2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530890
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
松田 修 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (60282787)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 認知症 / アルツハイマー病 / 老化 / 権利擁護 / 認知的加齢 / 認知機能障害 / アセスメント / 高齢者 |
Research Abstract |
本研究の目的は,認知症高齢者の権利擁護に関わる法手続きにおける心理学的評価の意義に対する科学的根拠を得るために,認知症の中核症状である認知機能障害が高齢者の行為遂行機能に与える影響を分析し,認知症の行為遂行障害の発現機序の解明を試みることである。特に,本研究では,高齢者が地域で生活するのに必要な行為に焦点を当てて検討した。23年度の主な研究実績は以下の4点である。(1)高齢者が安全に暮らすのに必要な危険察知に焦点を当てて,アルツハイマー病(AD)や加齢が高齢者の嗅覚機能に与える影響の検討を行った。その結果,ADでは,比較的軽症の時期から,「家庭用ガス」や「不潔な衣服」の臭いの同定や,それらの臭いから危険や衛生に関する問題を推理する能力が低下している可能性が示唆された。(2)認知症が高齢者の知的能力に与える影響を明らかにするために,日本版WAIS-IIIを用いてAD患者の認知プロフィールを分析した。その結果,IQレベルではVIQ>PIQ,指標指数レベルではVCI or WMI > POI or PSIというパターンがADの典型的なプロフィールである可能性が示唆された。さらに,HDS-R得点の成績がカットオフを上まわる状態の患者であっても,同様のプロフィールが出現する可能性が示唆された。(3)認知症高齢者の認知機能は,認知症による病的変化のみならず,加齢による認知的老化の影響を大きく受ける可能性があることから,WAIS-IIIの標準化データに基づいて,加齢による認知機能変化の特徴を横断的に検討した。その結果,PSIが加齢の影響を最も強く受ける可能性が示唆された。(4)経済行為能力と認知機能の低下との関連に関する文献検討を行った。その結果,PSIをはじめとする認知指標と経済行為能力との関連性が示唆された。これらの研究から,高齢者の権利擁護における心理学的評価の重要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
認知症高齢者の権利擁護における能力評価では,高齢者が特定の行為を単独でどの程度遂行可能であるかが問われる。本研究は,こうした評価における心理学的評価の意義を明確にするために,認知症の中核症状である認知機能に焦点を当てて検討したものである。当初は縦断的検討を予定していたが,それについては実施上の制約や研究方法を精査した結果,必ずしも妥当ではないと判断し,実行しなかった。しかしながら,各種の横断的分析から,権利擁護の法手続きにおける心理学的評価の意義を示唆する知見を得ることができた。その主な知見は以下の2つである。第一に,嗅覚認知という新しい視点から高齢者が単独で生活する上で欠かせない危険察知という行為能力に注目し,一定の知見を示すことができた。第二に,WAIS-IIIを用いたアルツハイマー病患者の認知プロフィールの検討から,視覚的な情報の認知や処理速度が比較的軽度の時期から低下し,それが経済行為をはじめとする高齢者の行為遂行能力の低下の背景にある可能性を示唆することができた。以上の点から,本研究は概ね順調に進展しているものと考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
WAIS-IIIは,世界的に最も高く評価された認知機能検査で,測定結果を知能理論に則って解釈することが可能である。国内外の精神鑑定においても,WAIS-IIIは能力評価の重要なアセスメントツールとして広く使用されている。今後もこの検査を用いた能力評価の意義を科学的に示すための検討をさらに進めていきたい。これら加えて,今後は以下の2点について新たに取り組む予定である。第一は,より簡便な認知機能検査を用いた検討である。WAIS-IIIよりも簡便で,かつ,国内外の認知症評価で広く使用されている心理検査(例,COGNISTAT等)を用いた検討も進め,認知症高齢者の能力障害の特徴および権利擁護ための能力評価における心理学的評価の意義の検討を進めるつもりである。第二は,アナログ実験による基礎研究の推進である。権利擁護に関わる能力障害のメカニズムの解明とその評価法の開発には,契約締結や遺言等に関わる意思決定能力障害のメカニズムに関する基礎研究が必要である。しかしながら,認知症高齢者の多くは,実験教示の理解や実験課題の操作自体が難しく,そのために,これらの人々を厳密な統制を伴う実験対象とすることには無理がある。こうした問題をクリアするために,臨床心理学研究法のひとつであるアナログ研究の手法を取り入れ,能力障害のメカニズムや評価法に関する基礎研究に取り組む予定である。現在,計画しているのは,大学生等を対象に,認知症モデルを可能な限り再現したアナログ実験である。これにより,認知症高齢者を対象とした臨床研究では統制することが難しい各種条件の操作が可能となるため,より詳細な知見が得られるはずである。これらの検討を通じて,権利擁護に関わる能力障害のメカニズムの解明および能力障害の評価法に関するより厳密なエビデンスの構築を目指すつもりである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は,研究に必要な物品費(実験装置,文具,用紙,印刷トナー等),本研究に関わる学会出張旅費,研究協力者への謝金,および研究成果発表に関わる経費を研究費として使用する計画である。
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Research Products
(1 results)