2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530731
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
日根野 建 福井県立大学, 看護福祉学部, 准教授 (30388657)
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Keywords | 国際情報交流 / アメリカ / ソーシャルワーク |
Research Abstract |
平成25年度には、一貫して、リッチモンド(M.E.Richmond)自身の著作や彼女に関係する先行研究の再点検と再整理を行うとともに、コロンビア大学で収集したリッチモンドの職能団体や養成学校の構想に関する史料の整理や解読を進めた。 そして、前年度に発表した「M.E.リッチモンド―ソーシャル・ケース・ワークの母」『人物でよむ西洋社会福祉のあゆみ』ミネルヴァ書房や、「ケースワークの視座形成―リッチモンドの前半生と著作より」関西社会福祉学会年次大会、またリッチモンドに関する先行研究を読み直す基礎作業を踏まえて、リッチモンドがケースワークを大成した代表的著作である『社会的診断』を捉え直す試みを行った。そこでは、社会的証拠や社会的診断といった『社会的診断』の概念と構成、「友愛訪問」や「善き隣人」に発する『社会的診断』の着想と思索、社会的困難、全体的人間、基本的哲学といったケースワークの理念と視点、初回の面接、外部情報源、社会的診断からなるケースワークの過程と手順といった『社会的診断』の含意を取りまとめた。この成果の発表は、残念ながら年度内には不可能であったが、今年度の早い時期には予定している。 また平成25年度には、引き続き最終年度に仕上げる研究成果の全体像を描き出す予備作業として、リッチモンドのソーシャルワーク構想を取り巻いて影響をもたらした時代状況の詳細な把握ほかリッチモンド以後の変遷をも視野に収めて、主要な人物や文献の特定等を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『社会的診断』を捉え直す試みで、リッチモンドのソーシャルワーク構想の輪郭を新しく描き出すことはできた。 しかし、最終的に取りまとめる研究成果の全体像を、慎重を期してさらに入念に検討する必要を覚えて、学術論文の発表や海外古書の購入を持ち越した。また、諸般の事情によりコロンビア大学図書館の再訪が不可能となり、また国内大学図書館の訪問が不十分となった。このことにより依然として、具体的にはリッチモンドの専門職化に関係して日本には所蔵がないアメリカ・ソーシャルワーカー協会の機関誌The Compassの初期巻号の閲覧や、また彼女の教育活動に関係して日本には所蔵がないNew York School of Social Workに関する研究著作の閲覧を果たすことができなかった。ただし、このことと関係して予定していた資料の整理や保管のための若干の環境整備は先行的に行えた。 そして、最終的に取りまとめる研究成果の予備作業を行った。このことにより、当初の研究目的の達成をはたす見込みがついた。
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Strategy for Future Research Activity |
期間延期で取り組むため、以下は昨年度に提出した実施状況報告とほぼ同様の内容になる。 まずは、リッチモンドの慈善組織協会の入職以前の来歴や、文学嗜好や宗教信仰が紡いだ思想に関する学術論文、また『貧困者に対する友愛訪問』(1899年)と『現代都市における善き隣人』(1907年)に関する学術論文を発表する。以上は、関西社会福祉学会年次大会(2013年3月10日)で「ケースワークの視座形成―リッチモンドの前半生とに著作より」と題して行った自由研究発表に基づく。さらに、コロンビア大学図書館で収集したソーシャルワークの職能団体や養成学校に関するリッチモンドの専門職化や教育活動の史料紹介を行う。 そして、以上を踏まえた成果を総合して、リッチモンドのソーシャルワーク構想の核心として19世紀末葉から20世紀初頭にかけて社会福音運動や社会科学運動に影響をうけて彼女が形成するソーシャルワークの視座、そして職能団体や養成学校の整備動向に関する学会発表を行うとともに、学術論文の発表または投稿を行う。くわえて、この研究成果を平易に書きまとめて社会福祉士会等に配付するためのブックレットを作成する。 以上は、最終的に取りまとめる研究成果の全体像を描き出す予備作業に基づいて、高額な海外古書の最小限の体系的な入手、コロンビア大学図書館ほかニューヨーク市立大学図書館など海外大学図書館や同志社大学図書館ほか関西学院大学など国内大学図書館の利用、また必要に応じてRockefeller Archive Centerで特定済みの史料の効率的な入手をはかり、行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の要は、米国の図書館や資料館が所蔵するM.E.リッチモンドの手稿や書簡ほかの1次資料を用いるところにあり、初年度には渡米を果たして一定の進捗があった。ところが、諸般の事情により再度の渡米で史料収集する期間を十分に確保することが予定通りできず、これに伴い当初計画の作業が全体的に遅延して予算執行を抑えた。また、最終的な研究成果の全体像を、慎重を期してさらに入念に検討することに伴い、予算執行を控えた。 研究環境や備品の整備については十分であり、主に次のとおり未使用額の使途を予定する。渡米旅費(コロンビア大学およびニューヨーク市立大学ほか)、国内旅費(同志社大学学術情報センターおよび関西学院大学図書館ほか)、資料複写費、海外古書等費、最終的な研究成果を社会福祉士会などに対して平易に取りまとめた冊子の製本費・郵送費など。
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