2012 Fiscal Year Research-status Report
バングラデシュの貧困と国際労働移動に関する実態調査
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23530697
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
鈴木 弥生 立教大学, コミュニティ福祉学部, 教授 (80289751)
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Keywords | バングラデシュ / 貧困 / 国際労働移動 / 海外出稼ぎ労働 / ダウドゥカンディ郡 / アラブ首長国連邦 / ドゥバイ / アブダビ |
Research Abstract |
我々が1999年より科学研究費の助成によって調査を継続しているクミッラ県ダウドゥカンディ郡は、日米主導の援助や開発によって農村の近代化が推進されてきた地域である。それは、一部の既得権益者に利益をもたらしたものの、貧困層の雇用機会はむしろ減少傾向にある。そのため、現金収入を得ることを目的として海外出稼ぎ労働に就く人々が増加している。 バングラデシュ全体では、2011年度の海外出稼ぎ労働者総数45万9060人のうち、アラブ首長国連邦が22万8469人と約半数を占め、かつ、最大数を擁している。職種についてみると、2004年6月~2012年5月の労働者総数166万9148人のうち、建設労働者が約半数を占めている。 そこで2012年11月、アラブ首長国連邦において、バングラデシュを始めとする途上国からの出稼ぎ労働者166人から聞き取り調査を行った。このうち、49人がバングラデシュ出身者であった。これら49人の中で、11人が女性であった。彼女たちは、家族構成員への送金を目的として単身で出稼ぎ労働に就いている。ダカの代理店には多額の費用を納めたが、職種はトイレ清掃に限定されていた。 また、アブダビ市街にある出稼ぎ労働者の宿泊施設(レーバーキャンプ)には、我々が2000年より調査を継続している世帯の家族構成員が、出稼ぎ労働を目的として滞在している。彼の雇用契約期間は2年間で、ダカの代理店には、事前に現在の給与約18ヵ月分を納めた。仕事はアブダビ市内での高層ビル建設であるが、炎天下での命綱をつけての労働、食費すら賄えないほどの低賃金等、過酷な労働実態が明らかになった。 そのほか、2012年9月にニューヨークに滞在してバングラデシュから移動してきた人々40人から聞き取り調査を行った。彼・彼女らの殆どは、現金収入を得ること、かつ、送金を目的として、ダイバシティ・ビザによって移住している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、バングラデシュの国際労働移動に焦点をあて、我々が調査を継続しているクミッラ県ダウドゥカンディ郡と当該地域からの移動が急増しているアラブ首長国連邦での現地調査を通して、バングラデシュの貧困と国際労働移動との関連性を検討することを目的としている。また、2012年度は、バングラデシュへの送金額増大が顕著なアメリカ合衆国にも焦点をあてる。 これら研究目的を達成するために、2012年11月にアラブ首長国連邦に滞在して、バングラデシュを始め途上国から移動してきた人々から労働実態に関する聞き取り調査を行った。また、アブダビ市街のレーバーキャンプを訪問した。そこには、我々が2000年より調査を継続している世帯の家族構成員(男性)が出稼ぎ労働を目的として滞在している。その男性から数時間に及んで聞き取り調査を行った。このレーバーキャンプ周辺は砂漠で、建物内に外部者は出入りできない。そこで、レーバーキャンプよりアブダビ市内に移動して聞き取り調査を行った。 さらに、バングラデシュ出身の労働者が多くみられるニューヨークに滞在して、バングラデシュ出身者40人より聞き取り調査を行った。彼・彼女らの殆どは、現金収入を得ることを目的として移住している。送金額はそれぞれであったが、中には、家賃と食費を除く殆どを送金にあてている人もみられた。ニューヨークでは、バングラデシュ出身者が多く生活しているコミュニティでの実態調査も行った。そこでは、家族構成員に同伴して移住している人々も多くみられた。 これら調査内容については、『国際開発研究』(国際開発学会)等に投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
国際労働移動の実態を把握するためには、移動先に出向いて調査を行う必要性があることが分かった。というのも、海外出稼ぎ労働者の実態について、残された家族構成員は必ずしも正確に把握していないということが明らかになったからである。出稼ぎ労働に就いた本人が、家族構成員に心配をかけたくないという理由から、自らの労働実態を知らせていないこともある。そのため、2012年度に続いて、アラブ首長国連邦とアメリカ合衆国での調査を実施する。これら調査は短期間では限界があることから、ある程度の日程を確保する必要がある。 また「国際労働移動は二国間の孤立した現象ではなく、グローバルな労働の流れの一環として位置づけられる」(森田桐郎編著『国際労働移動と外国人労働者』同文舘、1994年、25頁)という指摘から、アラブ首長国連邦近隣諸国のほか、バングラデシュからの出稼ぎ労働者がみられるアジア諸国で基礎的な調査を行う予定である。アメリカ合衆国については、ニューヨーク以外の主要都市においても実態調査を行う予定である。 なお、こうした労働実態に関する調査については、相当慎重に進める必要性がある。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調査によって得られる資料は膨大であることが予想されることから、2013年度もパソコンと大型プリンタ購入経費を計上する。 上述したように、国際労働移動に関する調査は相当慎重に進める必要性がある。場合によっては、調査日程を早めて帰国しなければならないといった事態に遭遇する危険性もあることから、その場合の旅費を申請する。 2012年度に予定していたバングラデシュでの調査は、調査日程確保が困難であったことから2013年度に持ち越すことになった。これら経費も合わせて計上する。
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Research Products
(2 results)