2012 Fiscal Year Research-status Report
社会福祉士実習施設における外国にルーツを持つ人に対する支援の現状と実習プログラム
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23530764
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Research Institution | Kawasaki University of Medical Welfare |
Principal Investigator |
添田 正揮 川崎医療福祉大学, 医療福祉学部, 講師 (90409251)
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Keywords | 多文化・国際ソーシャルワーク / 社会福祉士実習プログラム / 外国にルーツを持つ人 / 国際人口移動 / シェルター / 母子生活支援施設 / 自立支援 / 国際情報交換 フィリピン |
Research Abstract |
今年度は、外国にルーツを持つ利用者を対象とした調査ならびに母子生活支援施設等の職員を対象に半構造化インタビュー調査を実施した。本年度の研究結果については、以下の3点に整理することができる。なお、調査の分析は継続して実施する。 第1に、人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることができる「信頼」、「規範」、「ネットワーク」といった社会組織の特徴である「ソーシャル・キャピタル」の観点から、利用者と社会との関係について要因を整理することも重要となる。外国にルーツを持つ利用者が地域において自分の力を活かすと同時に、周囲の社会資源を活用することが自立生活の実現につながると考えられる。 第2に、利用者が地域において自立生活を営み続けるようにするためには、個人の努力だけでは実現するものではなく、住む場所があるというだけでは十分ではないことが指摘できる。ソーシャルワーカーや施設の使命として外国籍母子が安心して生活することができる社会の構築であるならば、地域住民とのつながりや交流、相互の信頼や助け合いなどに配慮することが重要となる。 第3に、施設職員を対象とした調査において、母親の語学の問題が自立生活の実現に支障が出ていることが明らかになった。例えば、地域住民との人間関係の構築に問題が生じたり、母親が極端に子どもに頼ったりして子どもに通訳を指せているとケースが多いとのことであった。言語的に親子の意思疎通が難しくなることで、母親自身の自立生活だけではなく、子どもの成長や自立にも支障が出てくることも危惧される。ソーシャル・キャピタルにおける構成要素の一つとして社会参加が位置づけられているように、ミクロレベル、コミュニティレベル、マクロレベルでの活動を検討していくことも重要となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終的な目的は、国際人口移動に伴う国際化・多文化社会において、社会福祉士養成教育の「社会福祉士実習として認められる施設」を対象として、国際人口移動に伴う外国籍住民や外国にルーツを持つ利用者に対する支援の現状と課題を明らかにし、実習教育科目を総合的に捉え、体系的な実習教育プログラムのモデルを考案・開発することである。 本年度は社会福祉士実習指定施設である母子生活支援施設を対象に調査を実施しており、これまで明確ではなかった外国にルーツを持つ利用者のニーズを明らかにすることができた。また、施設退所後の実態把握を行うことにより、地域における自立生活支援のあり方を考察するための根拠を得ることができた。そして、利用者が自らの力に気づき、その力を発揮することができるように支えていくという自立支援の視点や方法の検討や自立支援のための社会資源の活用を視野に入れた連携方法の検討にもつなげることができる。 研究目的の一つである教育プログラムのモデル開発との関連でいえば、調査を通じて明らかになったニーズに立脚し、利用者がより良く生きる(well-being)ための実践としてのソーシャルワークの内容を検討することができると考えられる。また、必要とされる実践を展開できるソーシャルワーカーに求められるコンピテンスの分析につなげることができる。 個人のニーズを適切に把握し、個別的な問題といったミクロのレベルから居住地域や社会制度といったコミュニティやマクロのレベルにも目を向け、個人と社会資源を結びつけたり社会資源を開発したりすることを通じて、利用者が安心して生活することができる社会を築くための研究となるようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に実施した調査を予備調査を位置づけ、その結果を踏まえて量的調査と教育プログラムモデルの検討を行う。 1.郵送調査:①郵送調査(調査項目の作成…項目内容、項目形式、ワーディング、配列等を再検討する。調査対象の選定…抽出する標本は全国の母子生活支援施設を対象とする。調査方法…郵送調査による悉皆調査を実施する。)②ヒアリング調査:郵送調査と並行して外国籍母子を支援しているシェルターのスタッフを対象とした調査を実施する。調査対象は外国籍母子の支援において20年以上の実績を有するNPOのスタッフであり、先駆的な実践を積み重ねてきている。したがって、エキスパートモデルの検討を行うことを目的として、実践の価値や視点を把握し、技術や経験を含んだコンピテンシーを明らかにする。 2.教育プログラムモデルの検討 上記の調査結果の分析を踏まえ、外国籍住民および利用者を視野に入れた実習教育プログラムモデルの検討を行う。教育プログラムの開発においては、研究者や実践者の主導で進めるだけではなく、当事者が参加する持続可能な方法や取り組みを創造する必要がある。特に多文化・国際ソーシャルワークにおいては、当事者の主体性と参画が保障される教育プログラムを導入する必要がある。したがって、教育プログラムの開発にあたっては、参加型アクションリサーチ、コミュニティエンパワメントの手法を取り入れて、当事者の参加が可能となる内容を検討する。また、グローバル社会において、人類への奉仕のあり方を追求し、より豊かな福祉社会の創造的担い手として国際的コミュニケーション能力を持つソーシャルワーカーの育成を目指し、日本の学生と海外のソーシャルワーカや学生、NGO、市民との交流的学習としてスタディツアーを実施する。具体的には、人身取引被害者やストリートチルドレンを支援しているNGO、社会的起業代表への調査などである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
おおむね順調に進展しているが、購入備品が計画より安く購入できたため1,580円 の次年度繰越金が生じた。 翌年度分として請求した助成金と合わせて、1.インタビュー調査および学会参加(旅費:フィリピンでの調査および教育プログラム実施のため130,000円、札幌学会発表のため60,000円、神戸インタビュー調査のため40,000円、神奈川インタビュー調査のため120,000円)2.インタビュー調査および教育プログラム実施に伴う謝金(国内および国外のNGOに対して350,000円)3.事務用品等の購入1,580円 を執行する予定とする。
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Research Products
(1 results)