2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530744
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Research Institution | Iwaki Meisei University |
Principal Investigator |
鎌田 真理子 いわき明星大学, 人文学部, 教授 (30320542)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 権利擁護 / 成年後見 / 地域福祉 / 市民後見人 / コミュニティソーシャルワーク |
Research Abstract |
当該年度の研究では権利擁護システム構築のための基礎調査として国内で開設されている権利擁護センターの聴き取り調査を行った。東日本大震災発生年の影響のため、予定していた東北地区の調査は断念せざるを得なかったうえ、調査開始時期は大学再開の5月中旬以降から準備に取り掛かり秋以降に繰り下げての実施になった。しかし時間をかけたことで臨床実践者から有用な情報提供を受け平成24年度以降の研究に重要な視点を得た。 調査対象は関西地区の権利擁護・成年後見のセンターで先駆的な取り組みを展開している「(1)大阪成年後見センター」、全国権利擁護センターを組織化する「(2)西宮権利擁護センター」、独自の設立経緯を持つ「(3)NPO法人あさがお(大津市)」の3か所で聞き取り調査を実施し、関係者たちへのインタビューを行った。国内で開設されているセンターを大別すると、成年後見制度に特化した活動を行う調査対象の(1)「成年後見センター」に、(2)(3)は成年後見事業のほかに虐待解決防止活動などの権利擁護活動全般を展開している「権利擁護センター」に分類できる。(1)は単身の生活保護受給者を多く抱えた地域事情から地域福祉の視点で「市民後見人」の養成を実施し、地域福祉として地域住民が支援する「市民後見人」ボランティアの活動者が担い手になっている。これは地域課題を解決する方式を構築しているが、担い手不足は解消できていない点は今後、解決策の手がかり分析につながると考えられる。 (2)(3)は全国組織(ASネット)に加盟の権利擁護センターとして目的や意義は近いものになっており、その事業活動は草の根的で地域資源の開発や高度な活動スキルを持ち、虐待案件の解決なども手がけるなど幅広い展開を個々のセンターで行っている。個々のセンターの調査および分析を行うことは現状と課題の理解につながり、権利擁護センターシステム構築の手がかりを得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目は国内で既開設の成年後見センター設立の経緯や運用実施状況などの調査分析を行うため、地域生活定着型権利擁護支援センター11箇所の半数地区について設立経緯や運用実施状況などの聴き取りインタビューを予定していた。 しかし、半数という数字上での達成は東日本大震災以後の影響もあり、やや至らなかったものの、権利擁護センターに関する調査を進めていくうちに、前提として理解しておく必要のある国内の権利擁護センターの二分類について理解が進んだ。この理解の過程は本研究の「権利擁護」に関する概念規定の不明確さによるものと思われるが、本研究では権利擁護の中に含まれる成年後見活動や権利侵害防止対策支援を対象としていたことを改めて再確認できた。達成度としては70%の評価と考えられる。以下は調査実施事例数が半数に達しなかったその背景と理由である。権利擁護センターとして成年後見のみを行う「成年後見センター」で先駆的なケースの「大阪市民後見センター」で聴き取り調査を実施した。このセンターは全国でも成功事例として取り上げられているが、市民後見人の受任者の横ばいは大きな課題であり、さらに外部からは無報酬でかつ重責を担わせる市民後見人のあり方に批判的な見方があることがこの調査後に判明した。市民後見人活動への批判的見方は、虐待対応も含めた権利擁護センター活動を展開する「全国権利擁護虐待支援ネットワーク」が主催・開催した全国研究大会のシンポジウムにおいても問題提起されていた。以前から市民後見人にネガティブな立場のNPO西宮権利擁護センター、NPO法人権利擁護センター「あさがお」で聴き取り調査を実施した。以上、聴き取り調査対象数は3ヵ所と全国研究大会への参加で予定数には達していないが、次年度以降の調査対象の選定に参考になる背景が理解できた段階に留まったことで研究成果の発表には時期的に至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度の研究成果で明らかになった「権利擁護センター」方式は「成年後見センター」よりも総合的な事業目的を有し参考になると判断できるため、平成24年度は「権利擁護センター」を重点的に聴き取り調査を平成23年度に継続して行っていく。その調査対象は現時点で合計5ヵ所を調査対象として計画(6月~10月実施予定)しているが、仮説の検証作業過程で調査対象を加えていくことも想定している。全国権利擁護支援ネットワークASNETネットに加盟しているセンターのうち先駆的かつ事業実績を伴うと判断可能な(1)北海道南富良野社会福祉協議会、(2)宮城福祉オンブズネット「エール」、(3)岡山ネット懇などを予定している。 担い手に注目した「市民後見人」については新たな課題として養成講座受講者の横ばいや、活動者の伸び悩みなどが明らかになった。成年後見活動において今後に期待される「市民後見人」だが、現在、養成を行っている主要機関への聴き取りも加えるとともに、「市民後見人」活動事業の成功事例として注目される(4)品川区社会福祉協議会、(5)世田谷区などの事例も調査予定としとあげておきたい。この調査は年間を通じて実施予定である。市民後見人養成プログラムについては主たる研究者がスーパーバイズを引き受けている実施団体受講者への教育効果の評価を測定し、市民後見人養成プログラムを分析・検証を行う(7月~9月)。専門職後見人として活動を展開している社会福祉士会を対象に成年後見制度の受任活動の課題を明確化する。この調査は「福島県ぱあとなあ」登録・活動者へ質問紙郵送調査(10月~2月予定)で計画している。権利擁護センターの開設の実証実践については、主たる研究者が係わる地区の権利擁護センター設立に向けた準備委員会立ち上がる今年度半ばから、調査結果などから得られた知見を反映させながら実践的な検証を行いながら進めていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度のセンター聴き取り調査は震災の影響から西日本を中心に3か所で実施したが、日程的な制約から出張回数は3度に及び「旅費」支出が大きな課題であった。このためその後の聴き取り調査の実施に影響を与えた。平成24年度の調査対象地は前年度に増して遠隔地であるとともに調査件数が多い。現時点で予定しているセンターの聴き取り調査は北海道・宮城県・岡山県・東京都などである。このほかに研究会(沖縄県)や学会(兵庫県・岡山県)への参加予定である。現行の交付予定金額では旅費は20万円であり、この金額では研究計画の進行に影響を及ぼしてしまうと予測される。このため前年度の残金を「旅費」に使途変更をして今年度の研究計画を実施する。この変更によって予定しているセンター聴き取り調査の計画実行と、研究成果報告の学会参加が可能になる。 「物品費」については、調査のフィールドで使用できる携帯用プリンターや研究用書籍の購入を予定している。 「人件費・謝金」は平成23年度の使途では予定していた人件費は発生しなかった。そのため残金が生じた。その理由は、平成23年度の調査はセンターに関する詳細な聴き取り調査を実施したためである。情報収集を目的とするには聴き取りインタビュー形式が有効であることから質問紙による調査は行わなかった。しかし、今後、予定しているすべてのセンターについて聴き取り調査が終了する平成26年度には再び質問紙での調査を検討している。また、平成24年度は社会福祉士を対象に質問紙郵送留置調査と市民後見人の教育効果測定を目的に質問紙調査と面接調査を計画予定である。この調査作業には印刷・郵送・データー入力などの人手が必要であることから人件費の発生を予定しており、加えて専門的実践者によるアドバイスや臨床実践に関する情報提供者への謝金も発生する。 「その他」の予算費目は研究計画通り印刷・通信費を予定している。
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