2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530886
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Research Institution | National Research Institute for Child Health and Development |
Principal Investigator |
小泉 智恵 独立行政法人国立成育医療研究センター, その他部局等, その他 (50392478)
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Keywords | 不妊 / 生殖医療 / 生涯発達 / 人格発達 / 夫婦関係 |
Research Abstract |
今年度は国立精神・神経医療研究センター倫理審査で承認されたデータ移動を実行し、国立精神・神経医療研究センターと当センターの間でデータの移管の締結が完了した。それと並行してさらに5年間の追跡調査について当センターの倫理審査の承認を得て、実質的な追跡調査をおこなった。 調査対象者は、平成20-22年度科学研究費(基盤研究C)で不妊治療中(参加当時)の夫婦318人(夫150人、妻168人)であった。データ移動の説明文書を送付したが、住所や登録e-mailアドレスなど連絡先不明者が夫53人、妻55人だったため、夫97人、妻113人に送付できた。データ移動の同意は夫39人、妻44人であった。同意が得られた方の中で、追跡調査に参加したのは夫20人、妻37人であった。郵送による縦断研究では参加者の減少は必至であるが、今回の調査参加者が減少した理由として、連絡先不明者が多かったことが第1にあげられる。しかし、政府主体のコホート研究や国勢調査を除くと、詳細な縦断研究としては調査期間5年で20人以上を追跡できた研究は数少なく、貴重なデータであると言えよう。 追跡調査では、ライフコースは現在も治療中8人、治療中断4人、治療終結25人であった。不妊治療で子どもを持った人は28人、子どもを持てなかった人は9人であった。追跡調査時点での不妊の受容、不妊による人格発達について、治療で妊娠したか否かで差があるか検討した。分散分析の結果、夫は妊娠したか否かで受容の程度には差が見られなかったが、女性は差が見られ、妊娠した場合に受容が進んでいた。また、夫、妻ともに妊娠した場合の方が人格発達が進んでいた。妊娠という希望が叶う場合に辛い経験を受容しやすいと言えるかもしれない。妊娠しなかった群の中には治療中の人が多く含まれたため、現在も治療によるストレスを受けているから受容や人格発達が進んでいないのかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、不妊治療をして親となることを望みながら、最終的に親とならない場合の生涯発達のモデルを提示することである。具体的には、不妊治療で親となる群と親とならない群の縦断研究を行い、それぞれの生涯発達が促進することを検討することである。 当初の計画通り、今年度末までに5年間の縦断研究を実施し、不妊治療後に親となった群と親となっていない群を設けて、量的、質的分析に取り組んでいる。しかし、経年により連絡先不明者が増え、調査参加者が減少してしまったが、分析に足る人数はまだ確保できている。そして本研究の強みである、不妊の受容と生涯発達に関する詳細なデータは活かされる。 こうした点から、本研究は25年の最終年度においても交付申請時の目標を達成できる見込みであると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
不妊の受容と生涯発達に関する詳細な縦断研究であるという本研究の強みを活かすために、更に面接調査、追跡調査を加えて行く必要がある。 量的解析としては上記の研究実績の概要で述べたように、妊娠群の方が良好な受容と生涯発達であると示唆されたが、調査の自由記述や面接では子どもを持たない群においても穏やかな充実した人生を送っていると報告されている。こうした結果を総合的に考えるため、25年度は面接調査を加えて更に生涯発達について検討する必要がある。 また、これまでの調査で不妊原因によって受容と発達が異なるかもしれないと考えられた。不妊原因で最も多いのは原因不明で、原因不明と診断された後は「あいまいな喪失」心理になるが、他方、無精子症、早発卵巣機能不全といった精子や卵子が存在しないという深刻な原因の場合は自身の存在価値を揺るがすような脅威となる。こうした中での喪失と受容は生涯発達に強く影響するだろう。そこで最終年度は不妊原因にも着目して縦断調査をまとめていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は面接調査を実施するため、調査に掛かる国内旅費、調査参加者に対する謝金、調査データの整理のための謝金などが必要になる。 また、最終年度のため、調査結果をまとめ、学術発表を行う。そのための学会参加の国外・国内旅費、参加費、論文の英文校正にかかる謝金などが必要となる。
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