2011 Fiscal Year Research-status Report
バングラデシュの貧困と国際労働移動に関する実態調査
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23530697
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
鈴木 弥生 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (80289751)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | バングラデシュ / 貧困 / 国際労働移動 / 移住 / クミッラ県 / アラブ首長国連邦 / ドゥバイ / 社会開発 |
Research Abstract |
2011年3月にバングラデシュの各関係省庁及び政府機関において、国際労働移動に関する資料収集と聞き取り調査を行った。また、首都ダカにある斡旋業者の他、アラブ首長国連邦より一時帰国している建設労働者からの聞き取り調査を行った。 さらに、1999年以降調査を継続しているクミッラ県の中で、先進諸国による援助・開発の影響を強く受けているダウドゥカンディ郡に滞在して、国際労働移動に関係している世帯を戸別に訪問した。先進諸国主導による道路拡張計画によって屋敷地を剥奪されてきた最貧困層が居住するP村スラムでは、全世帯の戸別訪問調査を行った。 2011年度の国際労働移動者からのバングラデシュへの送金総額は、約101億ドルにも達している。国際労働移動者総数は45万9060人で、その内、アラブ首長国連邦が22万8469人と約半数を占め、かつ、最大数を擁している。この内、女性の労働者総数は6,067人となっている。また、2004年6月~2012年5月のアラブ首長国連邦での労働者総数は166万9148人にも達している。職種としては建設労働者が約半数を占めている(以上、政府内部資料)。国際労働移動に求められる経費について、アラブ首長国連邦の場合、ダカの斡旋業者への支払い総額は、移動先での建設労働者の所得約1年分に相当する。それゆえ、外国で出稼ぎ労働をするためには、貧困世帯にあっては土地売却や借金によってこれらの費用を捻出しなければならない。それでも、P村に居住する母子世帯や父親の収入が減少している世帯では、国際労働移動以外に一家の生活費を得られる方法がないと回答している。 また、P村スラムでは、先進諸国主導による4車線道路拡張計画に伴ってスラム撤去が強行されているが、それにより、最貧困層の生活状況が深刻化している。これら最貧困層にあっては、国際労働移動に伴う費用捻出も極めて困難な状況がみてとれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、バングラデシュの国際労働移動に焦点をあて、我々が調査を継続している クミッラ県ダウドゥカンディ郡と当該地域からの移動が急増しているアラブ首長国連邦での現地調査を通して、バングラデシュの貧困と国際労働移動との関連性を検討することを目的としている(2012年度以降は、バングラデシュへの送金額増大が顕著なアメリカ合衆国にも焦点をあてる)。 さて、本研究助成での初年度にあたる2011年度は、バングラデシュに滞在して、Ministry of Expatriate' Welfare & Overseas Employmentを始めとする複数の省庁、及び、Bureau of Manpower, Employment of Bangladeshにおいて、国際労働移動のデータ、制度・施策に関する資料収集及び聞き取り調査を行った。また、斡旋業者(2ヵ所)のスタッフ・メンバーからの聞き取り調査の他、アラブ首長国連邦より一時帰国している建設労働者から、現地での労働実態に関する聞き取り調査を行った。 クミッラ県ダウドゥカンディ郡P村では、国際労働移動に関係している世帯を戸別に訪問して聞き取り調査を行った。また、当該地域では最貧困世帯が居住するスラムでの全世帯戸別訪問調査を行った。これらの調査を通して、国際労働移動が貧困問題や社会関係に及ぼしている影響を分析している。 このように、バングラデシュでは複数の機関や農村での戸別訪問調査を通して当該国からの国際労働移動に関する一端を明らかにすることができた。しかし、滞在期間が短期間であったという調査の限界がある。なお、アラブ首長国連邦での調査は、次年度に持ち越すことになった。以上により、交付申請書に記載した「研究の目的」については、おおむね順調に進展していると判断することができるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた研究内容を基にして、さらなる先行研究の収集及び分析を行う。そのうえで、バングラデシュ、アラブ首長国連邦、アメリカ合衆国での現地調査を実施する。調査概要は以下を予定している。 バングラデシュでは、ダカの各関係機関訪問の他、クミッラ県ダウドゥカンディ郡P村に滞在して、2011年度同様、国際労働移動に関係している世帯の戸別訪問調査とP村スラムの全世帯戸別訪問調査を行う。 アラブ首長国連邦では、各関係機関での国際労働移動に関する制度・施策等の聞き取り調査及び資料収集の他、バングラデシュを始め、途上国から移動してきた人々からの聞き取り調査を実施する。中でも、建設作業現場、公園清掃、トイレ清掃に従事している外国人労働者の参与観察と聞き取り調査に焦点をあてる。 アメリカ合衆国では、資料収集と国際労働移動(主にベンガル人の労働実態)の参与観察、可能であれば聞き取り調査を行う。 なお、現地調査が困難となった場合、適宜、その日程を変更する(場合によっては、2013年度に調査を行う可能性もある)。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査によって得られる資料は膨大であることが予想されることから、2012年度もパソコンの購入経費を計上する。また、バングラデシュでの移動時には、信頼できる機関を通して派遣される運転手と車両を要する。当該経費は、首都ダカから農村への移動に際して1日約80~100ドルとなっている。さらに、農村のスラムを訪問する際、ベンガル人が同行することが望ましいため、その経費(1日約80~100ドル)を合わせて計上する。その他、資料・書籍購入経費を計上する。 なお、2011年度に予定していたアラブ首長国連邦での実態調査は、調査日程確保が困難であったことから2012年度に持ち越すことになった。これら経費を合わせて計上する。
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Research Products
(1 results)