2011 Fiscal Year Research-status Report
精神障害者の語りの実践と関心コミュニティの展開可能性
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23530721
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
南山 浩二 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60293586)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 語りの実践 / 関心コミュニティ / 精神障害者 / 当事者活動 / リカバリー / ストレングス / ナラティヴ / 地域生活 |
Research Abstract |
本研究の課題は、地域の医療福祉現場における具体的活動を取り上げ、経験を語ることが語り手自身にもたらす意味もふまえた上で、その語りが流通・共有されることを通じて、障害者(または家族)を支援する関心コミュニティが地域社会に形成されうる可能性について検討することにある。この研究課題達成のため、初年度は以下に列挙する具体的課題について遂行した。(1)内外の関連する文献や資料の収集・検討を通じて、リカバリー概念に関する論文、家族会活動に絞り、語りの実践を媒介とした関心コミュニティ形成の可能性に焦点をあてた論文を執筆した。また、ナラティヴアプローチの視点から、専門家支援のあり方について検討した報告を学会シンポジウムにおいて行った。(2)NPO地域精神保健福祉機構が主催するリカバリーフォーラム等への参加、NPO 精神保健福祉交流促進協会などの関連機関からの情報収集に基づき、日本におけるリカバリー概念に基づいた語りの実践活動の現状と課題について把握した。(3)当初の予定通り、フィールド対象として浜松市ぴあクリニックおよび当該クリニックに併設されている虹の家を選定し、関係者との調査実施に関わる打ち合わせを行った。そして、初年度後半よりフィールドワークを行い障害者が経験を語るグループの参与観察を行い、障害者が自らの経験を語ることを可能としている集団・相互作用の特性を記述するとともに、グループ参加者の発言から、自らの経験を語るということや他の参加者の経験の語りを聴き共有することの意味について検討した。(4)翌年度に着手する関心コミュニティも含むエコマップ作成の準備として、当該クリニックを拠点とした資源・サービスマップを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画において列挙した本年度の具体的な課題すべてについて着手・遂行することができた。以下、各項目についてその達成度について確認する。(1)の関連文献や資料の収集・検討に基づく論文執筆・学会報告については、今後、検討を深化させながら適宜公表していくことが求められるが、本年度は、複数本の論文執筆と学会シンポジウムにおける学会報告を行っておりおおむね達成できたものと考えられる。(2)の日本におけるリカバリー概念に基づいた語りの実践活動の現状と課題の把握については、全国的概況を把握しうる量的データの収集などが今後必要と思われるが、本年度は、関連するフォーラムへの参加や研究交流、関連機関との交流に基づき、集中的に達成することができた。またこの活動を通じて、今後随時意見交換が可能である各実践に携わっている関係者との関係づくりもできたことが大きな成果と言える。また(3)のフィールドワークについても、当該クリニックの全面的協力のもとスムーズに進行しており、活動に参加する障害当事者からも順調に協力がえられている。(4)についても、当初の予定通り、医療・福祉資源状況の概況把握が完了している。以上の様な理由から、初年度は当初の具体的な研究目的を達成できており、おおむね順調に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に引き続き、浜松市ぴあクリニックについて、障害者が経験を語るグループの参与観察を中心としたフィールドワークを行うとともに、語りの実践を介して関心コミュニティを獲得した事例を抽出する。抽出された事例については、それまでのフィールドワークを通じて得られた情報や前年度に作成した当該クリニックの資源・サービスマップに基づきながら、各事例ごとにエコマップ暫定版を作成する予定である。フィールドワークの結果もふまえながら、障害者が自らの経験を語ることを可能としている集団・相互作用の特性や、語り手にとって他者に自らの経験を語るという実践の持つ意味、聴衆にとって経験の語りを聴き共有することの意味に焦点をあてた論文を執筆するとともに、本調査研究の中間報告を関連学会で行う。これらの作業を通じて抽出された個別事例に焦点をあてフィールドワークを行い、関心コミュニティの規模や構成、形成過程を記述するとともに、当該コミュニティが、障害者にもたらしている意味について考察する。そして、調査結果に基づきながら、関心コミュニティの規模・構成、各関係の紐帯の強弱、他の資源・サービスの付置・利用状況を再検討・再確認し、当該事例のエコマップを完成させる予定である。なお、調査には一定程度時間を要することが考えられるため、調査期間に余裕をもたせ平成24 年度末までに終了見込みとする。なお最終年度は、成果の集約と公表が主な課題となるが、適宜補足的な調査や文献検討を並行して行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は、文献・資料の収集・検討を通じてセルフヘルプグループ、ナラティヴアプローチ、リカバリー概念を基盤とした取り組みなどの最新動向をふまえつつ、実際にフィールドワークを行うため、初年度に引き続き、次年度も、本研究の遂行にあたり充分な設備備品費および旅費が必要となる。また、インタビューも実施するため研究協力者への謝金も必要となる。その他、フィールドワークで得られたデータを保存するためのUSBメモリなどの記憶媒体、印刷物を保存するファイルなどの購入が必要となる。
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Research Products
(3 results)