2011 Fiscal Year Research-status Report
インドネシアにおける多文化共生をめざした道徳教育カリキュラムの開発に関する研究
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23530992
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
野平 慎二 富山大学, 人間発達科学部, 教授 (50243530)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | インドネシア / 道徳教育 / 多文化共生 / 国際情報交流 |
Research Abstract |
1.インドネシアの小学校における道徳教育の実態調査(文献調査) インドネシア(バリ、ジャカルタ)の公立小学校2校を訪問し(2011年9月)、教育課程における道徳教育の位置づけ、および現行の道徳教育の目標・内容にかんする実態調査と資料収集を行った。2011年版の最新の教育課程では、道徳教育は学校の全教科をとおして実施することとなったこと、および学校教育全体にかかわる道徳的な理念として2011年から「人格教育」という理念が掲げられたことが明らかとなった。「人格教育」という理念のなかに多文化共生にかかわる要素がどのような形で含まれているか、それが学校の全教科をとおした道徳教育のなかでいかに実践されているのか、を解明することが今後の課題として確認された。道徳教育の方法論にかんする資料については引き続き収集する必要がある。2.道徳教育において形成されるべき多文化共生概念の検討 日本の教育哲学における議論を中心に、多文化共生概念に関する資料収集と検討を行った。とりわけ、多文化共生にかかわる概念のうち、文化的アイデンティティ、および相互理解と寛容の概念について考察を深めた。文化的アイデンティティの概念については、文化ごとに相対的に独立したものである一方、ひとつの文化のなかでも複数的、重層的なものである、などの特徴が明らかとなった。また、寛容の概念については、相互理解のためには実践的には重要である一方、理論的には「道徳的に悪と判断される行為を許す」という矛盾した性格をもつものである、などの特徴が明らかとなった。こうした考察の成果をもとに、引き続き実践的なレベルでの相互理解や共生の概念について解明していくことが今後の課題として確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の研究計画として設定していたのは、(1)インドネシアの小学校における道徳教育の実態調査(文献調査)、および(2)道徳教育において形成されるべき多文化共生概念の検討である。 (1)については、インドネシアの教育課程における道徳教育の位置づけ、および現行の道徳教育の目標・内容にかんする調査を行い、おおむね予定どおりの資料収集を行うことができた。インドネシアでは必ずしも全国一律に最新の教育課程が実施されているわけではないため、より個々の地域や学校の実態に即して調査と資料収集を行う必要がある。また、道徳教育の方法論にかんする資料の収集や、収集した資料の分析について一部不十分なところがあるため、次年度以降に取り組む必要がある。 (2)については、日本の教育哲学の分野での議論を中心に、多文化共生概念の理論的検討を行った。多文化共生の下位概念である文化的アイデンティティ、相互理解、寛容等の概念については、おおむね予定どおりの検討を行うことができた。他方、国際理解教育や異文化理解教育等、実践学的な分野での議論についてはまだ確認しておらず、次年度以降確認していく必要がある。また、文化的アイデンティティの形成や相互理解・寛容のプロセス等、生成ないしは変容の内実に関する考察も十分とはいえないので、引き続き作業を進めていく必要がある。 以上のような進捗状況により、おおむね順調に進展しているものと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.インドネシアの小学校における道徳教育の実態調査: 小学校における道徳教育の訪問調査を実施する。インドネシアでは、学校教育全体にかかわる道徳的な理念として2011年から「人格教育」という理念が掲げられた。したがって、「人格教育」という理念のなかに多文化共生にかかわる要素がどのような形で含まれているか、それが学校の全教科をとおした道徳教育のなかでいかに実践されているのかを、聞き取り調査を通して明らかにする。調査対象は教師ならびに児童生徒とし、調査方法は質的な聞き取り調査を中心とする。なお、道徳教育の方法論に関する文献資料も引き続き収集し、訪問調査とあわせて分析する。 2.道徳教育において形成されるべき多文化共生意識の明確化: 引き続き、道徳教育において形成されるべき多文化共生意識の明確化を図る。特に、国際理解教育、異文化理解教育等の実践学的な分野での議論について、検討していく。また、文化的アイデンティティの形成や相互理解・寛容のプロセス等、多文化共生に向かう生成ないしは変容の内実に関する考察も進めていく。 3.多文化共生意識の形成をめざした道徳教育カリキュラムの開発と検討: 上記の作業を踏まえて、多文化共生意識の形成を目指した道徳授業カリキュラム(内容と方法)を検討する。開発したカリキュラムは、研究協力校の協力を得て実践する。実践後は、教師と児童生徒に対して訪問調査を実施してその効果を検証し、実践前の訪問調査の結果と比較することで、多文化共生意識の形成ないしは変化の度合いを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の主たる使用計画(使途)は次の2点である。1.文献資料の収集・翻訳 インドネシアにおける道徳的な教育理念である「人格教育」に関する文献資料、並びにインドネシアの道徳授業の方法論に関する文献資料を収集、必要部分を翻訳し整理・検討する。また、国際理解教育、異文化理解教育等、実践学的な分野における多文化共生概念に関する文献資料を収集し、整理・検討する。平成23年度は、「人格教育」と道徳授業の方法論に関する文献資料の収集と翻訳が一部不十分であったため、研究費の使用額が当初の使用計画に達しなかったが、その未達成分は平成24年度中に充足できる見込みである。2.訪問調査・情報収集 インドネシア(バリ、ジャカルタ)の小学校を訪問し、主に聞き取りによって道徳教育の実態(教育課程における「人格教育」の位置づけ、全教科を通した道徳教育の実態、道徳教育の方法論等)を調査する。調査の際には通訳者を依頼する予定である。小学校での訪問調査と並行して、海外共同研究者と研究の内容や進め方についての打合せを行う。日本国内においても、上記の文献収集と並行して、関連する研究機関を直接訪問し、国際理解教育や異文化理解教育等の研究成果に関する情報収集を行う。
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Research Products
(1 results)