2012 Fiscal Year Research-status Report
学校心理・教育臨床におけるコンサルテーション教育訓練プログラムの開発
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23530925
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
大石 幸二 立教大学, 現代心理学部, 教授 (80302363)
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Keywords | コンサルテーション / 相談過程 / 相談効果 / コンサルタント / 言語行動 / テキストマイニング / 対人関係影響力 / コンサルテーション過程分析記録 |
Research Abstract |
コンサルテーションの専門教育訓練カリキュラムを整備することを目指して、平成23年度(第1年次)の研究では保育士や教師などのコンサルティがクライアントの行動の機能的な理解を行う効果について、事例研究を基に指摘した。この知見を踏まえて平成24年度(第2年次)の研究では、コンサルタントがいかなる変数を操作すべきであるかを検討した。そして、それらの操作すべき変数をコンサルタント自身が自己管理(継続的にモニタリング)するための条件について明らかにすることを目標に下位研究を行った。 複数の自治体において実施した調査研究により、「相談効果」に加えて「相談過程」が決定的な変数の1つであることが明らかになった。「相談効果」とは、「コンサルタントが実践現場に即した効果的な提案をコンサルティに対して行っていたか」を問う内容であり、「相談過程」とは、「コンサルタントとコンサルティの相談・協議が対等かつ互恵的で、コンサルティの専門性を脅かすことのない言動に徹していたか」を問う内容である。「相談過程」に類する変数の重要性については、Erchulが「対人関係影響力」という術語を用いて説明しており、この影響力を効果的に発揮することが成功的なコンサルテーションの要件であることを指摘している。本研究によりErchulの知見は支持された。 また、平成24年度の研究では、テキストマイニングの手法を用いて、相談・協議におけるコンサルタントの言語行動の質的分析を試みた。特定のテキストや質問紙の自由記述欄などを分析の対象として、「語り」の背景にある概念や潜在的な意味の抽出を試みた研究は多数存在するものの、実際の臨床面接やコンサルテーション場面における「語り」を分析の対象とした研究は他にあまり例を見ない。この研究においては、表出された頻出語について検討することで、コンサルタントの着目点を顕在化しようとする試みを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度(第2年次)の研究の進捗状況について「おおむね順調に進展している」と評価できる。その理由は、平成24年度は相談・協議におけるコンサルタントの言語行動の質的分析を行うために、(1)「語り(発話内容)」の収集を積極的に行い、(2)その「語り」を複数のコンサルタント間で比較し、(3)北米におけるコンサルテーションの過程分析結果と比較することを計画した。(1)「語り」の収集については、東北地方のH地区、中部地方のC地区、関東地方のS地区の3地区で、計画通りに実施することができた。(2)「語り」のコンサルタント間の比較については、中部地方のC地区で同一場面、同一対象に対する複数のコンサルタントの「語り」を収集し、その差異について、日本特殊教育学会の年次大会において報告した。(3)北米のコンサルテーションの過程分析結果との比較については、Erchulが提示している「語り」のサンプルをテキストマイニングを用いて分析し、東北地方のH地区において繰り返しのあるコンサルテーション場面との比較を行い、その結果について、日本行動分析学会の年次大会において報告した。ただし、当初計画していたインターンを活用することは実践現場の問題解決ニーズを充足するという観点から困難であった。また、限られた期間と時間の範囲で数多くの資料収集を行うことが現実的に不可能であった。そのため、得られた知見を一般化するには、引き続き「語り」の収集を積極的に行う必要があり、平成25年度(最終年次)の研究においても継続する必要がある。この点が「おおむね」と評価した理由である。 いっぽう、コンサルタントが操作すべき変数を明らかにし、「相談効果」とともに、「相談過程」の重要性を雑誌論文や図書において指摘できたことは、当初計画にはない成果であった。この成果を平成25年度の研究成果に結びつけて、研究の全体目標を達成していく。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度(最終年次)の研究では、コンサルテーションの専門教育訓練カリキュラムを整備することが目標となる。本研究の開始時点において東日本大震災の影響を受け、全体計画を変更・縮小せざるを得ず、研究計画段階よりも焦点を絞り込んだパッケージの提案を行うべく研究を進めている。しかし、知見の一般化のために、引き続き「語り」の収集を積極的に行う必要がある。そして、今後研究を推進する上での課題として、(1)コンサルタントの言語行動について、「相談過程」に焦点を合わせた分析を試みること、(2)コンサルタント間の比較を継続し、「相談過程」に影響を及ぼす個人的(経験的)変数を記述すること、(3)「相談過程」の評価を盛り込んだコンサルテーション過程分析記録(CAR)の改訂を行うこと、以上の3点について解決する計画である。その際、コンサルテーションにおいて機能的行動アセスメントや包括的行動支援計画の実施に関する提案を急ぐと、結果的に連携と協働という本研究の主題の前提条件を欠いた研究のための研究に陥ってしまう(日本発達障害学会の年次大会において報告)。あくまで本研究は、保育士や教師、臨床心理士などの日常業務への具体的な寄与、および当該研究対象地域に対する貢献を前提として初めて成立するものである。よって、これまで同様、今後の研究の推進にあたっては、このような視座から外れることなく実践と研究の両立を引き続き図っていく。また、研究成果は絶えず実践現場に還元し、実践の可能性を聴取する。 なお、3か年間に収集されたデータに基づくコンサルテーションの専門教育訓練カリキュラムは「CAR改訂版」に集約される。そして、実施上のポイントや実践のコツを提示した教材を資料として作成する計画もある。両者は、同時並行で進められるとよいが、場合によると後者の作業については期限を延長して、次年度の課題となすことも検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度(最終年次)の研究費の使用については、本研究の最終段階で作成される予定の資料(実施上のポイントや実践のコツを提示した教材)の作成経費およびその増刷(複写)と配布に係る経費を確保した上で研究を推進し、研究費の適切な使用に努めていく。また、第1年次および第2年次の研究で得られた知見を一般化するための、「語り」の追加的な収集に伴う経費についても確保する必要がある。予備費を含めて、各実施計画毎に研究費の使用計画を立案する。具体的な実施計画は、以下の3つの側面から構成される。 1.知見の一般化を図るための「語り」の収集に伴う経費:平成24年度(第2年次)からの継続的な研究活動のための経費である。主たる費目は、旅費290,000円(中国地方のY地区を追加)および人件費・謝金220,000円(テープ起こし委託等)である。 2.コンサルタントの「相談過程」の分析に伴う経費:平成25年度(最終年次)に行うべき下位研究活動のための経費である。主たる費目は、物品費390,000円(言語的相互作用記録・解析システム)および人件費・謝金150,000円(テープ起こし委託等)である。 3.コンサルテーションの専門教育訓練カリキュラムの作成に伴う経費:3か年間に収集されたデータに基づいて提案されるカリキュラムとそれを実施する際に活用できる教材を作成するための経費である。主たる費目は、人件費・謝金900,000円(撮影・編集委託等)およびその他250,000円(調査費・印刷費等)である。また、必要に応じて図書資料の収集および投稿論文の英文校閲に関する経費を執行することがある。 なお、「CAR改訂版」と教材作成を補助事業期間の延長(1年間)を申請して実施する場合は、上記相当額を次年度に繰り越す可能性がある。
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