2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23530900
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
堀内 孝 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (00333162)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 解離傾向 / 概念的自己 / 自己複雑性 / 自己明確性 |
Research Abstract |
解離の主たる特徴は自分自身に関する記憶,すなわち,自伝的記憶の障害にある。本研究の目的は,Conway(2005)の自己-記憶システム(Self-Memory System)に準拠し,自己-記憶システムの構成要素である自伝的記憶知識ベース(概念的自己およびエピソード記憶)の観点から,解離の認知特性を検討することである。 平成23年度は概念的自己に焦点を当てた研究を二つ行った。解離の原因として心的外傷やストレスが指摘されているが,そのようなネガティブで強い情動状態に長期間さらされることによって,解離傾向の高い人の否定的な概念的自己は分化し,統合度が高くなっていることが予測される。 調査研究1では,分化度の指標として自己複雑性(Linville, 1985),統合度の指標として自己明確性(Campbell et al., 1996)を採用した。分析の結果,解離性体験尺度と自己明確性尺度の間に-.36,解離とネガティブ領域の自己複雑性との間に.17の相関係数が得られた。しかしながら,自己明確性とネガティブ領域の自己複雑性の間にも-.18の相関係数が得られた。そこで,解離を従属変数,自己明確性とネガティブ領域の自己複雑性を独立変数とする重回帰分析を行ったところ,自己明確性にのみに有意な標準偏回帰係数が得られた(-.34)。以上の結果は,解離傾向者の自己知識は主に統合度の低さに特徴づけられることを示唆するものである。 ところで,自己明確性尺度は概念的自己(意味記憶)の明確性のみを測定するわけでない。そこで,調査研究2では,(Campbell, 1990)の手続きに従い,概念的自己の極端さと確信度が解離に及ぼす影響を検討した。分析の結果,解離の下位因子である健忘と確信度に-.19の相関が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画の通り,調査研究を二つ実施した。そして,解離傾向者の自己知識は分化度(自己複雑性)ではなく,主に統合度の低さ(自己明確性)に特徴づけられることを示す新たな知見を得ることができた。解離傾向の高い人は防衛機制として自己知識の統合度を低くすることにより,うつなどの精神的不適応を回避していると解釈すれば,生態学的にも妥当な結果であると考えられる
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度は調査と実験を行う。調査では,概念的自己の明確性と解離傾向の関係をさらに詳細に検討するため,対極にあるポジティブ語とネガティブ語に対して適合度と確信度の評定を求める。解離傾向と概念的自己の明確性が関連するのであれば,解離の高い人は対極にあるポジティブ語とネガティブ語に対してともに"当てはまる"や"当てはまらない"と答える率が高くなることが予想される。また,解離の高い人は,ポジティブ語あるいはネガティブ語の確信度が低いことが予想される。 実験では,エピソード記憶に焦点を当てた研究を行う。ネガティブで強い情動状態に長期間さらされると,関連するネガティブなエピソード記憶のアクセスビリティが高くなり,自動的に想起されやすくなることが予測される。具体的には,自己関連付け効果の研究パラダイムに過程分離手続(Jacoby, 1999)を適用することにより,自分自身について判断を行った刺激語のエピソード想起における回想成分と熟知性成分を分離する。解離傾向の高い人の方が,ネガティブ語の想起における熟知性成分が多ければ,仮説が支持される。 平成25年は研究計画の最終年度なので,得られた研究成果を総合的にまとめ,報告書を作成する。必要に応じては,追加実験を実施する。学会発表,論文投稿は成果に応じて随時行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は,研究計画を遂行するにあたり,質問冊子の作成に要する費用,実験制御用ソフトウェア,実験で使用する文具・記録メディア等の購入費,実験補助や実験参加者に対する謝金を必要とする。また,前年度の成果を学会で発表し,論文投稿するために,翻訳・校正費,研究成果発表費(学会参加費,論文集代,論文投稿料など),資料収集費,論文別刷代などが必要である。平成23年度は東日本大震災のため,資料収集を予定していた研究会等の開催が変更された。そのために生じた未使用額は,平成24年度の資料取集で有効に活用したい。
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