2011 Fiscal Year Research-status Report
日本版ガイデッド・オートバイオグラフィーの妥当性検証
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23530793
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
中尾 賀要子 武庫川女子大学, 文学部, 講師 (90584988)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ライフレビュー / 回想法 / 高齢者 / 自記式 / 回顧法 |
Research Abstract |
本研究は三ヵ年計画であり、初年度にあたる平成23年度は調査準備期間とした。実施計画に基づき、まずオリジナルの英語版ガイデッド・オートバイオグラフィー(Guided Autobiography, 以下GAB)を使用した研究に加え、回顧法やライフレビューといった高齢者を対象とした類似の回想方法に関する研究の文献レビューを行った。国内における調査に留まらず、海外での調査結果を概観することで、回想法と呼ばれる手法全般の研究動向を把握した。その結果、1)同手法に関して日本における実証研究報告が希少であること、そして2)海外、特に米国における同手法に関する調査では、ポジティブな効果は常には報告されないものの、ネガティブな思いや考え方に軽減がみられるという見解が共通して報告されていることが分かった。これらの見識を本研究の第一義的理解として、本調査の実施方法や分析方法の精緻化を更に検討することとした。また初年度では、GABの日本版資料作成に着手し、翻訳作業に取り組んだ。老年学に知見の深い翻訳家と共に推敲を重ねることで翻訳にありがちな違和感がないように心掛け、日本版GABの読みやすさと理解のしやすさを追求した。日本語版GABでは、オリジナルの英語版GABで採用されている項目のうちSexuality「性」に関する項目をどうするかが翻訳作業の中で最も注意を要した。討議の結果、この点は細かな表現と配慮が必要と判断し、日本文化に即した質問項目への再構成を試みた。具体的には「性」というテーマを「恋愛」に変え、同時に質問内容においても適切なワーディングへ改訂を進めた。現時点で日本版GABは微調整が必要な言葉づかいを残して完成に近づいており、最終的にデータ収集に使用する日本版GABの最終稿入稿は平成24年度夏を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度終了時点で、本研究はおおむね順調に進展していると評価している。その理由として、まずこの初年度を本研究の準備期間として十分に時間的余裕を持たせたことが起因すると考える。特に平成23年度は、本学図書館にある英語のデータベースがトライアルで利用可能となった時期があり、その結果普段本学では利用できない老年学関係の主要ジャーナルや文献が検索できた。本研究で明らかにしようとしているGABを含む回想法全般は、本国では実証研究の発表が充実していない。そんな中、英語の文献を入手できたことは、本テーマに関する今までの研究動向を把握する上で非常に幸いであり、また有意義な先行文献の研究結果を得ることが出来た。更に、日本版GABの開発にあたり、特に翻訳作業におけるワーディングやエディティングを行う時間を十分取っていたことは、開発に際して丁寧な検討を進める上で役に立ったと考える。すでにオリジナルのツールが英語で開発されている本研究の場合、ともすれば翻訳するだけで日本版の入手に至ることも可能ではあった。しかし、後に高齢者支援の現場で活用してもらえるような利用価値の高い日本版GABを開発したいと考えた時、この翻訳作業は丹念に行うべきであり、実際初年度にこのプロセスを経たことで、日本文化や価値観に合致した内容に仕上がって来ていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に基づき、平成24年度前期は調査票の作成とフォーカスグループインタビューの質問項目の決定を予定している。具体的には自記式調査票の作成を意図しており、本年度前期にはどのような質問項目を設け、また尺度を採用するか決定する。現時点では、回想の頻度や、心身、社会的健康およびウェルビーングの測定、生活満足度などに焦点を当て、記入にあまり時間を要しない簡便な調査票を考えている。また、調査票では汲み取りきれない意見や考えを得られるよう、フォーカスグループにおける質問項目についても検討する予定である。本年度後期は、GABの実施と調査の実施を計画している。参加予定者を募ると同時に調査参加への協力を仰ぎ、GAB参加の前後に調査票の記入を依頼することで、Pre-Postのデータ収集を可能としたい。更にはGABの初回と最終回はビデオ撮りを行うことで、参加者の様子を録画し、GAB終了後にはフォーカスグループへの参加を依頼することでGABに関する意見収集を計画している。回収した調査票のデータ入力と逐語録作成は随時行い、平成25年度に予定しているデータ分析と考察、及び結果のまとめへスムーズに移行する考えである。また、平成25年度には成果の発表も視野に入れており、国内外の学会において発表するか、査読付きジャーナルへの投稿を予定している。尚、当初計画していた初年度における研究費のうち、「旅費」と「その他」の事項に関する使用が次年度に繰り越しとなった。具体的には、全米老年学会への参加が不可能となったことと、海外の研究者との交流が出来なかったことが、両事項の消化に至らなかった理由である。その主たる原因としては、研究と教育の時間的兼ね合いの難しさに課題を見出しているところである。この兼ね合いについて、科研費に採択して頂いた立場上、本国において駆け出しの一研究者として非常に悩んでいることをここに明記したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度より繰り越しとなった未消化の研究費に関する対応策としては、まず学会参加を通して「最新の研究動向を把握」という本来の目的に立ち戻り、最新の文献収集に注力することを代替策としたい。本学のデータベースと図書館資料では活用できる文献に限りがある。そのため、取り寄せに課金される研究論文や海外からの取り寄せとなる書籍など、通常の研究環境では入手が困難な資料の入手を考えている。また次年度はデータ収集を計画している。当初の計画では阪神間の高齢者を対象としていたが、昨今の情勢に鑑み可能な限り東日本大震災で影響を受けた東北における調査を視野に入れたい。そこで東北の実践の場で活躍する社会福祉士とのネットワークづくりに力を入れることで、現地の高齢者の状況を把握し、調査依頼の可能性を探る。平成23年度末現在、福島県北部の社会福祉士会と連絡を取っており、次年度前期は現地の表敬訪問と視察を重ねる予定である。そうした活動を通して現場の協力を仰ぎ、データ収集が実現できるよう更なる信頼関係構築に努める。更に次年度後半にはデータ収集に伴い、フォーカスグループインタビューの逐語録化など、データ入力も研究活動の範囲に含まれてくる。その折には当初計画していた学生アルバイトによる入力ではなく、業者に外注することで時間の節約を達成したい。研究費を使ってアウトソーシングすることで、次の研究過程となる分析に時間を掛け、結果への導きに丁寧に取り組む予定である。
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