2011 Fiscal Year Research-status Report
ヒトはいかにして危機を察知するのか?:脅威情報の無意識的処理と神経基盤の解明
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23530952
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松本 絵理子 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (00403212)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 脅威表情 / 注意 / 脳活動 / バイアス |
Research Abstract |
生体は脅威が意識的に知覚できないほど瞬時に現れた場合でも、「粗く・素早く」処理を行い、「脅威か否か」を評価し、闘争・逃避などの適応的行動を行う必要がある。このような情報処理メカニズムは人間の認知プロセスの進化の過程で獲得されてきたものと考えられ、生存にとって重要である。しかし、閾下入力された脅威情報が、いかなる処理過程を経て評価・認識されるのかは明らかではない。申請者は怒り、笑顔、中立の表情を用いた視覚探索課題を通じて、情動刺激に対する注意のバイアスについて検討を行ってきた(Matsumoto, 2010, Applied Cognitive Psychology; 衣笠・松本, 2010, Thechical Report on Attention & Cognition)。Matsumoto(2010)では、模式的な表情線画(スキーマ)を用いて、表情間の探索効率の違いと不安特性という個人要因について検討を行った。その結果、怒り表情に対する探索は高不安の個人でより効率的になった。同様の結果は、衣笠・松本(2010)で、顔写真を用いた実験でも見られた。しかし、一部の先行研究では、脅威表情の探索について、写真刺激と線画スキーマでは異なる結果を示したものあり、「脅威」の特徴抽出メカニズムは、どのような刺激の物理的特徴に基づいて脅威か否かの選択を行っているのかは論争が続いている。このような背景から、本研究では、無意識的に入力された情報が、どのような特徴に基づいて「脅威か、否か」の選択が行われ、その結果が高次認知レベルに影響を及ぼすかについて検討することを目的とする。本研究は、脅威を察知し回避する生体の基本的防御システムの基盤を明らかにし、社会不安障害などの脅威認知に関わる病理メカニズムの解明に寄与することが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は心理学実験を中心に研究を行い、脅威刺激として人の怒り表情写真を用いて、高次認知プロセスに及ぼす影響を検討した。人の表情写真について、怒り、笑顔、中立表情に加えて、モーフィングにより人工的に作成された中庸表情を用いて表情評定実験を行い、基礎データを収集した。これらを元にして、表情刺激を意識的には処理されない条件下で課題非関連刺激として呈示された場合の中心課題に対する影響を検討し、その成果の発表を行った。成果は1. 「不安特性と表情への注意」,国際健康学総合研究センター 第一回研究会,神戸大学,2011.2. Can an angry face be ignored efficiently? The effects of emotional distractor and perceptual load.,Perception(supplement),40・217, 2011. 3. Detection process for biased target position based on the Bayesian estimation procedure.,Perception(supplement),40・206, 2011.として発表されたのに加え、学術専門誌への投稿準備中である。既に3報の発表を行うことができ、それらを通じて意識的気付きの生じない条件下で呈示された脅威表情に対するバイアスが生じること、脅威情報処理とは非関連の認知処理に影響を及ぼしうることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
閾下呈示された脅威関連情報の特徴抽出メカニズムの詳細を明らかにし、後続の認知プロセスにどのような影響を及ぼすのかを検討するため、閾下プライミング課題遂行中の脳活動を記録し、時間的に認知処理のどの段階で、後続表情のカテゴリー判断にプライム表情の影響が見られるかを検討する。上記仮説を検討するために脳波計(EEG-1100, Neurofax, 日本光電)を用いて初期視覚処理段階に関係する成分を中心に、プライム刺激に対する脳活動と、後続刺激判断に対する脳活動を分析し、初期段階の脳活動と後続の刺激のカテゴライズ段階への影響を明らかにする。特に本研究では、1)閾下呈示された刺激の空間周波数帯域の違いが、潜時100ms以下の早い成分に及ぼす影響を検討すること、2)その影響が時間的に持続するのか、後期成分で影響が見られるのかについて、時間窓を設けた解析、後期の認知判断に伴う成分の解析を併せて検討すること、の2つを主として計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
精密な視覚呈示実験を実施するために、高速で正確に画像を描画し切り替えるのに適したグラフィックボードを供えた装置を整備し実験に着手したい。また、脳活動測定実験については、今年度前半は、予備実験を行い、刺激の作成と調整、解析手法の開発を行いたい。今年度後半より行う脳活動記録実験においては、脳活動データは量的に膨大になることが予測されるため、これらを効率的かつ探索的に解析する目的で専用のソフトウエア(信号解析ツールボックス)を導入したい。さらに、信号解析の専門家に必要に応じて意見を求めるとともにデータ整理補助者を雇用し、より精密なデータ解析を行う体制を整えたい。また、国内外の学会・ワークショップ等に参加し、成果の発表並びに関連研究の情報収集を行う予定である。脳活動計測実験においては作業手数が比較的多く、実験代表者のみで遂行すると実験時間が遅延してしまう懸念があるため、実験遂行の補助者を雇用し、実験参加者にとっても快適な環境を維持するように努める予定である。
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Research Products
(5 results)