2011 Fiscal Year Research-status Report
地域活支援を展開するための専門職の配置に関する研究―居住権の保障の視点から―
Project/Area Number |
23530781
|
Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
小松 理佐子 日本福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (40301618)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊田 博喜 武蔵野大学, 人間関係学部, 准教授 (30366877)
川村 岳人 健康科学大学, 健康科学部, 講師 (30460405)
後藤 広史 東洋大学, 社会学部, 助教 (60553782)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 地域生活支援 / 制度の「隙間」 / 相談システム |
Research Abstract |
研究の内容: 制度の対象とならないニーズを抱える人々に対する制度外支援を実施している団体に対するヒアリング調査を実施し、事例研究を行った。調査対象は、ホームレス支援、精神障害者の生活支援、外国籍の女性への支援、過疎地域の高齢者への支援を実施している8つの団体とした。調査項目は、対象者に対する支援のプロセス、支援方法、関係機関・団体との連携、支援課題、を柱にした。以上の調査で収集したデータを整理し、事例研究を行うことを通して、地域生活支援を展開する際の視点、支援方法の検討課題を整理した。 事例研究から現状の地域生活支援の類型化を、従来の社会福祉の支援方法としての「制度に基づく支援」と、地域福祉実践において展開されてきた「相互支援」という二つの軸を設定して試みた。ヒアリングの対象とした制度外支援を受けている人々の問題は、「制度に基づく支援」「相互支援」の両方から漏れた場所に位置することが明らかになった。 また、それらの人々への支援に共通しているのは、「目的がなくても立ち寄れる場所づくり」「アウトリーチ」「ライフステージに応じて変化する支援」であった。また、現状の支援団体は、これらの人々に対する支援のすべてを一体的に提供している実態が明らかになった。このことはトータルな支援を実現する上で有効にはたらいているといえる。しかし、単独の団体の支援の中で形成されるコミュニティは、当事者性が強く、時間が経過しても地域との接点をもちえずにおり、本来の意味での地域生活が実現していないことが明らかになった。意義: 本研究の成果は、制度の「隙間」の課題を抱える人々の早期発見が困難が指摘されている社会福祉政策の課題を解決するためのシステムのあり方を検討する上で意義があると考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、制度外の支援を必要とする人々に対応するための生活支援を可能にするシステムを構想し、それを機能させるための専門職の配置の方法を明らかにすることである。今年度の目標は、地域生活支援の枠組みを検討することであったが、今年度の研究を通じて、従来の支援のシステムで対応できない人々の問題の性格を明らかにすることができた。さらにそれを踏まえて、今日のシステムの修正の課題を明らかにすることができたといえる。明らかになったのは以下の点である。 従来の支援から漏れた場所に位置する対象者の問題が、その対象とならなかった要因を分析すると、対象者と支援者とのインターフェイスの問題があることが明らかになった。すなわち、「制度に基づく支援」においては行政機関が設置した対象領域ごとの相談窓口がインターフィイスとして想定され、「相互支援」においては、地域の相談窓口とされる民生委員・児童委員が想定される。前者の場合には、制度が用意されていないと支援へのアクセスが困難となる。後者の場合には、地域住民として認識されていない場合(すなわち居住という要件をもたない人々)にとってアクセスが困難となる。それゆえに両者のインターフェイスを良好にするためのシステムの必要が明らかになった。 また、制度外の支援を行っている団体の実践分析を通して、インターフェイスの改善の手がかりを明らかにすることができた。すなわち、既存の支援プロセスでは、支援を必要とする側と支援者の接点には、相談機関が想定されている。しかし、今年度の研究からは、相談機関という接点以外の接点を作ることの有効性が明らかになりつつある。それは、「目的がなくても立ち寄れる場所」である。こうした場所が、前述した相談機関という接点とは異なる接点を見出すことができ、居住という要件をもたない人々へも対応しうるという仮説を立てることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度に使用する予定の研究費が発生した要因は、当初計画にあった都市部在宅高齢者の支援についての研究に着手できなかったことにある。次年度は、今年度に取り組めなかった点を強化しながら、地域生活支援の全体を検討する予定である。今後の研究計画は、(1)不定住者に対する支援(ホームレス、外国人など)、(2)顕在化しにくいニーズを抱える人への支援(都市部在宅高齢者など)の二つを柱にして、地域生活支援のあり方を追求する。 第一には、高齢者支援に取り組んでいるNPO団体及びホームレス支援に取り組んでいる団体に対するアンケート調査を実施する。これらのNPO団体が、制度外の支援として展開している活動内容を明らかにすることを通して、地域生活支援の構成要素を明らかにすることを目的とする。第二には、民生委員・児童委員を対象にアンケート調査を実施する。民生委員・児童委員は、居住性を有する人々の問題発見の機関として期待されてきたが、現状はその期待に対応できず当事者である民生委員・児童委員が活動に悩みを抱えている。その背景には、地域で生活していても近隣の状況を把握しにくい生活実態があるからであるといえる。こうした問題意識から調査は、民生委員・児童委員の活動を困難にしている要因を明らかにすることを目的とする。第三には、これらをもとにしながら、生活支援に取り組んでいる団体のデータベースの作成(東京都・埼玉県・神奈川県を対象)を行い、研究の基礎的資料の整備を行う。 以上の研究の推進した後、生活支援のシステムの設計とそれを機能させるための専門職の配置についての検討に着手する計画である。この点については、2013年度に取り組む予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、(1)共同研究会の開催費、(2)アンケート調査の実施に係る費用、(3)ヒアリング調査の実施に係る費用、(4)学会発表のための旅費、に使用する計画である。 (1)共同研究会については、月1回のペースで年間12回開催する計画である。開催地は東京(東洋大学)を予定しており、そのための旅費・会議費として使用する。 (2)アンケート調査については、2本の調査を実施する予定である。一つは、NPO団体に対するアンケート調査で、対象は全国のNPO団体とし、1,000ヶ所に配布する予定である。二つ目には、民生委員・児童委員に対するアンケート調査である。対象は、大都市部として名古屋市の民生委員・児童委員、地方都市部として石川県金沢市、農村部として石川県加賀市、を予定しており、1,000名に配布する予定である。研究費は、これらの調査票印刷費、郵送費、集計作業の委託費として使用する。 (3)ヒアリング調査については、居住性をもたない人々を受け入れる側である地域に着目し、地域住民に対するヒアリングを行う予定である。3箇所を予定しており、研究費は、それに係る旅費、謝礼に使用する。 (4)学会発表については、2012年6月に開催される日本地域福祉学会第26回大会での発表の申込を済ませており、開催地である熊本市までの旅費に使用する。さらに、10月に開催される日本社会福祉学会第60回秋季大会で発表する準備を進めており、開催地である西宮市までの旅費に使用する。
|