2012 Fiscal Year Research-status Report
高度教職能力開発におけるナラティヴ・カンファレンス法の教育的意義に関する研究
Project/Area Number |
23530974
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
庄井 良信 北海道教育大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (00206260)
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Keywords | ナラティヴ / 教職能力開発 / 臨床教育学 / 教師教育 / 生徒指導 / 授業研究 / 質的研究 / フィールドワーク |
Research Abstract |
今年度は,高度教職能力開発に資するナラティヴ・カンファレンス“NCM”の実際を,教育現場における生徒指導上の実践事例(18件)や,学習指導上の実践事例(6件)への臨床的参画を通して蒐集した。また,この理論とその方法論的な枠組みを明らかにするために,内外における研究資料を蒐集し,その成果を国際学会等で発表した。具体的には,以下の研究活動を遂行した。 ①:現職教師教育カリキュラムの改善に関する内外の研究文献・資料の収集と整理を行なった。②:対人援助・発達援助活動においてナラティヴ・アプローチを応用した質的研究に関する内外の研究文献・資料の蒐集と整理を行った。①,②の成果は,日本教育学会の特別課題研究委員会(現職教師教育カリキュラムの教育学的検討)における報告書において「ナラティヴ・ベースの教師教育カリキュラム開発の試み-北海道教育大学大学院における臨床教育学履修体験の考察から」という論文として発表した。③:海外における研究資料収集として,モスクワ大学において「活動理論とナラティヴ・アプローチ」に関する研究文献・資料の蒐集と整理を行うことができた。④:理論的な枠組みを精査するために,ナラティヴ・ラーニングに関する文献を翻訳し,刊行の準備を進めることができた。⑤:臨床教育学のフィールドワークに基づくナラティヴ・カンファレンスに関する日本での取り組みを,2012年7月にモスクワ心理教育大学(MSUP)で開催された国際学会(ISCAR)の夏季セミナーにおいて発表し,研究交流を行うことができた。⑥:“NCM”をベースにした臨床参画によるフィールドワークを,檜山郡上ノ国町の小学校,北海道教育大学附属札幌小学校,北海道内公立小学校における授業研究で試行した。⑦:ナラティヴ・カンファレンス法の教育的意義を「当事者研究」として深めるための集団インタビュー調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ナラティヴ・カンファレンス法(“NCM”)が高度な教職能力開発においてどのような教育的意義を有するかという課題について,当初の計画以上に,理論的にも,実践的にも,深めることができている。 一つには,教育現場におけるフィールドワークとして,このカンファレンス法を応用・検証する機会が当初計画していた水準を超え,生徒指導上の実践では18件,学習指導上の実践では6件,総計24件(当初の計画の1.5倍)のエピソード記録として蒐集することができている。具体的には,このカンファレンス法をベースにしたフィールドワークを,北海道檜山郡上ノ国町の小学校,北海道教育大学附属札幌小学校,北海道内公立小学校で試行し,北海道教育大学札幌校における生徒指導のカンファレンス(18事例)として試行し,その裏付けとなるべきナラティヴ・カンファレンス法の教育的意義を「当事者研究」として深めるための集団インタビュー調査を実施することができた。この展開も,当初計画以上の収穫である。 二つには,このカンファレンス法の理論的基礎付けの作業が,フィンランド,カナダ,ロシアという複数の国々の拠点大学との研究交流を通して多角的に進めることができた。当初予定していた国際的交流の枠組み(フィンランド)を越えてその理論の検証作業が深化している。具体的には,モスクワにおいて,活動理論とナラティヴ・アプローチに関する研究文献・資料の蒐集を行い,ナラティヴ・カンファレンス法の理論と実際に関する日本での取り組みを発表することができ,フィンランドのオウル大学の研究者との共同作業として「ナラティヴ・ラーニング」に関する文献の翻訳が刊行予定となり,カナダのアルバータ大学で,臨床教育学とナラティヴ・アプローチに関する情報交流ができた。以上の観点から,当初の計画以上の達成状況にあると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である本年度は,①:過去7年間に延べ150名の現職教員を対象に,蓄積してきたナラティヴ・カンファレンス記録と,そこに参加した当事者への聴きとり記録を,臨床教育学の視点からコーディングした上で本研究の理論仮説(生成的問い)を再構築する。②:広島及び北海道内の研究協力校への“NCM”を応用したフィールドワークを継続し,臨床教育学的なエピソード記録を蓄積し,その教育的意義を分析する。③:フィンランドのオウル大学,リトアニアのヴィリニュス大学,ロシアのモスクワ心理教育大学(MSUP),又はカナダのトロント大学等で,この研究課題に関する国際的な共同協議を重ね,多くの現職教師教育の現場で応用可能な“NCM”の国際的な基準となるカリキュラム案を構築する。④:これらの研究を通して,高度教職能力としての<臨床知>の理論的枠組みを明らかにし,教育系大学院における現職教師のリカレントや教職・専門職大学院における高度職能開発プログラムにおける臨床教育学的な改革案を構想する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①:国内における研究資料蒐集の実施(東京大学、武庫川女子大学)に12万、②:国内におけるナラティヴ・カンファレンス法(NCM)にもとづくフィールドワークとエピソード記録の蒐集(広島県公立小学校2回)に14万、③:海外研究資料蒐集及び研究協議(フィンランド、リトアニア、ロシア)の実施に38万、④:最終年度:国際学術学会誌等への投稿(英文の推敲と校閲)に3万、⑤:ナラティヴ・カンファレンス記録の資料整理及び基礎的コーディング作業の研究補助・協力者への謝金に24万、⑥:ナラティヴ・カンファレンス参加者(教職又は発達援助職としての当事者)への教育効果に関するインタヴュー調査への謝金に15万、⑦:記録用のSDメモリーカード等の消耗品に4万。
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Research Products
(7 results)