2011 Fiscal Year Research-status Report
重度化する水俣病患者における家族介護の困難とケアの社会化の諸条件に関する研究
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23530798
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
田尻 雅美 熊本学園大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70421336)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 社会福祉学 / 水俣学 / 水俣病 |
Research Abstract |
水俣病被害者は、同じく医学的に水俣病と診断される者であっても、公害被害補償体系ならびに種々の救済制度により、補償給付や医療・介護給付に違いがある。 研究代表者は、これまで胎児性水俣病患者の個々人に焦点を当てて、被害者の救済制度などについて社会福祉学的視点から調査・研究してきたが、その背景にある環境汚染・食物連鎖によって起こった公害病事件としての水俣病という視点が後景に退いていた。つまり、水俣病は、同じ食生活を送っていた家族内に複数の水俣病患者がいることは明らかで、その患者同士が介護者・被介護者となっているのである。そのため、胎児性水俣病患者においても同様で、本人の加齢と身体症状の悪化のみならず介護者たる家族の加齢及び水俣病の症状の重篤化に伴い家族内ケアが困難となっていることが明らかになってきた。これは、これまで家族自身が隠してきたために問題が表面に出ることはなかった。本研究は、水俣病患者の存在と被害のありようを前提としつつも、なお未解明な点、とくに家族内に複数の水俣病患者がいる公害被害者の社会福祉的課題を明らかにすることを目的としている。 本年度は、水俣病多発地区のM漁村居住の同一親族(46人)のヒアリングなどから事例検討を行うことで水俣病被害の地域集積性と家族内集積性を明らかにすることができた。また、新潟における胎児性水俣病患者のヒアリングを行い、現在の生活状況の一端を把握することができた。さらに、鹿児島県出水郡長島町(旧東町)における水俣病被害の実態調査を行った。以上三地区の調査研究によって水俣病被害者の現在おかれている状況、被害の実態を明らかにできたことは、水俣病事件史の上でもその意義は大きかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は蓄積が極めて少ない課題の設定であり、家族内に複数存在する水俣病患者の社会福祉学的視点の研究は極めて少ない点を強調したい。これまでの研究は、その背景に環境汚染・食物連鎖により起こった公害事件である水俣病という視点が大きく抜け落ちていた。ただ、従来の調査研究の蓄積が少ないことの理由には、被害当事者および家族への接近が困難であるという点が無視されてはならない。 研究代表者は、水俣病多発地域における調査研究に原田正純氏とともに10年以上にわたって従事してきており、現地における関係者の協力を得られるようになっているばかりではなく、多くの水俣病患者の信頼を得ている。このことは、地の利を生かした本研究計画の優位性であると考えている。また、看護専門職として医療に従事した経験を有するとともに、勤務大学において介護技術の教育にも当っており、社会福祉的ケアに関する実践的な知見を有している。このような背景により、調査は、おおむね順調であるが、2010年度より開始されている「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」(特措法)に基づく救済措置の申請や、水俣病に関わる裁判判決が出たことにより、流動的部分が多く、救済制度と利用状況についての検証が今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の性格上、調査はナラティブをベースとした質的研究手法に基づき実施される。個別ケーススタディ、救済制度と福祉的諸制度の検証、家族を取り巻くカンファレンスの三つを組み合わせることにより、研究目的を達成する。在宅の水俣病患者宅においてインタビューならびに医療・介護サービスの実態の訪問調査を基本作業とし、水俣病にかかわる救済制度と諸制度の利用状況とその実態について行政機関や、社協、NPOなどの調査を踏まえて、調査対象者にかかわる医療・介護スタッフやコメディカル、介護従事者からの聞き取り及びカンファレンスを実施する。これにより水俣病患者の在宅生活継続に必要なケアの社会化の困難と諸条件について分析し得る。 次年度も引き続き水俣・芦北地域、離島御所浦の在宅の水俣病患者および新潟地区の(1)個別ケーススタディ、(2)救済制度と利用状況を中心に調査を行っていく予定である。また、昨年度訪問し現在の生活状況のヒアリングを行った新潟の胎児性水俣病患者の実態調査を継続し、通所している作業所のスタッフ、参与観察を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
旅費については、水俣・芦北地域、御所浦地区および新潟での胎児性水俣病患者のヒアリングと作業所での参与観察などの調査を計画しているため旅費を計上している。また、離島在住の水俣病患者調査のため、海上タクシー経費を計上している。学会報告のための旅費も計上している。 謝金などについては、ヒアリングにはアシスタントを活用して録音や記録し、録音したものはトランスクリプトし記録に残すため、研究補助として計上している。調査現地での協力者への謝金、謝品などを計上している。 調査対象患者に関わる医療スタッフやコメディカル、介護事業者、支援者、社会福祉協議会などと定期的にカンファレンスを実施するための会議費を計上している。本年度未使用額2232円は、その他(会議費)が予定していたより少なかったため生じたため、次年度適正に使用する予定である。
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