2012 Fiscal Year Research-status Report
インドネシアにおける多文化共生をめざした道徳教育カリキュラムの開発に関する研究
Project/Area Number |
23530992
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
野平 慎二 富山大学, 人間発達科学部, 教授 (50243530)
|
Keywords | インドネシア / 道徳教育 / 多文化共生 / 国際情報交流 |
Research Abstract |
1.インドネシアの小学校における道徳教育の実態調査: 平成24年度に引き続き、インドネシア(バリ・ジャカルタ)の公立小学校2校を訪問し(2012年7月)、教育課程における道徳教育の位置づけ、道徳教育の目標・内容・方法に関する実態調査と資料収集を行った。2011年のカリキュラム以降、インドネシアでは道徳教育は特別の時間においてではなく、全教科を通じて行われている。また、小学校での道徳教育は17の内容項目に整理され、各教科においてどの内容項目が扱われるべきかが設定されている。しかし現実には、教科指導と並行して道徳の指導を行い、また児童生徒の道徳性を評価することは難しいと教員側に認識されていることが明らかになった。 2.道徳教育において形成されるべき多文化共生意識の明確化: 異文化理解教育や多文化主義に関する理論を中心に、インドネシアの道徳教育において形成されるべき多文化共生意識について検討した。多文化共生が、異文化理解と自己理解の促進、社会不安の除去、経済活動の促進等に資するという点ではいずれの議論も共通している。一方、国民国家の相対化とグローバル化を背景として、文化や民族の独自性と国家への帰属性の均衡をどう取るかという点では、全体融合的なもの、個別自治的なものなど、いくつかの多文化共生の類型が考えられる。インドネシアの場合、国家への帰属意識は各民族・文化に共通していると考えられ、その枠組みのなかでの相互理解をいかに深めていくかという点が課題となることが明らかになった。 3.道徳教育カリキュラムの開発と検討: 人格教育という理念における道徳教育の位置づけについて考察した。道徳教育は人格教育の全般的な基礎であることが明らかにできたが、上記1に関連して、全教科を通してどのような道徳教育カリキュラム、道徳教育実践が可能なのかは、引き続き検討する必要がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画は、以下の3点であった。(1)インドネシアの小学校における道徳教育の実態調査、(2)道徳教育において形成されるべき多文化共生意識の明確化、(3)多文化共生意識の形成を目指した道徳教育カリキュラムの開発と検討。 このうち(1)についてはインドネシアの公立小学校2校を訪問し、教育課程における道徳教育の位置づけ、道徳教育の目標・内容・方法に関する実態調査と資料収集を行うことができた。(2)については、異文化理解教育や多文化主義における議論を中心に、国民国家への帰属性と各民族・文化の自律性との関連、文化と個人との関連、文化的アイデンティティの形成過程と異文化との関わり、などについて考察を深めることができた。また、インドネシアにおける多文化共生を目指した道徳教育の課題として、国家帰属を基盤としていかに各文化の相互理解を促していくか、という課題を指摘することができた。(3)については、人格教育における道徳教育の位置づけについては解明を進めることができたものの、全教科を通じた道徳教育における道徳性の育成の体系化や、その具体的な実践方法についての検討は十分とはいえない。開発したカリキュラムを研究協力校の協力を得て実践し、その効果を検証するまでには至らなかったので、平成25年度中に実践と検証を行いたい。 以上のような進捗状況から、おおむね順調に進展しているものと評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究計画は以下のとおりである。 1.インドネシアにおける多文化共生を目指した道徳教育カリキュラムの開発: 平成24年度までに明らかになった人格教育の理念、およびそこでの道徳教育の位置づけ、小学校における道徳教育の内容項目と全教科を通じた道徳性の育成の方法、多文化共生の概念と意識に関する理論的検討、インドネシアにおける多文化共生実現に向けての課題等を踏まえ、インドネシアの小学校における多文化共生概念を目指した道徳教育カリキュラムを開発する。開発にあたっては、文献の整理と理論的検討のほか、インドネシアの研究協力者と連携を取りながら作業を進める。 2.インドネシアにおける多文化共生を目指した道徳教育カリキュラムの実践と検証: 上記により開発したカリキュラムを、インドネシアにおける研究協力校の協力を得て実践する(協力校としては、バリとジャカルタの公立小学校各1校を予定)。実践後は、教師と児童生徒に対して聞き取り調査を実施してその効果を検証し、実践前の訪問調査の結果と比較することで、多文化共生意識の形成ないしは変化の度合いを明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費の主たる使用計画(使途)は次の2点である。 1.文献資料の翻訳と整理 平成24年度に引き続き、インドネシアにおける教育理念である「人格教育」に関する文献、および道徳教育に関する文献を収集・翻訳し、必要部分を整理する。平成24年度までに主要な部分についての翻訳と整理は終了しているものの、なお一部不十分な部分があり、平成24年度研究費の使用額が当初の使用計画に達しなかったが、未達成分は平成25年度中に充足できる見込みである。この作業をもとに、インドネシアの小学校における多文化共生概念を目指した道徳教育カリキュラムを開発する。 2.訪問調査と効果の検証 開発した道徳教育カリキュラムをインドネシアの研究協力校で実践するにあたり、現地を訪問して実践の状況調査と事後の検証を行う。実践にあたっては、研究協力校および海外共同研究者と連携を取りながら作業を進める。事後の検証は、教師と児童生徒に対する聞き取り調査によって行う予定である。また、調査の際には通訳者を依頼する予定である。
|