2011 Fiscal Year Research-status Report
児童虐待死亡事例について司法記録等の分析から効果的な介入のポイントを検証する
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23530751
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Research Institution | Teikyo Heisei University |
Principal Investigator |
齋藤 知子 帝京平成大学, 現代ライフ学部, 講師 (10460289)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 児童虐待死 / 裁判記録 / 司法福祉 / 加害親 / ソーシャルワーク |
Research Abstract |
本研究の目的は、子どもの虐待死をできるかぎり抑止するために、子どもの死亡事件について、警察や検察庁で作成された供述記録や公判記録などの司法の裁判記録を活用し、子どもの虐待対応ソーシャルワークのあり方を再検討するものである。具体的な方法として、厚生労働省による社会保障審議会児童部会「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」の報告や都道府県の「児童虐待による死亡事例検証委員会」による報告と、司法の裁判記録とを、時系列で整理し重ねて比較し、虐待死に至るまでのプロセスを再現し、事例検討を行うことで、行政は何を見落としているのか、または見間違ったのか、行政側の見えていなかった点を探り、なぜ虐待死亡事件を防ぐ効果的な介入ができなかったのか、加害者や関係者の心情について明らかにし検討するものである。 本研究は、現在までにA県(関東圏内で調査がしやすく研究協力者による調査協力が得られる点で注出)で「児童虐待死亡事例」の検証を始めてから、現在に至るまでに行われた全件4事例(第1次平成17年2件、第2次平成21年2件)の全件について、インターネット等に公表されているものについて裁判記録等の閲覧申請をし、検察庁にて閲覧が許可された全4件について閲覧を行い資料を収集することが出来た。また、A県の検証方法や検討の具体的内容について、A県の検証委員となっている弁護士にもインタビュー調査を行い、裁判記録等を参考した「司法福祉的分析」との比較から、事例検討会を6回実施した。さらに加害親の弁護士(3件)4名にインタビューを行い、加害親の心情に近づく内容の資料を得ることが出来た。 本研究の目的である児童虐待死亡事例について、新たに司法記録を活用することは、今後の虐待死亡事例検証においても、先駆的な意味を持つ研究となり、わが国の児童虐待防止のためのソーシャルワークについて有効な提言につながると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、今年度調査予定としていたA県の「児童虐待死亡事例」(第1次平成17年2件、第2次平成21年2件)の全4件について、検察庁に裁判記録等の閲覧申請をして、閲覧が全件について許可を得て裁判記録等の閲覧、複写を行うことが出来た。さらにA県で実施された検証の委員にA県で公表している検証報告の調査内容について、インタビュー調査を行うことができた。また、4事例のうち、3事例4名については加害親の弁護士に加害親の心情や関係機関との関わりなどについてインタビューを行った。以上の資料を参考に4事例すべてについて、弁護士、児童相談所児童福祉司、PSW、MSW、児童養護施設職員、臨床心理士、スクールソーシャルワーカーなどの有資格者、学識経験者などの協力を得て、インシデント・プロセス方式を使った事例検討会を6回にわたり実施し、県による検証と裁判記録等を用いた場合の事例についての課題・問題点の把握や考察の違いを検討し、本研究の有効性について確認を行った。 今後の課題については、裁判調書から得られる情報が分析の目的に照らすと、必ずしも十分とは言えない点に関しても、裁判「事例」研究を行ううえでは大きな限界となりうる。刑事裁判の主目的は事実認定と適切な量刑の決定である。事実関係に争いがなく、加害者に前科もない事件では、本人や関係者の供述はごく簡潔なものにとまっていて、公判も1回で結審してしまう場合も少なくない。しかし、県による検証とは、あきらかに異なる経過もあることからも、現時点では裁判記録を用いた検証方法が有効であることを確認できている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、子どもに対する親からの虐待による死亡事件について、裁判記録等から加害者側の供述や弁明などの司法的な視点を加味して検証を行い、虐待死に至るプロセスを明らかし、有効な介入について検討することを目的としている。加藤悦子「介護殺人-司法福祉の視点から」クレス出版2005年は、高齢者に対する虐待の研究として、高齢者への介護をめぐって発生した殺人事件を、警察や検察庁で作成された供述調書や公判記録等の裁判調書を分析し、介護者の言葉を聞くため全国各地の裁判所に行き事件の公判を傍聴する中で、見出された事実を整理分析し、総合的な政策提言へと発展させることを目的とした研究であり、高齢者の介護という「福祉」に関わる分野で、被害者が介護を受ける弱い立場であるという点や、家族間で基本的人権を侵害し、殺人が起こるということは、子どもへの虐待事件と共通しているため、研究枠組みを参考としてきた。 本研究の現時点では、検証方法について裁判記録等を用いることで新たな事実が判明し、適切な検証を行うことができるということが判明した。今後は、他の地域や裁判傍聴も行いながら、裁判記録等を用いることで、国や地方公共団体ですでに行われている検証から出された課題や提言とは具体的にどのような違いがあるのかについてさらに研究を進めていく。 児童虐待死亡事例の調査は、子どもが死亡するといった最悪の結果となっている事例であるが、今後は児童相談所や市町村関係機関の成功事例との比較も実施し、事例検討の枠組みを明確にし、リスクアセスメントの観点からも新たな方法を示していく。 さらに、アメリカ、イギリス、ドイツなどの海外で、裁判を有効に検証に使用している事例などを調査し、実際の先行研究を海外へと拡げていく。2年後の最終年度に向けて、本研究の目的となっている「ソーシャルワーク実践」に対して具体的な提言を行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究内容については今年度当初から予定していた通り、A県以外の都道府県においても、裁判記録等の閲覧によるデータ―収集の有効性を確認するための、裁判記録等の閲覧申請の他、児童虐待死亡事例の裁判の傍聴、関係者への聞き取りインタビュー調査の実施のために生じる出張、謝金が計画されている。また、収集したデータ―をもとに分析枠組みを完成させ、個々の事例について検討会を実施する予定であることから、事例検討会の出席者について交通費の他、謝金を支払うなどの研究費使用の予定である。 その他、上記、「今後の研究の推進方策」に示した通り、今後の2年間で児童相談所などによる成功事例についての調査のための出張やインタビューを予定している他、裁判記録や裁判そのものを有効に虐待予防に活用している海外の先行事例についても調査する必要があり、文献研究を進め、実際の海外視察も計画している。 また、24年度中に現在までの研究成果をまとめ、事例検証報告会を実施する。(平成25年2月 本務校 帝京平成大学にて「児童養護実践学会における1分科会として計画中」)そのために発生する諸経費についても使用する計画である。
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