2011 Fiscal Year Research-status Report
新しいシティズンシップに基づく社会政策構想:「普遍主義」と「互酬性」の再検討から
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23530770
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
金子 充 立正大学, 社会福祉学部, 准教授 (30366950)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平野 寛弥 埼玉県立大学, 保険医療福祉学部, 助教 (20438112)
堅田 香緒里 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 助教 (40523999)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 |
Research Abstract |
本年度は、先行研究に関する基本的な調査をおこないつつ、イギリス社会政策論の最新の研究成果を学ぶことを目的に、F.ウィリアムズ,T.フィッツパトリック、F.ベネット、R.リスター、S.ホワイト、H.ディーン、S.バンクス等の社会政策研究者に対してヒアリング調査を実施し、あわせて意見交換をおこなった。これらのヒアリング調査と意見交換により、イギリスの批判的社会政策論(critical Social Policy)を支えてきた重要な視点や鍵概念を理解することができ、また近年の社会政策および社会政策研究の潮流に関して問題の共有を図ることができた。 また、こうした視点と鍵概念をもって、社会政策において語られてきた「普遍主義」および「互酬性」の中身を再考した。とりわけ、重層的な概念としての普遍主義の意味を整理しなおすことができた。すなわち、社会政策における「普遍主義」とは、第一に、適用規準(供給方法や分配原則)としての普遍性を内容とする普遍主義がある。第二に、処遇としての普遍性を内容とする普遍主義である。これは供給内容の次元であり、平等な処遇、すなわち「全ての人に同じ物を」という意味での普遍性である。第三に、人間理解としての普遍性を内容とする普遍主義である。社会政策の文脈において再解釈すれば対象像の次元であり、対象を何らかの共通性をもった人びととみなすことを示す。第四に、適用範囲としての普遍性を内容とする普遍主義である。これは資格要件(エンタイトルメント)の次元であり、「誰にでも」あるいは「すべての人に」という意味での普遍性である。本年度の研究によって、「普遍主義」概念をこれら4つの水準でとらえることができ、人々の差異やアイデンティティに関わる特殊な利害関心に対して無配慮であったこれまでの社会政策が十分な「普遍主義」にもとづいているとはいえないことを考察することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究に協力してくださるイギリスの社会政策研究者(F.ウィリアムズ,T.フィッツパトリック、F.ベネット、R.リスター、S.ホワイト、H.ディーン、S.バンクス)と直接コンタクトをとった結果、いずれもインタビューおよび意見交換の機会について快諾してくださったため、前倒しをしてインタビューおよび意見交換の場を設定して、訪問して直接話をうかがうことで次年度以降に進むべき研究の方向性を一定程度確保することができた。そのため、当初の研究計画よりも前倒しに研究を進めることができ、平成24年度は再びこれらの研究者の一部と共同研究として本研究を進めることが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、前年度の研究成果を基に、シティズンシップの再構成を行う。前年度の「普遍主義」「互酬性」両概念の再検討の結果に基づき、社会政策とシティズンシップの再構成を行い、市民に与えられる権利と義務を明らかにする。イギリスの社会政策論では、「社会性」「互酬」「連帯」に関連した先行研究が数多く蓄積されている。その第一人者であるフィオナ・ウィリアムズ氏を日本へ招き、公開する研究会の場での意見交換や研究成果の報告をお願いし、あわせてシンポジウムを企画、実施する予定である。これらの議論を経ることで、新たなシティズンシップ・モデルに基づく社会政策の構想を提示するためのエッセンスを蓄積したい。またこの作業の一環として、現在すでに提示されている様々な社会政策の構想(ワークフェア、ベーシック・インカム、フレキシキュリティなど)を比較検討し、その長短について考察していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
共同研究者として協力してくださるイギリスの社会政策研究者(1名)を日本へ招聘し、研究会およびシンポジウムを実施する予定であるため、そのための旅費(航空券)、宿泊費、国内旅費、会場費を確保する。また、研究会は東京および関西地域の2ヶ所で実施する予定であり、研究代表者および分担研究者(2名)の国内旅費と宿泊費を確保する予定である。
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Research Products
(1 results)