2012 Fiscal Year Research-status Report
低酸素脳症者の実態、生活支援、社会支援についての多施設協同研究
Project/Area Number |
23530748
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Research Institution | Tokyo University of Social Welfare |
Principal Investigator |
先崎 章 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (20555057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浦上 裕子 国立リハビリテーションセンター病院第一診療部(研究所併任), その他部局等, 医長 (00465048)
花村 誠一 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (40107256)
大賀 優 東京医科大学, 医学部, その他 (10251159)
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Keywords | 低酸素脳症 / ICF / 高次脳機能障害 / 記憶障害 / リハビリテーション / 生活支援 / 社会支援 |
Research Abstract |
「実態、生活支援、社会支援についての研究」 研究者、研究協力者(神奈川リハビリテーション病院 青木重陽)それぞれが、重症度の異なる層を対象に、低酸素脳症の実態と生活支援、社会支援の方法を検証した。(1)4年間で救急病院に搬送された心肺機能停止371例中の蘇生成功80例の分析から、積極的リハビリテーション介入の対象となる低酸素脳症の発生率は、人口10万人あたり年間0.3人程度と推定。(2)10年間にリハビリテーションセンターを退院した低酸素脳症76例を、入院時低身体能力(FIM<20)群26例と高身体能力(FIM≧20)群50例とに分けて検討し、低身体能力群では26例全例がMMSE 1点以下、高身体能力群50例では最終的に39例が歩行可能となったが、48例で記憶障害、49例で病識低下がみられた。 (3)5年間に介入した低酸素脳症者50例の、疫学、診断、症状、リハビリテーション、予後について検討し、回復期のみならず、発症1年経過時点、発症2~3年時点、または10年以上経過時点においても、医学的リハの方法を用いて再評価や環境調整を行うことによって、社会参加を促進しうることを示した。(4)5年間に外来通院した36例をリバーミード行動記憶検査にて改善の度合いを継時的にみたところ、びまん性軸索損傷群や前交通動脈瘤破裂群と比較して改善率が低かった。 「ICFを利用した研究」(1)日本語版家族・支援者チエック用ICFコアセット(脳外傷者用簡易版)2012年質問紙版にて、外来通院中の低酸素脳症者16例の「活動と参加」「環境促進因子」を評価した。「活動と参加」のいくつかの項目でFAM認知やTBI-31、Zarit介護負担尺度との相関を認めた。(2)臨床場面で、具体的な症例に対して、医学的リハから就労に移行する段階でICFの導入を試み、その結果を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「多施設で統一的な検討となっていない点について」 研究に参加している4施設が治療や支援の対象としている低酸素脳症群は、高次脳機能障害や身体障害の様相や重症度、そして支援の方法が、施設ごとに異なることがわかった。そのため4施設の低酸素脳症例を連結して全体として検討すると、かえって実態や生活支援、社会支援の在り方が不明瞭になってしまう危惧が生じた。そこで、4施設それぞれ独立して検証し、全体を総括して最後に報告書としてまとめる方法をとることにした。 「ICFを使用することについて」 生活障害や環境をICFにて評価する作業が難解である。日本で公開されているICFは、各項目の日本語訳が実用レベルにはなされていない現状がある。また各項目について5段階での評価基準が、現状のままでは曖昧で評価の信頼性には疑問が残る。そこで脳外傷者用のコアセット簡易版を用いて、脳損傷者の家族の協力を得て、脳損傷者用の日本語版ICFコアセットを試作した。そして、家族による評価の信頼性、家族による評価と専門職による評価のある程度の一致を確認した。しかし低酸素脳症という疾患に対する感度や特異度については確認できず、ICFを一律に用いて活動や参加、環境促進因子を査定することはためらわれた。そのため、当初予定していたICFの全面的な利用には至らなかった。ただし個別のケースについて、ICFを用いて経過や支援の在り方を検討することは有用であり、論文としても発表した。 「発動性に関する調査の難しさ」 低酸素脳症例では、しばしば発動性の低下が生活障害の原因となっている。しかし、やる気や発動性を評定する日本語版の発動性スケール(CAS日常生活行動観察、やる気スコア)は、信頼性や妥当性が担保されているとはいいながら、低酸素脳症者の微妙な発動性の低下を確実に評価するには難があった。
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Strategy for Future Research Activity |
「全体での研究」 東京医科大学茨城医療センター(急性期、重症者が含まれる)、神奈川リハビリテーション病院(回復期~生活期、重症者が含まれる)、国立障害者リハビリテーションセンター(50例の長期予後、現在の社会適応度を調べるために、現在通院していない患者にアンケート送付し、SF-8, POMSを用いて追跡調査する)、埼玉県総合リハビリテーションセンター(生活期、比較的軽症者が中心)で対応している低酸素脳症者の実態と援助について論文にまとめる。研究内容を、日本リハビリテーション医学会、日本高次脳機能障害学会、平成25年度研究報告会等で行う。これらの知見を包括する総説を作成し、低酸素脳症者の生活支援や社会支援に対する新たな提言を行う。具体的には、救急医療機関からリハビリテーション施設への移行後、在宅後の社会資源の利用の流れについて提言を行う。 「ケーススタディ」 社会支援がうまくいったケースについて論文にし、上記総説の各論として広く関係者の共有の知見とする。低酸素脳症者の中でも特殊なCO中毒のケース、雪山遭難による心停止のケース、についても言及する。千葉リハビリテーションセンターで実施した低酸素脳損傷例についても論文とする。 「ICFに関する研究」 ICFコアセットの日本での可能性について論文にする。脳外傷者ICFコアセット日本語版を報告書にて公開する。 「研究成果の社会への還元」研究報告書を全国の関係者団体、病院、施設等に送付する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「全体での研究」 東京医科大学茨城医療センター、神奈川リハビリテーション病院、国立障害者リハビリテーションセンター(郵送方式も利用して追跡調査する)、埼玉県総合リハビリテーションセンターで対応している低酸素脳症者の実態と援助について論文にまとめる。研究費の一部を、追跡調査費、当事者の研究協力に対する謝金、およびデータ整理や入力を行う事務補助者、関係者への謝金にあてる。平成25年度研究報告会、日本リハビリテーション医学会、日本高次脳機能障害学会等の発表出張費用に使用する。これまでの各研究者、研究協力者の知見を包括する総説を作成する際の費用(データ解析や英文校正)にあてる。報告書を印刷、製本する費用にあてる。 「ケーススタディ」 研究費の一部を、示唆的なケースについて論文にまとめる際の費用にあてる。千葉リハビリテーションセンターで実施した低酸素脳損傷例の検討について論文にまとめる際の費用にあてる。 「ICFに関する研究」ICFを利用した支援の在り方について報告書に載せる際の費用にあてる。脳外傷者ICFコアセット日本語版を報告書にて公開する。 「研究成果の社会への還元」研究報告書を全国の関係者団体、病院、施設等に送付する際の諸経費にあてる。
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Research Products
(25 results)