2013 Fiscal Year Annual Research Report
重度化する水俣病患者における家族介護の困難とケアの社会化の諸条件に関する研究
Project/Area Number |
23530798
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
田尻 雅美 熊本学園大学, 水俣学研究センター, 研究助手 (70421336)
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Keywords | 社会福祉学 / 水俣学 / 水俣病 / 社会福祉 / 介護福祉 / 医療 / 水俣病補償救済制度 / 保健 |
Research Abstract |
水俣病の発生機序の特徴から、同一の食生活を送る同居家族内に複数の水俣病患者がおり、互いに介護者・被介護者となっている。とくに胎児性水俣病患者を有する家庭では、本人の加齢と症状の悪化に加え、介護者たる家族の加齢及び症状の重篤化に伴い家族内ケアが困難となっていることが明らかになってきた。本研究は、水俣病患者の存在とこのような健康被害についてのケアの観察から、とくに家族内に複数の水俣病患者を有する家庭の調査を通して、社会福祉的課題を明らかにすることを目的としている。 本年度は、水俣病にかかわる救済制度と諸制度のサービス利用状況とその実態を明らかにするために、在宅生活を継続している水俣病患者の訪問及びヒアリング調査を継続的に実施した。さらに調査対象者にかかわる医療・介護従事者、市担当者などの調査を実施し、水俣病補償救済制度とその運用実態、介護保険や障害者総合支援法、熊本県が実施する胎児性水俣病支援事業など諸制度の利用実態を明らかにした。 これらの調査を通して、家族内に複数存在する水俣病患者家庭の多くで、在宅生活の継続の困難性が明確になり、水俣病患者である介護者自身の高齢化や症状の悪化により家庭内介護体制が崩壊している事例も認められた。金銭給付が中心の公害補償救済制度は、こうしたケースにはなんら対応できないことは明白で、そのため他制度の組み合わせ利用が在宅生活を送る上で必須となる。しかし、水俣病の差別等に起因する当事者のサービス利用抑制が、制度間の隙間をさらに大きくしている。被害補償制度の制度設計、社会福祉サービスによる補完、種々のサービス利用に関する社会的条件それぞれの課題について、明らかにすることができた。 これらの研究成果については、第71回日本公衆衛生学会総会および第9回水俣病事件研究交流集会において報告した。また、現在、取りまとめの論文を執筆中である。
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