2011 Fiscal Year Research-status Report
文化的課題としての察し―対人知覚の文化的スクリプトの検証
Project/Area Number |
23530827
|
Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
唐澤 真弓 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (60255940)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 察し / 心の理論 / 思いやり / EQ / 文化的課題 / 文化心理学 |
Research Abstract |
本研究では、文化的課題、とりわけ他者の心的状態の推測はいかなる文化にも存在する文化的課題に着目する。「察し」とは、文化的自己観を用いて対人知覚をする傾向のことであると考え、文化差を説明できることになる。人の気持ちを察する傾向を測定し、この傾向が高いほど文化固有の人間関係のモデルを用いがちであるという仮説を検討する研究1.察し機能尺度の作成:従来用いられてきた複数の対人理解測度を元に、他者の心的状態の理解という察しを測る尺度を作成するために、他者理解の基盤となる心の理論尺度(Yoon, et al, 2010など)、また、他者の心を読む能力としてEmotional Intelligence(Salovey & Myer,1990)尺度,思いやり尺度(Uchida, 2004)については、既存の英語版、日本語版を検討し、予備調査を行った。また、7月に東京でベルギー側研究協力者ルーベン大学メスキータ教授と研究打ち合わせを行い、秋に唐澤がベルギーを訪れ、ベルギーでの実施方法を検討した。3カ国での調整を行った後、日本での予備調査を実施し、項目を同定した。研究2.察し機能による対人理解の文化差の実験の準備、予備実験:対応バイアスの実験について、8月にNaらが使用した、再認記憶課題をPC上で作成した対応バイアス実験を日本語版で作成することを試みた。提示言語の等価性を検討し、最終的な実験プログラムを作成中である。研究3:察し機能による対人認知実験として、Mesquita& Masudaの実験もバッテリーとして適切であると考え、ベルギーと日本で予備調査を実施した。また、夏にはこの研究の基盤となる文化的課題のこれまでの知見を総じて、ISREでの研究発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の達成目標は、第一に「研究1.察し機能尺度について、複数の尺度をあわせて検討し、察し尺度を作成することであった。7月に東京でベルギー側研究協力者ルーペン大学メスキータ教授と研究打ち合わせを行い、秋に唐澤がベルギーを訪れ、データ分析を行った上で、尺度がほぼ確定した。予備調査を実施し、翌年度の実施の準備が整い、目的は達成されたといえる。研究2についての目標は「察し機能による対人理解の文化差の実験の準備、予備実験の実施」であった。対応バイアスの実験について、英語の実験プログラムを確認し、夏にミシガン大学での研究打ち合わせ、実験機材の確認を行った。日本語およびベルギー語の3つの文化圏において等価の刺激となるよう、その調整に時間を要し、予備実験まで至らなかった。また、察し機能を同定する自己ー他者感情一致の実験課題を追加することにより、察し機能をより明確に同定できると考えた。すでにアメリカ、日本で実施された実験課題であるが、同じ方法でベルギーでの実験課題を作成し、この予備実験は終了している。文化間等価の対応バイアス実験の完成が遅れ気味であるが、追加した実験課題とあわせて、来年度実施する予定に変更はない。したがって、研究の達成はおおむね順調であると最終的に判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、下記の2つの仮説を検証することを目的としている。1)アメリカでは察しの傾向が強くなるに従い、他者と場から独立し、自らの意図により動機づけられていると推測する傾向が強くなる。、2)日本のような相互協調的自己観のなかでは、人は関係志向的であるとするスキーマが優勢であるため、察しの程度が高ければ高いほど、人は場に埋め込まれ、人との関係に応じて行動を変えていると推測する傾向が強くなる。これらの仮説を検証するために、具体的には、以下の3つの研究を実施していく。研究1.察し機能尺度の作成:従来用いられてきた複数の対人理解測度を元に、他者の心的状態の理解という察しを測る尺度を作成する。研究2.察し機能による対人理解の文化差の実験:察し機能が高いことは、文化にある人間関係、文化的自己観を達成しようとする傾向が強いことになる。対応バイアスの実験を行い、従来みいだされてきた文化差がみられる程度が察し機能により説明できることを検討する。研究3. 察し機能による対人認知の文化差の実験:文化と認知研究で取り上げられた包括的―分析的対人認知課題を用いて、察し機能との関連を検討し、文化差が察し機能という文化的課題への個人の取り組みによって説明できることを検討する。平成24年度は、研究1は7月までにデータを収集し、夏に分析を行い、1月のSPSPで成果の発表を行う。研究2については、実験課題を同定し、今年度中にデータ収集の予定である。研究3については、当初の計画より早く予備実験を実施したため、同じく今年度10月から1月にデータを収集する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3つの研究を実施することが次年度の目的である研究1 察し機能尺度については、3つの文化圏で質問紙を実施する。データ入力、分析用の研究補助謝金を算出する予定である。研究2では、実験実施のためのPC(15万円)を購入し、実験課題実施のための準備を完成する。また、実験課題作成およびデータ入力および分析補助謝金を使用する。研究3においては、実験課題提示用のタブレット端末(4万円)とソフトを購入し、実験を実施することとする。また、実験課題作成およびデータ入力および分析補助謝金を使用する。以上、3つの研究をあわせて研究補助謝金50万円を予定している。3つの研究の打ち合わせおよび分析に関わる旅費(70万円)については以下のような使用を予定している。年度末から翌年度初めにわたり、アメリカでの実験課題、予備調査実施のため、ミシガン大学へ出張することとなる。昨年度の繰り越し分とあわせて、旅費を使用する予定である。5月には、ベルギーでの研究実施のための打ち合わせを行う。8月にミシガン大学、10月にルーベン大学での打ち合わせと,1月に研究1の成果発表をする予定である。
|
Research Products
(2 results)