2011 Fiscal Year Research-status Report
青少年の生活不安と攻撃行動に関する発達臨床心理学的研究
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23530909
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
藤井 義久 岩手県立大学, 共通教育センター, 准教授 (60305258)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 生活不安 / 怒り / 攻撃行動 |
Research Abstract |
青少年の生活不安を多面的に測定できる「生活不安尺度」の項目収集及び尺度構成を行うために、大学生182名を対象にして予備調査を実施した。まず、青少年が日常生活全般において感じている不安に関する自由記述調査によって収集された項目について、内容的妥当性の観点から、本尺度項目としてふさわしい項目かどうか吟味し、最終的に内容的妥当性が高いと考えられた40項目について、項目分析および主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果、固有値の変化および解釈可能性から5因子解が妥当であると判断した。そして、因子分析によって二重負荷の見られる項目があったので、再度、同様の因子分析を行った結果、最終的に、「対人不安」、「学習不安」、「緊急事態不安」、「一般生活不安」、「所属不安」という5つの下位尺度、計20項目から成る「大学生活不安尺度」を開発した。なお、前述の5つの因子で、全分散の57.92%が説明可能である。 次に、その尺度を用いて、「生活不安」と攻撃行動の背景にあると考えられる「怒り感情」との関連性について重回帰分析によって分析した。その結果、大学生においては、標準偏回帰係数の値から、特に「緊急事態不安」が強まると親や先生といった周りの大人に対する怒り感情が高まるのに対して、「学校不安」が強まると逆に自分自身に対する怒り感情が高まるといった具合に、生活不安の種類によって怒り感情の方向性に違いが見られることがわかった。 さらに、「生活不安」と「健康」との関連性について、CMI健康調査票を用いて分析した。その結果、生活不安と関連がある身体的自覚症状として、「呼吸器系」、「循環器系」、「皮膚系」、「疲労度」、「疾病頻度」が挙げられた。一方、精神的自覚症状においては、生活不安を感じやすい学生は、一般に不適応傾向が強く、過敏で、緊張しやすく、抑うつ的であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、現代の青少年の生活不安を多面的に測定できる「生活不安尺度」を発達段階別に開発し、青少年における生活不安の構造および発達的変化について明らかにするとともに、青少年の生活不安と攻撃行動との関連性について、詳細に検討することであった。 そこで、初年度は、小学生から大学生まで共通に使える「生活不安尺度」開発を目指して、「生活不安尺度」の項目収集及び尺度構成を行うことにした。そのために、まず大学生を対象に予備調査を実施し、生活不安の因子構造をある程度把握することができた。そして、それらの因子を構成している項目をもとに尺度を構成し、「生活不安尺度」の骨組みを構築することができた。今後は、この骨組みをもとにして、研究を進めていくことが可能になった。また、構築された「生活不安尺度」の信頼性、妥当性についても、様々な角度から検討されたが、本尺度には一定の信頼性、妥当性が備わっていることが確認された。従って、予備調査に基づいて作成された「生活不安尺度」を基盤に、今後、研究を進めていけることが確認された。また、予備調査の段階で生活不安と怒りとの関連性についても吟味したが、生活不安と怒り感情は密接に関連しているが、生活不安の種類によって怒り感情の方向性が異なる傾向が認められたことは、生活不安が攻撃行動に及ぼす影響について研究していく際には、攻撃行動の方向性にも着目する必要があるのではないかという本研究代表者の仮説を裏付ける結果となり、当初の計画通り、今後、研究を進めていくこととした。さらに、現在、同様の調査を中学校、高等学校の生徒に対しても実施しているところである。 以上の状況を総合すると、本研究は、当初の調査分析計画と照らし合わせて、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は予備調査によって「生活不安尺度」の骨組みが構築されたので、平成24年度は、この尺度を基盤に、さらに青少年の「生活不安」を測定するために必要な項目はないか、適宜、項目の追加及び項目の修正等を行い、最終的に本調査で用いる「生活不安尺度」を構築し、青少年における生活不安の発達的変化や生活不安と攻撃行動との関連性など、各種統計的手法を用いて詳細に検討していきたいと考えている。 さらに、平成25年度の国際調査実施に向けての準備にも取りかかる予定である。ただ、国際調査の場合、質問紙を翻訳してすぐ実施できるかというとそう簡単にはいかない。本研究においては、北欧諸国の子供たちを対象としているので、子供の人権保護の観点から、日本と違ってなかなか調査をさせていただけない場合も想定される。従って、国際調査実施の前までには、調査協力校の校長の同意を取り付けるだけでなく、保護者会などを開催して、本研究の趣旨説明を行い、調査実施に関する保護者の同意も必要であろう。調査実施に向けて、粘り強く対応していきたいと考えている。従って、今後、国際調査実施に当たっては様々な困難が予想されるが、何とか国際調査を実施し、今まで行われてこなかった「生活不安」と「攻撃行動」に関する国際比較研究を推進させていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、予備調査ということで、調査規模が小さく、調査実施及びデータ分析に係る経費が当初の予定よりかなり少なくて済んだが、いよいよ平成24年度からは、青少年の生活不安と攻撃行動に関する本調査が実施される。従って、予備調査と違って、調査地域が大きくなり、調査対象者も大幅に増える。 また、調査研究と併せて、「生活不安尺度」を開発するに当たり、現在の子供達の心の状況や課題、支援の在り方について、東京の関係機関や専門家等から聞いたり、本研究に関連する先行研究や最新の研究動向について調べることも必要である。そのために、次年度は、調査および研究旅費と、データ入力謝金を初め調査実施分析に係る経費がかなり多く必要となってくると思われる。併せて、国際調査実施に向けた準備のため、質問紙の北欧語への翻訳作業といった謝金も、初年度はなかったが次年度以降は必要になってくる。 従って、本年度の研究費の残金と次年度の研究費を用いて、関係機関等に対する聞き取り調査および先行研究分析、本調査の実施、国際調査実施に向けた準備等、計画通り、滞りなく進めていきたいと考えている。
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Research Products
(3 results)