2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530713
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Research Institution | Konan Women's University |
Principal Investigator |
芦田 徹郎 甲南女子大学, 人間科学部, 教授 (20151053)
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Keywords | 芝居小屋 / 祝祭(性) / 地域文化 / 伝統の発明 / 文化の真正性 |
Research Abstract |
本研究は、全国各地の伝統的な芝居小屋が高度経済成長期前後に経営不振と老朽化によってそのほとんどが消滅する中で、解体または倒壊の寸前にまで追い込まれながら奇跡的に再生を果したいくつかの事例に即して、「祝祭空間」の蘇生の現代社会論的な意味と意義を文化社会学的ならびに地域社会学的に解明しようとするものである。より個別的には、次のような研究課題を設定している。 ①芝居小屋復興の地域社会的要因:芝居小屋は、なぜ、いかにして、再生されたのか。②復興した芝居小屋の活動/活用実態:現代の祝祭空間は、どのように立ち現れるのか。③芝居小屋復興の地域社会へのインパクト:祝祭性と日常性は、いかに切り結ぶのか。④芝居小屋復興の現代社会論的意味:現代人は、芝居小屋の祝祭性に何を求めるのか。 前年度(初年度)は、熊本県山鹿市に残る「八千代座」に焦点を絞り集中的な現地調査を実施したが、本年度は、引き続き「八千代座」を重点調査研究対象としつつ、石川県七尾市の「でか小屋」、香川県琴平町の「旧金毘羅大芝居(金丸座)」、愛媛県内子町の「内子座」、福岡県飯塚市の「嘉穂劇場」、同県八女市の「福島の燈籠人形」等、西日本各地の芝居小屋及び舞台にまで調査研究の対象を広げ、主として文献資料の収集、及び芝居(人形芝居を含む)公演並びに復興運動の観察調査を実施した。この結果、当研究課題に照らして、それらの芝居小屋(舞台)及び地域社会の共通性とそれぞれの独自性とがかなり明白になってきたと考えている。 さらに理論面での研究では、従来から考究を続けている現代「祝祭」論に加えて、「伝統の発明」論、「文化の真正性」論、「メディア・ツーリズム」論等のレビューをほぼ終了しており、それらの有効性と課題についての考察を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記したとおり、本研究課題にとってもっとも重要な対象事例と位置付けている熊本県山鹿市の八千代座のほか、西日本各地の芝居小屋の復興と活用の事実経緯及び現状についての調査(主として文書・映像資料の収集と観察調査)を精力的に進めた結果、研究課題を解明する道筋をほぼ見通すことのできる段階にまで来たと判断しており、おおむね順調に進展していると言える。 本研究の対象となりうる芝居小屋は、西日本だけではなく、東日本にもまだいくつか存在するが、これらについては、次年度(最終年度)補足的な位置づけでの研究調査を実施したいと考えている。 ただ、膨大な資料の収集と整理におわれ、いまだ中間報告的なものにしろ、ペーパーや学会での口頭発表という形でその成果の一端をも公表できていないのは遺憾である。この点は、学術面でのありうべき最大限の達成度からはいくぶん割り引かねばならないと自覚している。 とはいえ、本研究の意図と意義を理解していただいているそれぞれの芝居小屋(とくに熊本県山鹿市の「八千代座」)関係者からは、折に触れて芝居小屋の再生や活用についての意見やアドバイスを求められており、また地元地方紙にも研究知見の一端が紹介されるなど(熊本日日新聞、2013.03.18、「取材前線」)、調査研究の社会的還元ということでは、すでにそれなりの貢献を積み重ねていると自負している。 今後も学術研究と社会貢献という両面において所期の目的の達成に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
過去2年間の研究遂行によって、熊本県山鹿市の「八千代座」を中心に西日本に位置するいくつかの芝居小屋の復興と活用についての事実経緯と現状を、ほぼ把握することができたと考えている。本研究の最終年度にあたる次年度においては、秋田県小坂町の「康楽館」、栃木県みどり市の「ながめ余興場」等、東日本に存在する芝居小屋の復興と現状についてもその概要を把握するつもりであるが、研究の主流は八千代座(熊本県山鹿市)を中心とする西日本各地の芝居小屋の事例に即しての研究成果の総仕上げにある。 これらの芝居小屋については、文書資料、映像資料、観察記録等の客観的な資料の収集をほぼ終了している。当然これまでも聞き取り調査による資料・情報収集も同時に行ってきたが、次年度(最終年度)は集中的なインタビュー調査などに力点を移して関係者の内的世界の把握にも努め、研究に厚みないし深みを加えたい。。 加えて、祝祭論、伝統の発明論、文化の真正性論、メディア・ツーリズム論等、現代文化についての諸理論を批判的に検討することによって、芝居小屋復興の意味と意義についての、地域社会学的、文化社会学的、及び現代社会論的なパースペクティブを得ることで、所期の研究目的の達成につなげていきたいたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に交付が予定されている助成金は1,000.000円であるが、当年度の未使用金が102,723円残っており、次年度(最終年度)は総額1,102,723円で研究費の使用計画を組むことになる。本年度において(本年度までに)未使用金が出たものの、本年度の交付金額(1,100,000円)及びこれまでの交付金総額 (2,900,000円)に比べてそれほど大きな金額ではなく、おおむね当初の計画どおりの適切な使用実績であったと考えている。 次年度は最終年度であり、研究成果の取りまとめが最重要課題となる。ただし、「今後の研究の推進方策」に記したとおり、関係者への聞き取り調査やインタビュー調査を積極的に進めるとともに、まだ手つかずのままになっているいくつかの芝居小屋の現地調査を実施する必要があり、「旅費」が相当額を占めることになる。またインタビューとそのテープ起こしには相当量の時間が必要になるが、この作業には研究協力者の助力をあおぐ予定をしており、そのための謝金での支出を予定している。また、研究の社会的還元の一環として、地域社会及び関係者に配布するために、冊子体での研究成果報告書の作成を予定しており、その印刷製本費を「その他」の項目で計上している。物品費での支出を予定しているのは、すべて消耗品費である。 次年度に予定している研究費の費目別内訳は次のとおりである。 物品費:100,000円、旅費:550,000円、人件費・謝金:250,000円、その他:202,723円 (合計.. :1,102,723円)
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