2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530730
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Research Institution | Niigata College of Nursing |
Principal Investigator |
境原 三津夫 新潟県立看護大学, 看護学部, 教授 (30332464)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
櫻井 信人 新潟県立看護大学, 看護学部, 助教 (40405056)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 触法精神障碍者 / 医療観察法 / 社会復帰支援 |
Research Abstract |
精神障害者の犯罪について知る方法は、人権的配慮から事件早期の新聞報道以外にはない。まず、わが国の地方紙を含めた新聞をすべて調べることにより、平成22年内に発生した精神障害に起因する重大事件の抽出を試みた。国立国会図書館において新聞記事検索システムを用いて精神障害者が犯した殺人事件を検索した。事件の詳細についてはさらに地方紙を調べることで、発生した場所、時間、被害者との関係、事件の態様、精神疾患の状態等の背景を抽出することを試みた。しかしながら犯行が精神障害者によるものだと判明した途端に新聞社は報道をやめてしまうため、結局のところ事件の特徴を明らかにするまでの資料をえることはできなかった。司法関係機関に情報の公開を求めてアプローチしたが、これも精神障害者の人権保護の観点から難しいことが判明した。そこで、裁判所が公開している判例を調べることからアプローチを行った。この場合、心神喪失のため医療観察法による処遇がなされるものは裁判にかからないため、精神障害の中でも心神耗弱状態で犯行に至ったものが対象になる。司法関係者以外の者がアプローチする方法としてはこれが限界であり、現段階ではこれらの検索を行いつつ、随時分析に入っているところである。 また、これと並行して、触法精神障害者の現状を把握するため、医療観察法に基づく指定入院医療機関をもつさいがた病院の精神保健福祉士と研究の打ち合わせを行っている。触法精神障害者の社会復帰を支援するということと精神障害者が触法行為を犯さないような地域支援システムづくりをすることはイコールであり、精神保健福祉全体を考えた場合、精神障害者が触法行為を犯さなくてもすむような地域社会および保健福祉体制を築くことが、最終的に触法精神障害者の社会復帰支援につながるのではないかという視点にたって、もう少し広い視野で研究を発展させるよう検討を重ねているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医療観察法処遇者が社会復帰する場合、最大の課題は再犯の予防である。再犯予防のために地域社会として整備すべき受け入れ態勢を社会に提示すること、精神科医療従事者や福祉専門職が行うべき具体的な支援を明らかにすること、精神障害をもつ人々に対する社会の偏見を拭い去るための啓蒙活動の具体的な方法を明らかにすることを目的として本研究は行われている。これらのことを検討するための前段階として、平成23年度は精神障害者が関係した犯罪について、判例や新聞記事を中心に事例を収集した。これらの事例を分析することにより、精神障害者およびその家族が地域社会の中で安心して生活していくことを困難にする要因の抽出を行ってきた。精神障害者の人権保護の観点から、収集できた事例の数は制限されているが、平成23年度の計画はおおむね遂行できたと考えている。今年度の成果をまとめて学会発表およぶ論文作成を考えており、来年度以降は、これらの問題となる要因を解決するための方策について、英国の精神保健システムを参考にしながら検討する段階に到達したところである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は平成22年内に発生した精神障害に起因する重大事件の抽出を試みた。精神障害者が犯した殺人事件を新聞記事から抽出し、その特徴を明らかにする予定であったが、犯行が精神障害者によるものだと判明した途端に新聞社は報道をやめてしまい、また司法関係機関に情報の公開を求めてアプローチしたが、精神障害者の人権保護の観点からこれも困難であることが判明した。このため当初の計画を変更し、精神障害者が家族に殺害される事例を抽出し、精神障害者家族が抱えている問題を明らかにすることからアプローチを行い、精神障害者およびその家族が地域社会の中で安心して生活していくことを困難にする要因を検討した。これらの問題を解決することは、結局のところ触法精神障害者の社会復帰を支援することにつながる。今後は、地域における包括的な精神障害者支援を成功させている英国の例を参考にし、医療と福祉を合体させた精神障害者およびその家族に対する支援システムを検討していく予定である。触法精神障害者の社会復帰を支援することは、精神障害者が触法行為を行わなくてもすむような地域福祉社会を構築することであり、人権保護の観点による情報公開の制限によりアプローチの仕方の変更を余儀なくされたが、研究の目的に変更はなく、研究の達成度についてもほぼ予定通りに経過している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は精神障害者が関係した犯罪について、判例や新聞記事を中心に事例を収集した。これらの事例を分析することにより、精神障害者およびその家族が地域社会の中で安心して生活していくことを困難にする要因を抽出することができた。これらの問題を解決することが、触法精神障害者が社会復帰するためには必要であり、そのためのシステムづくりについて検討する段階に到達しているが、次年度はWHO欧州事務局が積極的に取り入れることを推奨している英国における最新のコミュニティモデルを視察し、その中心的な活動である危機解決/家庭治療サービス(CRHT:Crisi Resolution/Home Treatment Teams)などがわが国の精神保健福祉になじむか否かについて検討を行う予定である。その中のひとつであるACT(Assertive Community Treatment)はわが国でも一部の地域で実践されているが、コストなど多くの点で普及するには至っておらず、社会的入院の抑制に対応可能は地域の体制づくりが遅れているのが現状である。伝統や文化、宗教的な背景、さらに福祉に対する国民や政府の考え方が英国とわが国では違いも多く、わが国の精神保健福祉を考えていかなければならないと考えている。
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