2014 Fiscal Year Research-status Report
「あたたかく課題を突きつける」指導方略を促す学級課題状況の実証的研究
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23530852
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
弓削 洋子 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (80335827)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 教師 / 指導性 / 学級目標 / 課題共有 / 対立 / 連帯性 / 学級集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
教師の二つの指導性(‘引き上げる’と‘受け入れる’)統合を具体化した「あたたかく課題を突きつける」指導方略を促進する規定因として学級の課題状況に注目し,以下の作業をおこなった。 平成25年度は,課題状況として小学校教師と児童の学級目標の一致性について質問紙調査データを分析した結果,‘個人伸長’をともにめざしているとき教師は「あたたかく課題を突きつける」指導方略を用いることが示された。しかし,教師の目標は学級集団全体に向けてのものであり,学級の児童全体がどの程度教師の目標を共有しているか(学級課題目標共有度)が重要な意味を持つと思われた。 そこで,平成26年度は,目標の学級共有度を規定因として,再度データを分析した。その結果,中学年では‘授業態度の向上’目標の学級共有度が高いほど,「話し合って納得してもらえる注意・指示をする」指導方略を教師は用いることが示された。一方,高学年は,教師の掲げた‘個人伸長’目標を児童集団が共有せず,児童らは‘交友関係維持'を目標にしているとき,教師は児童らと話し合ったうえで最後に突き放す「あたたかく課題を突きつける」指導方略を用いて,児童の協力性と学習への挑戦度を高める結果となった。これらは3つの学会にて発表した。 この結果は平成25年度の分析結果と異なる結果であり,学級集団の教師と児童集団との対立が教師の指導方略に影響する新たな知見が得られた。教師と児童集団とのめざす課題目標が対立しつつも相補的であることが,むしろ,児童の自律性と協力性を高める「あたたかく課題を突きつける」指導方略を促進するという,従来指摘されていない可能性が示唆された。教師が児童集団の欲求である'交友関係維持'を有効活用して‘個人伸長’を促す課題場面を学級に取り入れた可能性と,児童らも教師が学級に取り入れた課題場面を能動的に活用して,交友関係を深めた可能性が示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定した学級集団の縦断的調査研究は,協力校の都合でできなくなったため断念し,調査方法として新たな方向性を検討するべく,既に実施した質問紙調査データの分析を綿密に行った。併せて,従来の教師の指導行動研究以外の研究(児童集団の反発の研究,組織心理学の研究など)まで広げて文献収集して分析結果を検討した。そのために当初予定よりやや遅れている。 しかし,調査データ分析の結果,従来の研究結果と異なる新たな仮説生成につながる結果と解釈が得られた。この仮説検証に向けて,縦断的調査ではなく横断的な調査を実施することに計画を変更した。当初予定していた教師の指導方略にとどまらず,児童集団の動態やその心理が教師の掲げる学級目標と相乗的に合わさって,教師の指導方略および児童の自律性や学級集団の成長につながることを,質問紙調査や行動観察から把握するために具体的な準備を進めている。 また,今年度の分析結果を踏まえた予備調査をおこない,その結果を国内学会で発表する予定である。 したがって,研究方法や仮説の再検討をおこなったため初年度計画予定と比べると若干遅れてはいるが,今年度の研究方向の修正と具体化のために必要であったと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
学級集団において教師と児童集団との課題目標や意見のどのような対立・相違が,「あたたかく課題を突きつける」指導方略および児童個人の学習などの課業の自律性と学級連帯性を高めることを確認していく。第一に,高学年児童が交友関係を能動的に形成・維持する場として,単に休み時間など課題が明確でなかったり課題遂行の必然性がない場面よりも,むしろ学習場面や特別活動場面であったり,このような場面を教師が設定することを児童が求めている可能性を検討する。具体的には小学校での行動観察や質問紙調査を実施する。 第二に,児童集団が交友関係を能動的に形成できる場が存在しないときに,どのような形で児童集団は交友を図るのかを検討する。弓削・森部(2015)で既に検討しているが,対教師への反発という形で学級集団を分断して小集団でまとまる動きが,小学校高学年でみられる。このような児童集団の動きがどのような心理的メカニズムで起きるかは,教師が設定する課業場面と無関係ではないと思われる。行動観察やインタビューを実施する予定である。 第三に,教師が児童集団の欲求をどのように活用して学級経営するかの実践の把握である。昨年度までの調査では,質問紙調査データの分析結果から,教師が児童集団の‘交友関係欲求'を有効活用していると推測したに過ぎない。実際にこのような実践はどのようにして可能なのか,あるいは可能にする要因は何かを,教師対象の自由記述回答の質問紙やインタビューにて検討する。 最後に,学級コンサルテーションへの活用である。従来,教師と児童集団の対立・意見の相違をネガティブに捉える傾向にあった。しかし,今年度の研究結果からは,学校生活上ポジティブな能動性や欲求であれば,児童集団と教師との意見対立は教師と児童との話し合いの機会となって最終的には児童集団の自律性を生み出すことをベースにして,コンサルテーションを実践していく。
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Causes of Carryover |
協力校の都合で,当初予定していた学級集団の縦断的調査研究が行えなくなり,調査計画と調査方法の見直しが生じたため,次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず,既に終えた質問紙調査データの分析結果をまとめた論文の投稿,および教師の指導性機能の展望論文の投稿に向けて,文献資料費と文献整理の人件費,郵送費等が必要である。次に,新たな研究計画の予備調査結果に関する知見を得るために,国内の学会にて発表するための出張費と資料作成の印刷用紙・ポスター印刷代が必要となる。加えて,さらなる予備調査をおこない,児童集団が交友関係を能動的に形成する場や,教師が児童集団の欲求を活用した学級経営について,小学校学級でフィールドワークやインタビュー,さらに質問紙調査を実施する。そのために,小学校への出張費,質問紙作成の物品費と郵送費と人件費,フィールドワークやインタビューで使用する物品費が必要である。最後に,学級コンサルテーションを実施して,上記の仮説が教育支援上有効であるかを確認するうえで,教師に授業の様子などをフィードバックするための物品費が必要となる。
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