2011 Fiscal Year Research-status Report
学校心理・教育臨床におけるコンサルテーション教育訓練プログラムの開発
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23530925
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
大石 幸二 立教大学, 現代心理学部, 教授 (80302363)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | コンサルテーション / 相談過程 / コンサルタント / 発話内容 / テキストマイニング / 臨床心理学的地域援助 / 高度専門職業人 / 教育訓練 |
Research Abstract |
平成23年度(第1年次)の研究課題は、コンサルテーション過程で取り交わされるコミュニケーション行動の様相を分析することであった。就学期移行支援の相談過程に焦点化してコンサルタントの発話内容に関する資料を収集した。研究に参加したコンサルタントは高度専門職業人である。CiNiiにより、コンサルテーション過程をテキストマイニングの手法により分析し、その語りの潜在的意図を抽出した研究はわが国では皆無であった。よって、本研究で解明をめざす課題は学術的価値・実践的意義ともに高い。 実施した実証研究は3つであった。第1に行動の機能的理解に基づくコンサルテーションが、予測される効果をコンサルティとクライアントに及ぼすかを検証した。その結果、コンサルテーション手法の有効性が確認された。本成果は日本コミュニティ心理学会の学術誌にすでに公表済みである。第2に前記のコンサルテーション手法の普遍性を確認するため、システム変容に及ぼす効果を検証した。その結果、就学期の移行支援体制整備における本手法の応用可能性が確認された。本成果は日本特殊教育学会の学術誌への投稿準備中である。第3にこれらの相談過程におけるコンサルタントの発話内容をテキストマイニングの手法により分析した。その結果、コンサルテーションに影響を及ぼす変数は観察・記録する行動とその肯定的側面のパフォーマンス・フィードバックであると考えられた。今後事例を重ねて研究知見の確証性を高めていく。本成果は今秋(2012年9月)の日本特殊教育学会の年次大会で研究発表される。(研究発表抄録はすでに提出され、受理されている。) 以上の研究成果を高度専門職業人の養成・教育訓練に応用するための条件(第2年次の研究課題)についても展望した。その中でアクション・リサーチの重要性を指摘した。本成果は日本コミュニティ心理学会の学術誌にすでに投稿され、審査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度(第1年次)研究の進捗状況について「おおむね順調に進展している」と評価することができる。その理由は、本研究が東日本大震災の被災地を研究対象地域に含んでおり、そのため研究対象範囲・規模などを縮小せざるを得なかったにも拘わらず、平成24年度(第2年次)研究の基盤となる研究成果をおさめることができたからである。3つの実証研究のうちの1つは、すでに学術論文として公表されている。2つ目の研究は現在学術論文として執筆しており投稿準備中である。3つ目の研究は2部に分かれるが、1部はすでに学術論文として投稿済みで現在審査中である。2部も本研究の意義を具体的に説明する総説論文として投稿済みで現在審査中である。それでも、本研究領域はわが国では研究知見の蓄積が皆無であることから、現時点において妥当性の高い研究成果とするには取り上げた事例数が不足している。この点が「おおむね」と評価した理由である。平成24年度(第2年次)研究において、相談過程における発話内容の収集を拡大する計画を立てている。そして、教育訓練により高度専門職業人でなくとも(具体的にはインターンであっても)、行動の機能的理解にもとづくコンサルテーションが実施できるという仮説を立てている。しかし、本年度の研究成果を踏まえるとき、臨床心理面接ないし臨床心理学的地域援助場面における発話内容には、高度専門職業人とインターンの間で大きな乖離が生じる可能性がある。もしもそうであれば、インターンを対象にデータが収集された、北米のコンサルテーション研究の知見は、その質的側面において大きな見直しを迫られることになるかも知れない。あるいはこのことは、語りの内容ばかりでなく、語られ方が重要な鍵を握る日本語文化圏の特質ということになるのかもしれない。このような検討課題を本年度の研究成果に基づいて引き出すことができ、有用な示唆を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
既述のとおり、本研究は当初東日本大震災の被災地を研究対象地域に含んでいた。そのため、研究の実施段階において、研究対象範囲・規模などを見直し・変更、縮小などをせざるを得なかった。また、時間的な制約から遠隔地への度重なる出張が困難でもあった。このことは、得られる発話内容データの事例数を不十分なものとした。以上により、十分な旅費の執行ができなかった。前記のとおり、収集できる発話内容データが量的に抑制されたことで、予定していた委託費を執行するための基礎資料が不足した。ただし、本研究は、保育者や教師および臨床心理士などの日常的業務への具体的な寄与、および当該研究対象地域に対する貢献を前提として初めて成立するものである。よって、今後の研究の推進にあたってはこのような視座から外れることなく実践と研究の両立を図っていく。 幸い平成24年度(第2年次)は本務校において研究専念休暇を得ることができている。この機会を活かして、平成23年度(第1年次)に収集することができなかった発話内容データを順次収集する計画を立てている。本研究の当初計画には、高度専門職業人とインターンの行うコンサルテーションがその形式面において共通であっても、発話内容およびその語られ方という点において必ずしも等質ではない、ということを仮説に加えていなかった。けれども、平成23年度(第1年次)の研究成果により示唆された点を活かして、高度専門職業人とインターンに対する発話内容データを収集し、これらを比較しながら平成24年度(第2年次)研究をより豊かなものに仕上げていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度(第2年次)では、平成25年度(最終年次)に作成しなければならない教育訓練のためのパッケージ・プログラムの必要経費を見込みながら、研究を推進していく。その際、多様なコンサルテーション場面において、発話内容データの収集を行う。このことは、平成23年度(第1年次)の研究成果により示唆された検討課題を解決することと関連している。 具体的には、高度専門職業人であるコンサルタントの発話内容データをテキストマイニングの分析単位として2,000文書収集する。100文書に対するデータ化・成形の委託費が約30,000円であることから、2,000文書の委託費は約600,000円と見積もられる。また、インターンであるコンサルタントの発話内容データをテキストマイニングの分析単位として1,500文書収集する。同様にして、1,500文書の委託費は約450,000円と見積もられる。そのために必要な出張は6~7回となり、対象地域と相談の上で、これらを実施する。出張旅費の見積もりは約450,000円となる。物品・消耗品を除く昨年度繰越額を合わせた平成24年度(第2年次)の研究費使用計画を以上のように立案し、適正に執行していく予定である。 平成24年度(第2年次)研究を円滑に遂行するために、高度専門職業人ないしインターンにも出張の協力を得なければならない。出張予定が遅くとも実施一か月前に定まらないと、受け入れ先とのやりとりや大学への申請手続きとの関連から実施が困難となる事態が平成23年度には生じた。同時に複数の協力者と共に出張し、同時並行で発話内容データを収集する効率的な方法を工夫していく。
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