルでは、交流の意欲は高いままである。二分野の背景研究については、中国の専門家調査を予定していたものの、反日デモの影響で延期となった。その代わり、このような時期だからこそ日本に中国の良識ある市民社会のことを伝える必要がある、という思いから、岩波新書から『中国の市民社会:動き出す草の根NGO』を出版した(2012年11月)。反響がよく、日本NPO学会第11回優秀賞も受賞した。ただ、二分野の背景的研究は、24年度の作業だけでは不十分であり、25年度も引き続き行いたい。 上記の二つの研究目的以外に、東北の被災地での調査を進めた。環境教育NGOによる被災地でのイノベーションの事例調査が目的であったが、それ以外の主体によるイノベーション事業も対象となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展しているといえる。 まず、二分野のソーシャル・イノベーションのデータベース作りと、日中間で交流と連携を促進させていきたいキーパーソンのリストアップは平成23年度から継続して行ってきた。まだ当初の目標である200事例には届かないものの、予期していた成果が得られている。 次に、キーパーソンと専門家に対するインタビュー調査は、反日デモの発生により延期せざるを得ない事態となった。また、キーパーソンに対しては新たに質問紙調査を実施するという計画も立てたが、領土問題による隔たりが顕著となる中、回答にバイアスがかかる可能性を考慮し、24年度は質問紙調査を実施しなかった。だが、その時間を利用して、今までの成果を一冊の新書にまとめ上げることができた。日中関係が緊迫し、冷え込んでいく時期だからこそ必要とされる内容の書物である。出版後は、日本のNPO業界や関係者からたくさんの反響があり、実際に日中間の市民社会の相互理解に寄与することができた。 最後に、東北被災地での調査の進展に伴って、当初想定していた「環境教育系のNGOによる被災地でのイノベーションの取り組み」から範囲が拡大し、効果的なイノベーションを引き起こす可能性のある多様な主体による取り組みに現在注目している。災害分野は、日中間における市民社会の交流を考える際に、同じく重要な分野として位置づけられるため、今後も被災地での調査研究を継続していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1.日中関係の進展状況を見ながら、昨年度計画した質問紙調査の実施を決めていきたい。 2.笹川平和財団日中友好基金の依頼を受けて、日中間の市民社会の交流をテーマに、民間交流の新たな方向性を模索するための文章を寄稿することとなった。そこで、本研究の成果を盛り込んでいきたい。 3.日中市民社会ネットワークを拠点とする実践は、2012年11月から大きく進展している。JICAによる中国で自然学校を支える人材とネットワークの育成事業は既に始まり、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストによる「東アジア環境交流プロジェクト」も進行中である。高齢者分野に関する来日視察ツアーも予定されている。それらの事業に関わっていきながら、事業で出会った日中のキーパーソンたちとよい関係を築いていき、彼らの交流と連携のプロセスを観察していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は主に以下のように使用したい。 1.国外旅費として。日中市民社会ネットワークによる日中交流事業に同行するための費用(8-9月、そして11月か12月に中国現地に出張する予定) 2.国内旅費として。引き続き被災地での調査を行う予定(2-3回程度現地を訪問する予定)その他、学会の参加も考えられる。 3.書籍の購入など消耗品類の出費や、研究協力者への謝金もある程度予想される。
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