2012 Fiscal Year Research-status Report
重度化する水俣病患者における家族介護の困難とケアの社会化の諸条件に関する研究
Project/Area Number |
23530798
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
田尻 雅美 熊本学園大学, 水俣学研究センター, 研究助手 (70421336)
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Keywords | 社会福祉学 / 水俣学 / 水俣病 / 保健 / 医療 / 介護福祉 |
Research Abstract |
水俣病被害者は、同じく医学的に水俣病と診断される者であっても、公害被害補償体系ならびに種々の救済制度により、補償給付や医療・介護給付に違いがある。 研究代表者は、これまで胎児性水俣病患者の個々人に焦点を当てて社会福祉学的視点から調査・研究してきたが、その背景にある環境汚染・食物連鎖によって起こった公害病事件としての水俣病という視点が後景に退いていた。つまり、水俣病は、同じ食生活を送っていた家族内に複数の水俣病患者がいることは明らかで、その患者同士が介護者・被介護者となっているのである。そのため、胎児性水俣病患者においても同様で、本人の加齢と身体症状の悪化のみならず介護者たる家族の加齢及び水俣病の症状の重篤化に伴い家族内ケアが困難となっていることが明らかになってきた。これは、これまで家族自身が隠してきたために問題が表面に出ることはなかった。本研究は、水俣病患者の存在と被害のありようを前提としつつも、なお未解明な点、とくに家族内に複数の水俣病患者がいる公害被害者の社会福祉的課題を明らかにすることを目的としている。 本年度は、水俣病多発地区のT集落で水俣病公式確認のきっかけになった患者の現在の介護状況などについてヒアリングなどを集中的に行い、両親死亡後の家族内の水俣病患者が介護を行っている現在の生活と介護状況を把握することができた。また、前年度に引き続き新潟における胎児性水俣病患者のヒアリングを行い、家族内ケアから施設利用への変遷を把握することができた。さらには、未認定患者たちの被害実態を調査し、未認定患者らの現在おかれている状況の一部が明らかにできたことは、水俣病被害が年代的にも地域的に残されている問題であることがわかる一端となった。このことは、水俣病事件史の上でも意味は大きいと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は蓄積が極めて少ない課題の設定であり、家族内に複数存在する水俣病患者の社会福祉学的視点の研究は極めて少ない点を強調したい。これまでの研究は、その背景に環境汚染・食物連鎖により起こった公害事件である水俣病という視点が大きく抜け落ちていた。ただ、従来の調査研究の蓄積が少ないことの理由には、被害当事者および家族への接近が困難であるという点が無視されてはならない。研究代表者は、水俣病多発地域における調査研究に原田正純氏とともに10年以上にわたって従事してきており、現地における関係者の協力を得られるようになっているばかりではなく、多くの水俣病患者の信頼を得ている。このことは、地の利を生かした本研究計画の優位性であると考えている。また、看護専門職として医療に従事した経験を有するとともに、勤務大学において介護技術の教育にも当っており、社会福祉的ケアに関する実践的な知見を有している。本年度は在宅生活を送る胎児性患者宅訪問調査を主に行うとともに、新潟における胎児性水俣病患者のヒアリング調査を新潟訪問2回、熊本にて1回、集中して行った。2010年度より開始されている「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」(特措法)に基づく救済措置の申請が2012年7月に締め切られ、手続きなどの混乱により、水俣病にかかわる救済制度と諸制度の利用状況とその実態について行政機関や、社協、NPOなどの調査、カンファレンスが遅れているが、調査は、おおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の性格上、調査はナラティブをベースとした質的研究手法に基づき実施される。個別ケーススタディ、救済制度と福祉的諸制度の検証、家族を取り巻くカンファレンスの三つを組み合わせることにより、研究目的を達成する。在宅の水俣病患者宅においてインタビューならびに医療・介護サービスの実態の訪問調査を基本作業とし、水俣病にかかわる救済制度と諸制度の利用状況とその実態について行政機関や、社協、NPOなどの調査を踏まえて、調査対象者にかかわる医療・介護スタッフやコメディカル、介護従事者からの聞き取り及びカンファレンスを実施する。これにより水俣病患者の在宅生活継続に必要なケアの社会化の困難と諸条件について分析し得る。 本年度は、引き続き昨年度予定していた水俣病にかかわる救済制度と諸制度の利用状況とその実態について行政機関や、社協、NPOなどの調査を踏まえて、調査対象者にかかわる医療・介護スタッフやコメディカル、介護従事者からの聞き取り及びカンファレンスを実施する。これにより水俣病患者の在宅生活継続に必要なケアの社会化の困難と諸条件について分析し得る。 トランスクリプトされたデータの分析作業を集中的に行うとともに、成果の取りまとめを行う。また、補足的調査もこの期間に実施する。最終報告書の取りまとめと論文の執筆を予定している。なお研究成果は、公衆衛生学会、水俣病事件研究交流集会などで報告する予定である。 調査で得られた情報に関する資料・データは、水俣学研究センターに一元的に保管し厳重に管理するとともに、パスワードをかけ関係者以外からのアクセスを不可能にしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
旅費については、離島在住の水俣病患者調査のため海上タクシー経費を計上している。ほか、補足調査のための宿泊費、資料収集のための旅費、および研究会報告の旅費を計上している。 謝金などについては、ヒアリング記録のデータ化、分析のために研究補助、また、調査現地での協力者への謝金などを計上している。成果報告書作成の印刷費も計上している。 本年度未使用金額10,102円は、3月末に予定していた水俣病判決40周年講演会および調査対象患者に関わる介護事業者などとの打ち合わせにあてた。
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