2013 Fiscal Year Research-status Report
中国の市民社会に良き影響を与えるために:仕組み作りと意識変革のための実践的研究
Project/Area Number |
23530683
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
李 妍炎 駒澤大学, 文学部, 教授 (90348889)
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Keywords | 中国 / 日中関係 / NGO / NPO / 市民 / 環境教育 / 自然学校 / 市民関係 |
Research Abstract |
平成25年度は、研究実施計画に基づき、環境教育分野を中心に、日中のソーシャル・イノベーションを目指すキーパーソンの間で交流事業を実施し、その現場に身を置きながらフィールドワークを実施してきた。 日本型「自然学校」をキーワードとした日中の草の根の交流によって、中国では予想を超える勢いで自然学校運動が始まっている。9月に雲南省と上海市でぞれぞれ開催された「自然学校全国ネットワーキング会議」は、合計100名近い熱心な参加者が得られた。さらに2014年3月には上海市で「東アジア地球市民村」の開催に携わったことによって、「大地を守る会」の『大根一本からの革命』や、塩見直紀氏による「半農半X」など、日本発の思想やコンセプトが、中国で「持続可能な発展」を目指す人々の間で実践の指針となっている現状を知ることができた。上海近郊のエコヴィレッジでは、半農半Xのコンセプトのもとで、都市部からの移住者がそれぞれの実践を始めている。 自然学校を中心とした日中の環境分野の交流について、日本環境教育学会が発行する『環境教育』Vol.23-3において報告している。また、『研究誌季刊中国』においては、特集「中国の環境問題」の一本として、中国の環境NGOについて執筆した。 日中間のソーシャル・イノベーションを目指す市民同士の交流という方向性と可能性について、平成25年度に至るまでの研究成果を踏まえ、東大出版会が出版した『日中関係史1972-2012 IV民間』において、「国家関係から市民関係へ―『市民的世界』の拡大と日中連携の可能性」と題する章を書き上げた。 さらに、昨年度岩波新書から出版した『中国の市民社会―動き出す草の根NGO』は、研究者のみならず多くの企業関係者からも注目され、日中の市民関係を提唱する上で基本的な文献となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
環境教育分野における日中間のキーパーソンの交流促進とその過程、効果の観察は順調に進められた。日中間では国家関係は冷え込んでいく一方だが、2012年11月からJICAの草の根支援プロジェクトとして発足した、自然学校を中心コンセプトとした日中協働のプロジェクトは、想像を超えるスピードで関係者や有志の間で熱い支持を得ている。日本の自然学校とそのリーダーたちを訪ねる訪日ツアーも、助成金に頼らず「自費」で申し込む人が後を絶たない。「自然学校」がきっかけとなり来日した中国のNGOリーダーや関係者たちは、日本の環境分野のリーダーとその実践を通して、日本への理解が大きく進み、それまでの認識や印象と全く異なる日本観を持つようになったケースも多い。 しかし、高齢者分野における日中間のキーパーソンの交流に関するフィールドワークは、予定していたような参与観察やインタビューはなかなかできなかった。一般社団法人「コミュニティ・ネット」のリーダーを中心に、中国でこの分野のイノベーションを仕掛ける取り組みは始まっているが、現在の中国では、高齢者分野の活動に従事する者のほとんどは営利志向が強く、ソーシャル・イノベーションにつなげようとするキーパーソンが非常に少ないため、「コミュニティ・ネット」が孤軍奮闘している状況である。 だが、環境教育分野の「自然学校」も、高齢者分野の「コミュニティ・ネット」も、中国においてソーシャル・イノベーションを将来的にもたしうる人材を育て、ネットワークを築き上げようとする試みである。その成果を高めるために協力をしていきながら、参与観察によって日中間の「市民関係」の可能性を探っていく現在の作業は、本研究の当初の計画からは外れていないため、研究は「おおむね順調に進展している」といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.環境教育分野については、JICAプロジェクトを中心に、引き続き「自然学校」をコンセプトとして日中間で展開されるキーパーソン同士の交流と連携を促進しつつ観察していく。 2.高齢者分野については、当初予定していた複数のキーパーソンに対するインタビューではなく、コミュニティ・ネットの取り組みを中心にケーススタディを行うようにする。 3.日中とも、政治環境として「ソーシャル・イノベーション」が阻害される要素が増えている。イノベーションを促進する要素について、ある程度の理論的研究を行ってきたが、同時に阻害する要素、そして現状について理論的な勉強も合わせてしていきたい。 4.東北被災地におけるソーシャル・イノベーションにつながる事例について、引き続き調査をしていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
残額は旅費使用の際に発生した端数である。 次年度では調査旅費の一部として使いたい。
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