2011 Fiscal Year Research-status Report
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23530961
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
薬師神 玲子 青山学院大学, 教育人間科学部, 准教授 (30302441)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 実験系心理学 / 認知心理学 / 視覚 / 学習 / 運動視 / バイオロジカルモーション |
Research Abstract |
本研究は、これまで心理物理学的な視覚研究においてほぼ独立に検討されてきた、「その物体が何であるかの認知(物体認知)と、「それに対してどのようにアプローチすれば良いか(把握すべき場所と方法等の認知)」という二つの問題をつなぐ可能性のひとつとして、物体運動、特にバイオロジカルモーションに内在する因果構造に着目し、この因果構造を人間がどのように捉え、また利用しているのかについて検討する。具体的方法としては、ベイジアン・ネットワークを利用して因果構造を内包する運動刺激を作成し、その運動のクリティカルポイント、軌跡、逸脱運動の検出についての実験的研究を行う。 2011年度の研究では、ヒトの腕に類似した、階層構造を持つ連結物体を想定し、その運動刺激の生成モデルの構築と、運動のクリティカルポイントの検出についての予備的データの取得を行った。ヒトの腕の動きの場合、肩を動かすとそれと同時に肘や手首、指先が動き、肘を動かすと肩は動かずに手首と指先が動くというように、階層的な因果構造が内包されている。能動的に動かされた関節、またはその関節の動きを引き起こした筋肉を運動のクリティカルポイントと定義し、数種類の運動(伸展/収縮運動、屈折運動など)において、その検出課題の成績が内包される因果構造におけるレベルやノイズの種類によってどのような影響を受けるかを検討した。 運動のクリティカルポイントは、他者の動作の模倣に直接的に役立つ情報である。近年の神経科学的研究成果(ミラーニューロンに関する研究)から、このような情報は、他者の行動理解のみならず、言語理解や行動予測、様々な思考過程の基盤となっている可能性が考えられる。運動のクリティカルポイントの検出特性を直接検討した心理物理学的研究はこれまでに無く、本研究のデータは基礎データとして有意義なものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定では、2011年度は刺激生成モデルの検討と同時に実験設備を完成させ、実験研究を行う予定であった。しかし、実験場所の物理的制約によって当初設計していた実験設備に変更を加える必要が生じたことによって実験設備の完成が遅れ、当該年度における実験研究については、現行設備を用いた予備的データの取得にとどまることとなった。ただし,この予備的データの取得を通じて、今後の実験研究で用いる実験プログラムの基本部分の開発、およびデータ解析方法の検討が終了したことから、今後の研究遂行は当初予定よりも円滑に進むものと予想されるため、設備面以外での遅れはそれほど大きくないと考えている。設備面についても、2012年度の前半に完成見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度前半に実験設備を完成させ、その後、以下の4つの実験研究と、これらによって取得された実験データを説明するモデルの構築とを行う。研究1から研究3は平成24年度、研究4と研究5は平成25年度に行う予定である。研究1から4は実験研究であり、いずれの実験で用いるプログラムも、平成23年度に作成したプログラムをもとに開発を行う。研究5に関するモデルについては平成24年度から予備的な検討を始めるが、これについては平成24年度に予定している研究成果発表および資料収集訪問先で、数理モデルを専門とする研究者とのディスカッションを予定している。 平成24年度に予定している実験研究 研究1「運動のクリティカルポイントの検出における学習の影響」:運動に内包される因果構造の学習成立過程とクリティカルポイントの検出について検討する。研究2「運動のクリティカルポイントへのノイズの影響」:運動に内包される因果構造を乱すノイズが混入された場合について、クリティカルポイント検出への影響を検討する。研究3「運動軌跡の予測」:研究1、2と類似の刺激を用い、刺激消失後の端点の位置を予測する実験を行う。 平成25年度に予定している実験研究 研究4「逸脱運動の検出の検討」:因果構造に乗っ取って入るが、ほとんどの試行では生じない逸脱運動パターン、および因果構造そのものから逸脱した運動パターンの検出について検討する。 平成24年度から予備的検討を開始し,平成25年度に予定しているモデル化およびシミュレーションによるの研究 研究5「モデルと実験データの比較」因果構造を利用するモデルと、ドット運動の相関や位相等、局所的手がかりのみを用いるモデルを用いて、研究4および5の課題の出力を求め、これと人間のパフォーマンスの比較を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度からの繰越額を合わせ約100万円については、平成24年度前半に実験設備(設営ブースと実験機材の購入と設置費、およびこれに係るケーブル等消耗品の購入)に用いる他、実験用および解析用プログラミングソフトウェアのサポート代として約20万円、研究に係る資料代として約30万円を予定している。 実験補助およびデータ解析に係る2名の実験協力者の雇用(各4ヶ月)および各実験参加者に対する謝礼として、合わせて約70万円を使用する予定である。 また、本年度は国際学会およびシンポジウムで2回の研究発表と1回の資料収集を予定しており,旅費として約70万円を予定している。その他、論文作成の際の英文校閲費等として約10万円を使用する予定である。
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